幕間 b-c
お嬢様と出会ったのは、小学校低学年の時。
その日は夏休みの始まりで、天空の城でもありそうな雲が青空にあったのを覚えている。
僕ら三人は年も同じで、良く似ていたからなのか、幼稚園の頃から三人で遊んでいて、それは中学の終わりで高校生活の関係で別れるまで続いた。
その日も僕ら三人は一緒に居て、ちょっと住宅街を外れた森に遊びに行っていた。子供の時にだけ会えそうな生き物がいる、そんな事を話しながら森を散策する僕ら。三人で手をつないで歌を歌いながら。
と。
「あっ!」
妹が不意に木の上を指差した。僕とアイツもその方向を見た。そして、
「……妖精?」
「いや、人でしょ」
アイツがとぼけて、僕が突っ込んだ。
ただ、妖精と言ったアイツの言葉は、あながち間違いでもないように見えた。
腰まである綺麗な金色の髪は当時の僕らは神秘に思えたし、お人形さんみたいな可愛らしい顔をしていた。服はフリルのついたドレス。
そして、木の上で震えていたのだ。
「お〜い、そんなところで何してるの?」
僕がそう声をかけると、ビクッと震えるお嬢様。
そして小さく答えた。
「……お、下りれない」
木の高さは二メートルくらい、今思えばかなり低いが、当時の僕らにはかなり高く見えた。落ちたら怪我をするな、痛いなと僕は思っていた。
けれど、アイツは違った。
「受け止めるから、飛び降りなよ。それで、一緒に遊ぼ」
「え?」
お嬢様はきょとんとしていた。僕らもキョトンとしていた。けれど、アイツだけは真面目な顔をして手を伸ばしてた。
それが、お嬢様と僕らの出会い。
両親が交通事故で死んだのは、僕達が中学生を終えようとしていた頃だった。僕らは三人で同じ高校を受けようとしていて、入試のほんの少し前だった。
けれど、両親が交通事故で死んで、全てが狂った。
両親はジャーナリストでしょっちゅう出かけていた。
大きな仕事があるから、と行って出かけて行ったその日、帰って来た二人は不自然だった。僕は少し疑問に思ったが何も出来なかった。
二日後、二人は車で崖から転落、即死だった。
そして慌ただしく葬式などをやり終えた頃、僕は遺品整理であるものを見つけた。
タンスの裏に隠されていたそれは、一通の手紙とノート。
手紙に書かれていたのは、
「幸せになりなさい」
たったその一言だった。手紙はしわくちゃで、何かを書こうとして書けなかったような不自然な跡が残っていた。
ノートに記述されていたのは、一人の少女の裏事情。
気付かなければ良かった。
僕の両親はジャーナリストだった。
両親は、知ってはいけない事を知ってしまったのだと気付いた。
そう、この国の裏事情、お嬢様がしていたことに。
お嬢様は何人も人を殺した。それは生命を奪うと言う意味でもあったし、人権を奪うと言う意味もあった。
だから、二人は殺された。
事故ではなく、二人は殺されたのだ。
両親の調べ上げたあまりにも信じられない出来事、能力……。それらが二人の死を持って、僕に現実だと教えてくる。
何が何をどうしたらいいのか、一瞬で解らなくなった。
受験が近い、三人で同じ高校に通う約束があった。
両親が殺された、理由が理不尽だ、目頭が熱い、拳が重い。
収入がない、高校に行けるのか? 行ってどうする?
お嬢様はどうする? 親の意志を継いで問いただすか?
僕は何がしたい?
僕は願った。
幸せが欲しい。
今のこの苦しみ、悩みを解決したい。
それが出来れば僕はーーもう……。
そして、僕は狂った。