第7話 獣神の加護
「ねぇキトラ。私もダンジョンに潜りたいのだけどダメかしら?」
ダンジョン配信を開始した翌日の朝に綾乃が1人と1匹の食事を用意して席に着き、キトラに問いかけた。
「いいと思うニャ。ただ何か理由あってのことかニャ?」
「・・・・・・そうね。兄さんの帰りをキトラに任せて待つのが嫌っていうのと、こういう時に何も出来ない無力さを感じちゃって出来ないことを減らしたいなと思ったのよ」
綾乃の言葉に後悔が混じる。
待つことしか出来ない無力さを実感している者の言葉。
大切な人が討たれるのを見ておくしか出来なかったキトラはその辛さともどかしさはよく分かる。
キトラとしても綾乃が強くなるというのは歓迎すべきことであった。
結局自分の言い分を押し通したり、理不尽を跳ね除けたりするには力が必要なのだ。
ダンジョンは危険だが自分が傍にいればドラゴンが群れで来ようが傷1つ付けずに生還させられる自信がある。
だからこそ彼女の強くなるというのは賛成であった。
「いい心掛けニャ。でも連れていけるとしても中層10層くらいまでニャ。それ以上、キャリーするといざという時に経験が足りなくて死ぬ可能性が高くなるニャ」
「あぁ違うわよ。別にパワーレベリングやキャリーして欲しいわけじゃないわ。ただ普通に第1層からソロで潜ろうかなと思ったのよ」
「ソロはダメだニャ。争いに身を投じる必要が無いのに勇者の妹を許可なく危険に晒せないニャ。せめてにゃーといる時に入るが最低条件ニャ」
「でもあなた配信があるじゃない。それにいつまでもいてくれないんでしょ?」
「配信なんてやらなかったらいいニャ。それに長居は出来ないからこそ早く育てて経験を積ませる必要があるニャ。どうしてもソロで潜りたいなら勇者を説得するニャ。あいつを助けに来て、その家族を危険に晒したなんて顔向けできないニャ」
迷いなく言い切った彼を見て綾乃は諦める。
多分この猫は優先度がハッキリしているのだろうと。
キトラを連れて帰った日に、ギルドの職員を名乗る者が家に来て色々と話をした際に話に出たのだが、国としてはキトラにどうしてもダンジョンを攻略して欲しいようだった。
それなのに自分が原因でキトラが配信をしないと言えば、便宜を図ってくれるというギルドに申し訳なくなるので折衷案として配信前に綾乃を鍛えてから配信をすることに決めて、綾乃はギルドに登録に向かった。
黒のセーラー服姿という場違いな格好をした冷たい印象を受ける少女がギルドに入ると大人たちの視線が集まったが、どうやら物珍しさで見ただけですぐに視線を外されて、絡まれることもなく受付へと辿り着く。
ギルドといえば冒険者が集まっているため、粗暴な者が多く、近寄り難いイメージがあるが行政が管理しているため建物やその周辺でトラブルが起こることはあまりなく、未成年の女性に絡むなどほとんど起こりえない。
「すみません。冒険者登録をお願いしたいです」
「は、はい!かしこまりました。冒険者登録ですね。それではお部屋にご案内致しますのでこちらへ着いてきてください」
受付の方に案内されて、先日来た部屋に入るとすぐにギルドマスターの平野が現れた。
「やあ河南さん。先日はどうもお邪魔致しました」
「こちらこそ大したおもてなしもできずに申し訳ありませんでした」
「キトラ様のダンジョン配信を拝見致しましたが素晴らしいものでした。まだ話す猫に困惑している人や売名行為でのアンチも少なからずいるでしょうがお気になさらずにそのまま配信を続けていただけると幸いです。問題は全てこちらで対処しますので配信だけは何卒お願い致します」
「は、はい。分かりました」
立場のある男性にヘコヘコされて綾乃は少し気後れしてしまう。
しかもただの冒険者登録というのにわざわざギルマスが出張ってきてくれたのだ。
