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魔道具屋には今日も  作者: ゆおね
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04

夕方になったが結局、お客さんは来なかった。あっ、エルヴァンを数えれば一人か。

いくら人通りが少ないとはいえ、エルヴァン以外誰も来ないなんて……

「お疲れ様、誰も来なかっただろ。奥案内するからその黄色いビーズのついた紐引っ張って、防犯系の魔道具が動くから」

言われて上を見る。たくさんあるな、黄色いビーズってどれだろ……あっ、あった。

引っ張ると指先にカチリという小さな振動が伝わる。これでいいのかな。

「それでいい。こっち来て」

私は立ち上がって店の奥に入る。そこは工房らしい部屋になっていた。

「ここが作業場、置いてある工具には触るな、壊れるとかじゃなくて危ないから」

作業をするところだからてっきり汚いのかと思ったけど、きっちり道具とか並んでて掃除も行き届いていた。

にしても見慣れないものばかりで好奇心をくすぐられるな。

いくつもの引き出しがついた棚の上には薬品の入っているらしいビン、ノコギリやハンマーはもちろん、窯や満杯の水で満たされた水槽の他、何に使うのかわからないものがあちこちにある。

机の上には先ほどエルヴァンが預けていった悪魔書が置かれていて、その横になぜかカタカタと小刻みに震えるビンが、机に刻まれた魔方陣の中心に乗っていた。

「ティシールさん、あれは……」

「エルヴァンの悪魔書に封じられてた悪魔だ。修復の間に悪魔書の中にいられると邪魔だし、下手すれば怪我させるから一時的に簡易陣でビンに封じてある。次は台所、こっちだ」

作業場を出て、階段を上る。

2階に到着して、ティシールについてソファーと机が置かれただけの殺風景なリビングを抜けると、台所に到着した。

「……なんですか、これ」

私は絶句した。

連れてこられた台所はさっき見た作業場とはまるで正反対。

無造作に積み上げられてた皿、汚れがこびりつかないようにするためなのか水に浸ったままの鍋とフライパン、ゴミ箱から転がり落ちている野菜の皮や食べ残し……

「どういうことですか!?作業場があれだけ綺麗に保てるなら台所も掃除しましょうよ!」

どうなっているんだここは。ここだけ魔窟だ、ゴミ屋敷といっても過言ではないと思う。それくらい汚い。

「ゴミとかチリが魔道具に入ると不具合が出るから」

「食べるものには入っていいんですか!?」

作業場も大事だとは思いますけど、台所だって大切ですよ。人の活動の源です、楽しみじゃないですか。

それに、私の趣味は料理だ。だからなおさら許せない。

「週に一度掃除する。明日掃除する予定だったから今日が一番汚いだけだ」

じゃあ1週間の積み重ねでこうなっていくのか。

……私が来たからには、毎日綺麗な台所にしてやる。いや、いつも綺麗なのが当たり前だ!

「今から掃除します……いいえ、させてください!」

「そうか?じゃあ頼む」

結構本気で言ったのに、だいぶ軽い返事で終わったな。

まあ、今日貰ったもののお礼として、私にできるのはこれくらいだしね。どこから片付けよう……

「夕飯はどうする?できれば先に作ってほしい」

「こ、この台所でですか」

野菜切ったりするのとかどこでやればいいんだろう。食材が一ヶ所にまとまって置かれていることだけが救いである。

「普段何を食べているんですか?」

「何って、そこにあるのを適当に炒めて、買ってきたパンと食べる。掃除した日はスープを作って置いとく。だから三日間くらいスープもあるな」

……想像していた以上に酷い食生活をしていた。いつ体調を崩してもおかしくない。しかもこんなに汚れた台所で。

「食材は、何を使ってもいいですよね?」

「ああ、だがなんでそんなに怒っているんだ?」

ティシールは私が怒っていることは察せても、なぜかはわからないらしい。気付いてくださいよ、この台所はあり得ませんって。

「少し掃除してからすぐ栄養バランスの良いものを作ります。少し待っていてください」

とりあえず調理器具は今すぐ綺麗に洗いたい。それに作業スペースと火と水の確保と、料理用の食器の用意。

「火とか水はどこにありますか?」

「火の魔道具がそのフライパンとかの横、水道は皿のあるとこだ。じゃあもう少し作業してくる。できたら呼んでくれ」

頑張ってください、とティシールを台所から出し、現状を確認する。

調理器具は水に浸っているから汚れは落ちる。問題は食器だ。汚れが乾いてこびりついていた。

ここには食器棚というものがないのか、それらしいものは見当たらない。そこなら綺麗なお皿があると思ったんだけど。

シンクに置いてあったスポンジに洗剤を付けて、それを手に取る。さて、やるか。

場所を取っている汚れたままの調理器具たちから手をつけよう。

フライパン、鍋、小さいフライパン、片手鍋……大きいものから洗って積んでいく。濡れたままだけど後で拭けば問題ない、今はとにかく洗って洗って積む。

最後の鍋の蓋を洗い終える、調理器具を洗うだけで疲れた。確かに料理が趣味だったから、洗い物くらいできる、それでもこんなに大量の調理器具を一度に洗うなんてことはなかった。レストランの下働きの人ってこんな気分かな。大変だなぁ。

しみじみとそう思いながら、次は食器に手を伸ばす。一番上は水分が残ってるから洗えるだろうけど、一番下のはどうしよう。カリカリに乾いてる。

とりあえず上の洗えそうなのは洗って、さっき洗った調理器具の横に並べる。

残りは水を張った大きい鍋に浸けておくことにした。せっかく洗ったけど仕方ない。掃除には思い切りも必要だから。

だいたい洗い終わると、シンクには野菜の欠片やらのゴミが溜まっていた。

ゴミ箱に捨てようとしたら、ゴミ箱もとんでもないことになっていることを思い出す。

近くにあった袋と取りかえてゴミを詰め込む。半分くらいいっぱいになった。

調理器具と食器を拭こうと布巾を探すが、汚れが染み込み、まるで雑巾のようになった布巾らしきものが床に放置されているだけだ。

私は迷うことなくそれをゴミ袋に突っ込む。

いったいいつ料理ができる台所になるのだろうか。

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