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改正  作者: 工場長
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最終回 議事堂から見る空

 隼人たちの車は首都高速自動車道に入った。その事は車の後ろを警護するパトカーから無線を通じて議事堂を守る神取たちに伝わった。

「いよいよですね……課長」

 角田刑事が緊張の面持ちで神取にお茶を差し出す。

「岡部さんが車に乗っていないのは残念だ……。なぜこんな事件を起こしたのか話を聞きたかったのに……」

 息を吹きかけることも無く、神取は一気に飲み干した。勢いよく、手に持った紙コップを投げつけようとしたが、公共の場である事を悟り、そのまま握りつぶした。

「大丈夫ですよ、この後も話せる機会はきっとあるはずです」

「そうだな……。一課を離れてしまえば難しくなるだろうがなんとか上司にお願いして私が直接取調べをしたいものだ。」

 昼には暖かな光を送り続けていた太陽はすでに西の空へと沈んだ。街の気温は下がっていく一方なのに、この議事堂の前だけは時間が経つに連れて被害者の家族、警察、政治家、報道陣、野次馬などが集まり、その体温と吐く息で温度が上がり続けている。

 神取は角田にお茶を頼んだ事を少し後悔し、上着を脱いだ。

「神取課長、この事件の後は刑事部長への昇進が内定したそうですね、おめでとうございます」

 どこからその話を聞きつけたのか、刑事や警官たち――しかし、一課の人間ではない――がそれぞれに彼を囲い口々に同じ事を言う。本心からお祝いを言っている者もあれば、そうでない者もいる。神取にしてみれば、そういう人間の選別など簡単だった。

「勝手に持ち場を離れては困る!」

 神取が一喝した。周りを囲んでいた刑事たちは彼の部下を残して怯えるように配置へと戻った。それにより神取の視界が少し開けた。僅かに見える開かれたゲートを彼はじっと見つめた。車が現れるまで、一歩も動く気は無い。


 二十分後、車はついに国会議事堂の前に着いた。二台の車の周りをたくさんの人が取り囲んだ。正面ゲートを少し過ぎた辺りで、政也らが乗るワゴンが停止した。これは隼人たちの車を少しでも議事堂へ近づけるために野次馬を引きつけるための作戦であった。

 大きな歓声と共に、ワゴンの周りには大勢の人が詰め寄った。ドアが車内から開けられると、直子ら四人の人質がその人々の中へと消えていった。程なくして、政也もその中へと飛び込んでいった。

 浩子はその様子を最後まで見る事ができなかった。後部座席から後ろを見ていた浩子は不意に助手席に頭をぶつけた。里美が車を止めたのだ。

「着いたぞ」

 浩子は隼人の方を向く。隼人が親指で示したその先には祖父の景正の姿があった。

(少しやつれたな……)

 再開の喜びと自分のためにどれだけ苦しんだ事かという思いに、浩子は胸が熱くなった。

「とうとうお別れか」

 運転席の里美がエンジンを切り、シートベルトをはずすと、助手席の明美にもそれを促した。

「じゃあ隼人、あたし先に行くね」

 いつにも増して里美の声は元気だった。

「ああ、ずっと待っていてくれ。」

「うん」

 隼人の返事に笑顔で応えると、里美は明美を見て大きくうなずいた。

 そして二人は同時に外へと飛び出した。

「今、車の中から二人の女性が出た模様です。容疑者なのか、人質なのか……、確認できません!」

 どこからか女性アナウンサーの苦しそうな声が聞こえる。浩子は顔を左右に振り二人の姿を探したが、すでに見えない。

「俺たちも出るぞ」

 浩子は隼人に引かれ、外へと出された。


(暖かい……、やっぱり山とは違うわ……)

 浩子を囲む周りの空気を彼女はこう感じた。

「浩子!!」

 名前を呼ばれてはっと我に返ると、目の前に景正がいた。

「おじい……」

 ちゃん、と叫んで駆け寄ろうとしたが、隼人が彼女の腕をしっかりと掴んでいる。

「総理……、お体の具合はどうですか」

 少し笑みをうかべて隼人が景正に尋ねる。景正も微笑し、

「君たちにやられるほど私は弱くないよ」

 その後、両者は微動だにせず互いを見つめた。両者の間を割って入るものは誰もおらず、人があふれる議事堂前で一つの空白地帯ができていた。

 隼人はさりげなく浩子の手を離した。浩子はそれに気づかずその場を離れなかったが

「浩子!!」

 それを見逃さなかった景正が浩子の右腕を取り、抱き寄せた。

 次の瞬間、景正は右手を大きく上げる。それを合図に神取ら捜査一課の刑事たちが隼人に飛び掛った。隼人は抵抗することなく彼らに飲み込まれた。

 隼人らを飲み込んだ人ごみは浩子にも迫っていた。少しでも話を聞こうとする報道陣、それを守ろうとする警官や秘書たち浩子はそれらの中でもまれにもまれた。

 カメラのフラッシュの眩しさと、息苦しさ、体がぶつかる痛みから逃れようと浩子は上を向いた。空がある。山の中より見える星の数ははるかに少なかった。


       〜改正・完〜

 数年前よりニュースで取り上げられてきた少年犯罪と少年法、それに関する政治の動き――。それらに対しての自分の思いを書いてみました。

 少年犯罪に対しての国の対応はこの作品を最初に書いた頃より変わってはいますが、まだまだ議論すべきところがあると思います。

 ここまで読んでいただき、ありがとうございまさいた。また別の作品でお会いしましょう。ではでは

 

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