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ぼくにも出来る事 a-3

「……きろ」


 やめてください、そんな……。それはさすがに……。

 良いではないか、減るものじゃあるまいし……。

 お代官プレイ? 変わった趣味……。


「起きろ!」


 バンッと机が強く叩かれ、僕は目を開けた。

 目の前に立っていたのは、三十代後半の男。スーツ姿で、教本を片手に持っている。それが僕の机を傷つけた獲物か。引き裂いてやろうか?


「ったく、お前、どうしたんだ? 二年に進級してから碌に授業聞いていないだろ!」


 僕が立ち上がって教本を引き裂くのより速く(もとよりそんな気違いの真似をするつもりはないし、教本は厚くて引き裂けないだろうけど)、男、数学の教師は鼻息荒く顔を真っ赤にして文句を言い出した。その鼻息の荒さ、風力発電でも出来そうな程に。その怒りで真っ赤な顔、目玉焼きでもやけそうな程。

 エネルギーの無駄だな、僕を怒ったって誰も幸せにはならないのが解らないのか? もっと効率よくエネルギーを使えよ。まあ、ストレス発散は大切だけどさ。


「去年のお前は授業中寝るような奴じゃなかったぞ? 授業を真面目に受けて遅刻欠席もなし、成績も文句無し。模範生の鏡と言っても良かった」


 模範生の鏡は、ただの模範生でしょ。いや、鏡で反転されて今に至ったと考えれば、その表現は言い得て妙かも。


「それがなんだ? 遅刻欠席は一学期だってのに週に一回はある。授業に出たと思えば寝てるし。中身が入れ替わりでもしたのか?」


 入れ替わりはしないけど、中身が変質したかもしれませんね。

 どうにもこの先生、この他の先生の意見も代弁してくれたようだ。かなり長ったらしく、一年のときの僕を褒めて、それこそ他の先生がどう僕を評価していたのか詳しく語ってくれ、そして今の僕の怠惰な様を否定する。要約すれば、一年の僕と今の僕を比較して前に戻れと言う事だった。


「こんなんじゃどこの大学も受からんぞ! 俺は知らんからな!」


 そう締めくくって教壇へと戻る先生の背中に僕は語りかけた。聞こえないのを装った、でも聞こえる程度の声量で。要は、嫌味ったらしく聞こえるように。


「僕が勉強しているのは、大学に入るためにでも、良い成績を取るためにでもないんですよ。……だからあなたの授業は詰まらない」


 大学受験のための勉強なんて面白くない。僕は雑談を踏まえた授業を求めているんだ。歴史ならその事件に対する個人の見解を教えてほしいんだ。どんな事件が遭ったかなんて、教科書読んでたら解るんだから。そんなのわざわざ授業料出して学ぼうとは思わない。僕が授業料を払って学んでいるのは、歴史的事実に対してどのような個々人の意見があるかなのだよ。

 数学で言えば、この数式で現実の何が解明されるか、何に役立つとかを教えてほしいんだ。この数式はこの公式を使えば簡単に解ける、さあ計算してみろ……って、馬鹿にしてるのか? 問題集でも読んでたらそんなの解るわ。

 ビキリと先生の額に青筋が浮かんだ、ような気がする。たとえ浮かんでいなかったとしても、心境ではそんな感じだろう。

 そこで僕は笑みを浮かべた。


「……先生は優しいですね。僕のような出来の悪い生徒のためを思ってくれて。先生のそういう所、尊敬します」


 言い方とかやり方は残念ですけど、という言葉は飲み込んだ。

 勿論、先生のそういう所『は』というのもだ。


「うう……」


 と、先生がどもるのを見て、本当にそういう所は嫌いじゃないんだよな、と心の隅で思う。

 だが、飴と鞭。


「でも僕は、公式を習いに来てるんじゃないんですよ。あなたの授業は、教科書や参考書を読んでいるのと同じだ。正直、授業料を払って受けるまでもない。だけどそれじゃあ、先生は給料をもらえない。だから僕は形ばかりでも授業に参加してるんですよ。これ以上僕の機嫌を損ねるようなら、校長に直訴して先生の給料下げてもらいますよ?」


 先生は顔をこれ以上ないくらい真っ赤にし、そして一瞬のうちに青くして教壇に戻っていた。

 さあて、これでもう話しかけては来ないだろう。

 僕は惰眠を貪ろうかな。


 他の生徒の視線など気にしない。どうせ皆も寝ているだろうし。

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