暇なのだろうか?と思わなくもないが、自分がギルマスならば神獣とそれの庇護下にある人が来たならば、何を差し置いても自分が対応するから、つまりはそういうことなんだなと思い、彼には出来るだけ迷惑をかけないようにしようと思った。
「本日は冒険者登録でしたね。登録費用は3000円と学生さんだと少しお高い値段かもしれませんがよろしいでしょうか?」
「はい。問題ありません」
「それでは冒険者カードの発行をしますので、それを待つ間にスキルと大雑把な適性だけ確認しましょう。申し訳ありませんが規則ですので最初のスキルだけはギルドが確認させていただきます」
「それは構いませんがスキルなんて私が持っているのですか?」
それはもっともな疑問であった。
スキルは冒険者になると自動で取得すると聞いたことがあったが、綾乃はまだ冒険者ではなくダンジョンにも入ったことは無い。
「実はスキルは本人のそれまでの行動によって勝手に取得しているのです。ちなみにこの話は先日キトラ様が仰っていましたので信憑性は非常に高いのですが、我々には正しいのかも分かりませんし答えは神のみぞ知るのでしょう」
「そうなのですね。ちなみに何故確認するのですか?」
「詳しいことは言えませんが危険性の高いスキルはいくつか存在していますので、その方達の把握とスキル指導などがあります。ではまずは綾乃さんがどのようなものを持っているか確認しましょうか」
そう言って平野は鑑定用の水晶を持ち出した。
それに手を当てるといくつかスキルが表示された。
剣術Lv.2
威圧Lv.1
気配察知Lv.1
山岳の心得Lv.2
身体強化(系譜魔法)Lv.3
信仰心Lv.3
獣神の加護(過保護)
「おぉかなり優秀なスキルですね。数も多く、今まで努力なさってきたのがよく分かります。それに自己完結してますのでこれだとソロでもパーティでも活躍が見込めますよ」
「いえ、あの、それよりこの一番下にあるものなのですが・・・・・・」
「・・・・・・今、私はスキルの話をしており、ギルドで把握を求められているのはスキルのみです。つまりそれは見ていないことが出来ます」
綾乃がもっとも気になっているもの。
そして平野が頑なに見ようとしないもの。
それは【獣神の加護(過保護)】と表示されているものであった。
「これどう考えてもキトラ関係ですよね?」
「し、知りません!!キトラ様は神獣。つまり神の使いで獣神とは別のハズです!」
「でも死後、神になるのが確定してると言ってましたし多分そうでしょ。あと(過保護)ってなんでしょうね?」
「いえ!きっと違います!そうであると私は認識します!か、過保護はえ〜と詳しくは見れませんが、どうやら回復魔法の付与、防御力と回復能力の向上、各種耐性、あと何か見えませんがまだあるみたいですね。これ絶対に死なせないという執着すら感じますけど、性能だけの話をすると現在判明している加護やスキルの中では最高のものと言ってもいいかもしれません。まあ各国が秘匿しているので言いきれませんがどう見ても強いです」
「分かってたつもりだけどキトラって本当に神なのね」
「・・・・・・私は何も知りません。こういうものは責任ある偉い人に投げることにしますので、キトラ様が神獣なのか獣神なのかは存じませんので何も聞かないでください」
平野さんも責任ある偉い人でしょと思った綾乃だが、ギルドマスターとはいえ、立場的には警察署長と同じくらいなのだ。
それも数ある支部の1つのトップに過ぎないので政治に影響するかもしれない問題はキャパを超えてしまっているのだろう。
加護の件はキトラに聞いて、あとはダンジョン庁の方に任せると決めた綾乃はスキルに戻る。
「系譜魔法が気になりますが一旦置いておいて、剣術は分かるのですが威圧って私、脅したりした記憶はあまりないのですが?」
