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ぼくにも出来る事 b-4

 放課後のチャイムと共に、僕は急いで学校から飛び出した。

 お嬢様の睡眠時間を考えれば、取り立てて急いで屋敷に戻る必要はない。それに、僕の勤務時間は二十時からとしてもらっている。けど、僕は急いだ。

 僕の唯一の家族、妹に会うために。

 妹とは学校の関係で別居中、保護者はお嬢様に頼んで誤摩化してもらっていた。

 二階建てのお世辞にも褒められないボロアパートの一室、そこに妹は住んでいる。

 時刻は五時を回った頃だった。妹も部活はしていないし、恐らく居るだろう。


「……ただいま」


 僕はなんと口にするか躊躇したが、ドアを開けながらだったのでその逡巡は解らなかっただろう。


「おかえり、お兄ちゃん!」


 僕が扉を開けると同時に、部屋の中を確認するよりも速く、何かが僕に飛びかかって来た。ぎゅっと抱きしめられ、柔らかい感触が胸の前に当たる。


「あ〜、恥ずかしいからやめて。でも出迎えありがと」


 僕はそう言って、飛びついて来たその人物の頭を撫でた。

 セミショートの黒髪、贔屓目無しで可愛い顔。小動物のような保護欲をそそらせる雰囲気がある。

 妹だった。

 妹、といっても双子の妹で、……正直、妹って何だろう、家族って何だろう? そんな事を考えるレベルだ。よく分からない。ただ一つ言えるのは、幸せになってほしい、僕の一番大事な人だと言う事だ。


「ごめんな。バイトでしばらく会えなくて。寂しくなかったか?」


 お嬢様の家で働いている事は黙っている。

 理由は、妹とお嬢様の仲がよろしくないからだ。

 また、そのせいで僕は毎日妹に会えない。毎日妹と会っていると、お嬢様が怒るのだ。お嬢様には感謝しているので、逆らえなかった。


「大丈夫。彼がいてくれるから」


 彼と言うのは、僕のもう一人の幼なじみの親友で、会社に勤めている奴だ。

 僕はそいつに妹の面倒を見てもらっている。ちなみに、年はみんな同じで、十六だったりする。法的に厳しい所があるため、お嬢様に頼っているのだ。


「晩ご飯どうするの、お兄ちゃん?」


 そわそわとしている妹を見て、僕は笑みをこぼした。

 そう言えば、最近は外食ばっかだったな。久々に家で食べたいのかな?


「たまには僕が作るよ。なんか食べたい物あるか? 一緒に買い物に行こう」

「うん!」 


 買い物の間、ずっと二人で手をつないでいた。

 買い物のおばちゃん連中には、仲のいい兄妹だことなどと言われた。僕は照れ笑いを浮かべ、妹はご機嫌そうに腕を絡めて来た。少し胸が当たっていた。

 僕らは一卵性双児で、とっても良く似ている。だから恋人とは言われず、兄妹だって解ったのだろう。おばちゃん達の推理力に脱帽した。


「……お兄ちゃん、私より料理上手だ……」


 どこかしょんぼりとした風に、けれど美味しそうにオムライスを頬張る妹眺めて、僕は凄く幸せな気分だった。だから、そんな幸せを妹にもわけてやりたかった。


「ありがと。そうだな、今度の日曜日、僕が料理教えてやろうか?」

「いいの? ……バイト、ない?」


 上目遣いで小首を傾げる妹は、本当に可愛かった。僕は緩んだ頬を隠すために、笑顔を見せる。……隠せてなくない?


「大丈夫。あっ、日曜日は一日休みにするから、どこか行きたいとかあったら、そっちにするよ?」

「ううん!! 料理、教えて!」


 必死に首を振り、妹は僕に手を合わせて来た。

 さては、と僕はにやりと笑みを浮かべる。


「なんだ? あいつに美味しいご飯を食べてほしいとか?」

「ぶふっ! ち、ちっ、ちが……」


 吹き出す妹、隠さなくて良い。

 あいつこと、僕の親友。妹は前から彼の事が好きだった。勝手に僕がそう思っているだけだが、恐らく間違いない。妹に僕の代わりにあいつに来てもらう事を話した時、凄く喜んでいた。僕もしてやったり顔をしていた。

 ちなみに、彼も妹の事が好きである。これは確定事項。親友だろ話せよこの野郎、と言って殴りながら話を聞いた。好きだけどなんか文句あるかっ! といって殴り返されたので、僕は凄く嬉しかったのを覚えてる。青春してるな、っと思ったのだ。勿論、親友をぶん殴るほど真剣に恋してくれている彼に、こいつなら妹を任せられるな、と思ったのもあった。

 だからこそ、妹を一人暮らしにさせず、その親友に同棲させているのだった。

 その彼は今仕事中。どうにもこんな粋な計らいをした僕と顔を合わせづらいのか、最近はなかなか会っていなかった。

 そんなこんなで妹と久し振りの会話はあっという間に過ぎてしまった。


「じゃあ、今度の日曜日に」

「うん。彼にも伝えとくよ」


 そう言って、僕は妹から見送られて屋敷へと向かった。

 僕としては、久々に彼とも会いたかったが、仕事が忙しいのなら仕方ないかと思う。

 あいつはいつも、少し真面目過ぎた。 


 今思えば、これが全てのフラグだったのかもしれない。

 全てが狂い出していた、予兆だったのかもしれない。

 けれど、目先の幸せを追い続けた僕には、それを回避する事は出来なかった。

 勿論、それは皆にも言えた事だったけど。



 


 この日、二月の終わり。

 それから三週間後、三月の終わり。

 僕らのうち何人が生き残っているのか、それはまだ解らなかった。


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