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魔道具屋には今日も  作者: ゆおね
5/10

05

私が掃除を始めた時にはまだ日が出ていたのに、一段落ついた頃には窓の外では星がきらきら瞬いていた。

「あっ!夕飯!」

料理をするためにしていた掃除だったのに、気付いたら掃除に夢中になってて忘れてた。

「ティシールさん怒ってないかな……」

不安になって呟く。とりあえず先に謝りに行こう。



階段を下りて作業場に行く。ティシールはまだ作業しているのかな、と覗いてみると、ティシールは机に突っ伏して寝ていた。

「ティシールさん?あのー」

「ん……」

むにゃむにゃ言いながらティシールはゆっくり起き上がり、こちらに顔を向けた。

「ミリエットか、どうした?」

「えっと、台所の片付けに手間取りまして……夕飯を作るの今からになるんですがいいですか?」

「ああ、もうこんな時間か。遅いし、私はいらない。食べたかったら作って食べてくれ」

時計を確認しながら若干寝惚けた声で言うティシール。

「だめです!夕飯を抜くのはよくありません!」

夕飯を遅れさせたのは私だが、それでも食べないのは良くない。お腹の減った状態ではよく眠れないし、もちろん美容にも悪い。ティシールはどうなのか知らないが、1食抜くということは次のご飯でがっつく原因にもなりやすい。

「好きにしろ。私は風呂に行ってくる」

素っ気ない返事を残してティシールは行ってしまった。

一人作業場に残された私はしばらく呆然と立ち尽くしていたが、はっと我に返る。

「夕飯作らないと」

大急ぎで階段を上って台所に戻り、先ほど綺麗にしたばかりの鍋に水を張り火にかけた。

一角にまとめて置かれている食材をざっと見て、何を作るか考える。

とりあえずスープは絶対だ。明日の朝にそれを使ってリゾットとか作りたいし。

目に入ったのは麻袋に詰められた小ぶりのイモ。私のいた地方でもよく使われていた種類のものだ。

今日の料理は決まった。お腹が空いているので、思わず笑みがこぼれる。

私はそのイモといくつかの野菜を手に取り、ちょうどよい大きさに切っていった。



スープを煮込んでいると、風呂を出たのかティシールが後ろに立っていた。

興味深そうに私がかき混ぜているスープを覗き込んでいる。

「もうすぐ出来ます。できたら呼びますよ」

後は風味付けのためにスパイスをちょっと入れるだけ。店先に置いてあったのより多くの種類のハーブがここの台所には置かれていたのだ。棚を開けたら大量のハーブやスパイスのビンがあったのには驚いた。ほとんど使われておらず、宝の持ち腐れもよいところである。

「見たことないスープだが、ミリエットの地方のか?」

「はい。でもここにはハーブがいろいろあるので、家のとは少し変えてみました……ところで、ティシールさんはどこの人なんですか?ここですか?それとも他の地方の出身……」

私はそこで言葉を止めた。一瞬ティシールの表情が曇った気がしたから。

「カペル・トワだ。この国の南の方」

「あっ、聞いたことあります。昔の建造物がたくさん残ってるとこですよね」

ティシールはそれ以上は何も言わない。まああんまり聞いてほしく無さそうだったからよかったのかもしれない。

「できたら呼びます。待っててください」

「ああ」

そうとだけ言ってティシールはいなくなった。

台所がかなりきれいになったことに関しては無反応だったな。少し悲しい。

気を取り直して細かくしたスパイスを鍋に入れる。少し味見をして味を調整したら完成だ。

深めのスープ皿によそって、スプーンと一緒にティシールのいるであろうリビングに持っていく。ティシールはこちらを見て読んでいた本から顔をあげた。

ちなみに夕飯はスープだけだ。ティシールはそこまで食べたくないみたいだから、具だくさんのスープにしておいた。イモがゴロゴロ入ってるから主食にもなる。

私がスプーンを渡すと、ティシールは少しスープをすくって匂いをかいだ。

「これはディルか」

私が机につこうとするとティシールが呟いた。

「はい、ディルには心を落ち着かせる効果があるので使ってみました。安眠によいそうです」

私はそこで気になっていたことを聞いてみた。

「そういえばティシールさんはどこであのハーブを手に入れているんですか?ハーブってけっこう高いですよね」

棚に入っていた大量のハーブやスパイスの入ったビン、店で販売している分も含めれば、個人で栽培するには無理がある量だった。

「知り合いから貰うんだ。まあいくつかは私が栽培してるのもあるが」

「タダでですか?」

お世辞にも儲かっているとは思えない店だ。買ったと考えるより貰ったと考える方が自然だろう。

「まあな……一回カウンターをやってみてわかったと思うが、ウチは儲かっていない。台所にあった食べ物も全部貰い物だよ」

金持ちの知り合いでもいるのだろうか、あれだけ大量のハーブに食べ物まで、そんな知り合いがいるのに何であんなにお客さんが来ないんだろう。

「それって危ない知り合いじゃないですよね」

あんまり表に出てこないような、危ない組織の人……とか。

「いや、知らない奴はいないと思うぞ。まあ私としてはあんまり関わりたくないんだが」

それは悪い意味で有名という意味でしょうか。

「誰なんですか、その人」

「ここにいればそのうちわかる。まっ、その前に仕事が見付かるだろ」

そして再びスープを啜るティシール、これもまた、聞かない方がよかったものなのだろうか。

私はスプーンを手に取り、冷めないうちにとスープを口に含んだ。



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