「それは武道をやってた人によく出るので気にしないでください。本当は家族でも言うべきではないのですが、お兄さんの義盛さんも持っていましたよ」
「あぁ確かに威圧は基本ですね。殺気を飛ばすのはもちろんですし、うちの流派とは呼べない武術もダンジョンが出現した以降は打ち込みの際に猿叫を出してます。そうですか。兄と同じスキルなのですね」
猿叫。示現流などで見られる打ち込みの際に見られる甲高い声を綾乃と勇者である義盛に剣術を教えた親戚のおじさんは取り入れていた。
これは精神的な役割だけではなく、打ち込みの際に声を出して力をより入るようにする、相手を怯ませる、大声を出すことにより緊張を解すなどの作用があり、ゲーム的に言い方をすると猿叫はバフとデバフを兼ね備えている使い勝手のいい技なのだ。
ダンジョンならば雑魚は猿叫に怯み、味方には乱戦の中でも声で場所が分かるため、父の代から取り入れている。
「確か綾乃さんとお兄さんは親戚の方に剣術道場を開いてる方がいて、その方に習ったのでしたね?」
「えぇ。わざわざ人に話したことはないのですけどね。恐らく兄も言ってないでしょう」
「はははっ。キトラ様に義盛様の家族を保護するように言われた時にこのくらいの情報は知らないといけませんでしたからね。それにこちらが知っている情報は綾乃さんとキトラ様には信頼していただくためにも話せと言われてますので」
綾乃はわざとトゲのある言い方をしたが平野は笑って流す。
個人情報を探られるのは面白くは無いが、キトラという国としても無視できない存在がそばにいる以上は自分たちが探られるのは仕方ない。
それはそれとしてこのくらいはいいだろうという気持ちがあった。
それに平野はあえて言わないが河南家は警視庁とダンジョン庁が抱えている指南役の1人の本家筋にあたる家系であり、2人の両親は父が元自衛官、母は元地方公務員だった為にある程度の情報はすぐに把握出来ていた。
「それと系譜魔法ですが、これは華族の方に出やすいものですね。特に武家に連なる方に出やすく、河南家は源氏の流れを汲む一族と聞いてますので、それでだと思います。お父様もお兄様も持っていたと報告を受けております」
「眉唾物だと思っていた話が本当だったんですね。各地に死ぬほどある伝説だと思ってたのに、、、」
「ははっ。確かにあの御方は人気ですので各地にありますものね。それはそれとして、そのスキルは溜めという名の詠唱と魔力を全て使って一時的に身体能力を爆発的に引き上げる諸刃の剣なので使う時は十分に気をつけてください。これは秘密なのですが、お父様はそれを使って強大な敵を打ち倒した後、命を落としたと報告を受けていますので」
「・・・・・・そうですか。教えていただきありがとうございます」
「いえ。私はその時はただの職員で自衛隊の方の戦いを祈ることしか出来なかったので」
気まずい雰囲気が流れて、口を潤すためにお互いに1口お茶を飲むと平野が口を開く。
「・・・・・・さて私の方からのスキルの確認は以上です。そろそろ冒険者カードも出来上がっているでしょうし、こちらでしなければならない手続きは以上です。他に質問や御用はありますか?」
「いえ。特にはありません」
綾乃としては兄のことを聞きたかったが、ギルドに聞いても詳しくは分からないだろし、その話はキトラと一緒の時に聞こうと思い、冒険者カードを受け取って帰宅することにした。
帰宅後にキトラに加護の話をすると、「えっ知らないニャ。多分女神様が加護を与えたかったけど異世界の創造神の加護はまずいから、にゃーの加護を与えてくれたとかだと思うニャ」と本当に何も知らず驚いていた。
キトラもまさか女神に過保護と言われてるとは思わないだろなと綾乃は自身の冒険者カードを見つめて少し笑ってその日を終えた。




