ぼくにも出来る事 a-5
郊外の安い土地、住宅街から離れた場所に僕の家はある。門と柵で侵入者を許さない、三階建ての自慢の我が家だ。
たっぷりと頂いた給料で建てた僕の家は、彼女の屋敷に比べれば犬小屋程度だが、一般的な価値観を持ってみれば金持ちの家と呼ばれる部類だ。彼女の家が豪邸なら、僕の家は邸宅だろう。
「ただいま」
返事が返って来る事がないのは解っている。それでも一応、ペットの子猫に帰宅を知らせてやる。三階建てで横にも結構広いのでどこにいるのか解らないが、家からは勝手に出られないので問題ない。
「今ご飯作るから」
返事は返ってこないと解っていても、ついつい話しかけてしまう僕。自室に鞄を置いて、制服からルーズなパーカーとズボンに着替え、僕はキッチンに向かった。
オール電化のキッチンで、調理器具はそこそこある方だと思う。炊飯器でご飯を炊き始めながら、晩ご飯を何にするか考える。
「タマネギは辛いから駄目って言ってたか……」
じゃあネギトロ丼にしよう。タマネギが駄目なら、長ネギを食べれば良いじゃない、なんて言ってみる。言ってる事は違うけど、意味的にはマリーアントワネットと似たような事をしている。
「ご飯だぞ〜」
僕がそこそこ大きな声を張り上げると、虚しく僕の声が家中に響き渡った。
しばらく、嫌な沈黙が家の中に漂う。
と、二階から重い足を引きずるように、気が乗らないと態度で示しながら、ペットが降りて来た。いつも通り、可愛気がない奴だ。
「いただきます」「……」
僕が喋って、ペットは何も言わなかった。
つゆを掛けて、ネギトロがご飯の熱でシーチキン色に変わる前に頂く。ちなみに、長ネギは入れなかった。でもトロ丼は変なので、ネギトロ丼と呼称する。
「ごちそうさまでした」「……」
僕が喋って、ペットはやっぱり何も言わなかった。けど、少し頭を下げた、ような気がした。きっと気のせいだろうけど。
茶碗洗いをしながらお風呂を入れ、お風呂に入ったあとそのお湯を使って洗濯をする。節約節約。基本的に夜中はさっさと寝る。電気代が勿体無いからだ。そのかわり、朝早く起きて好きな事をするようにしている。そして学校でも寝る。
実は、彼女の家で従者をやっていたのは、もうとっくに首になっていたのでした。
貯金は結構あったのだけど、僕には収入と言うものが無かった。バイトをしようといき気力も沸かなかった。学校で禁止されていたし、それを破ってまで働きたいとも思わなかった。
そう、やっぱり僕は[怠惰]だったのだ。
「今日も平和な一日だったよ」「……」
そう言いながらペットのお腹を足で突つく僕。鬼畜だ。
無言で何か言いたそうに僕を睨む子猫ちゃん、のお腹をぶみぶみする僕。やっぱり鬼畜だ。
まあ、だって、悪魔の契約者ですから。
次回から、『超能力』が話に絡んできます。