第9話 空間魔法と上層ボス戦
キトラがうっかり昼寝用の宝箱を空間魔法で出したことによりコメント欄が爆発した。
"ファーーーー!!!!"
"これってアイテムボックス!?"
"いや空中に現れたから空間魔法????"
"どっちもまだ確認されてないやつだろ!?!?!?"
"なんで猫がそんなもん使えるんだよ!!!"
"猫は空間認知が高いからな"
"猫ちゃんかわヨ"
"空間魔法って四次元ポケットみたいなもんだろ?なんで猫が次元の認知してるんだよ、、、"
"猫は虚空を見つめてる時があるからな!"
"はぁ〜猫ちゃん可愛いですわ(現実逃避)"
"今ギルドにいるけど、静まり返った後、みんな発狂してて草"
"存在が証明されたなら研究が進むからヨシ!!"
"ヨシじゃねえんだわ!!!"
"これもしかしなくても大問題では?"
"当たり前。これ応用してアイテムボックスとか作れるようになると世界に革命が起きる"
"流通は一変するし、軍事の兵站問題、前線輸送、医療も災害救助とかで使えるから比喩表現じゃなくて産業革命が起こる"
猫の寝顔を配信中とは思えないほど大量のコメントが流れて、SNSでトレンド入りしたことや、爆速で切り抜きが出回ったこともあり、同接がついに6万人を突破した。
ついでにギルド、ダンジョン庁などの行政の人間にとんでもないダメージを胃に与えて、キトラを任されているギルマスの平野にいたっては泡を吹いて倒れた。
「にゃ〜〜。んっ〜!さてそれじゃ続きを始めるニャ!」
ちょうど10分で起きたキトラが背筋を伸ばしてカメラを確認する。
同接?閲覧数?というのがたくさんあればあるほど収入が増えるので、キトラはそれなりに意識していた。
「にゃにゃにゃっ!?同接が10万人もあるニャ!にゃんか分からんけど増えたらお金になるらしいから嬉しいニャ」
ウキウキで喜ぶキトラに視聴者もほっこりして可愛いというコメントが多少は流れたが、ほとんどは起きたキトラに空間魔法のことについて問いかけた。
「にゃ?空間魔法がそんなに気になるのかニャ?んー教えていいか分からないから秘密ニャ!他にも聞きたいことがあると思うから気が向けば質問に答える時間を作るニャ。やるとも限らないから期待せずに待ってるニャ」
キトラとしては勇者救出以外にあまり時間を割きたくないが、どうせ攻略を進めれば、その知識からこの世界のものではない異物だとバレるので自分から話してもいいかとキトラは考えている。
人は異端を恐れる。
異世界の猫だとバレてトラブルになり余計な時間を取られるくらいなら、面倒だが国と話す内容を決めてバラした方がまだマシだと考えている。
そしてバラしても納得して受け入れやすいように、意図的にダンジョンでは死体が吸収されて分かりにくいはずなのにスライムでの死因の話をしたり、ツノウサギの小話を披露した。
キトラは意外と計算高い猫なのだ。
もっとも何かあれば全てを薙ぎ倒して力づくでどうとでもできるという前提があっての行動である。
キトラとしてはさっさと勇者を救いたいが救ったら終わりでは無い。
むしろ救ってからの方が彼の人生は長いのだ。
自分のせいで彼が生きづらくなるなら多少時間と手間がかかっても平穏に過ごさせてあげたい。
キトラはそう心から思っているために日本という国にある程度、協力して協力させて足並みは揃えるつもりだ。
そうじゃなければもうこのダンジョンを攻略して勇者を救っている。
そんなことを考えながら出てくるモンスターを猫パンチで粉砕していると5層の上層ボスの部屋についた。
「ニャッ!?考え事していたらボス前についたニャ!」
"草"
"まあ危険な敵もいなかったし"
"現れたモンスターを無言で猫パンチしてたもんな"
"狩りとかじゃなくて虫を追い払うような気軽さで殲滅してたからな"
"いくら上層でも散歩感覚で歩けるのは強者なんだよな"
"ヘルハウンドの群れを歩きながらニャッ!って猫パンチで片っ端から粉砕したの怖かった"
"配信用にかなり手を抜いてるの分かるし、どっかで本気の姿見てみたいよな"
"そもそも犬鳴が殴られたのが中層の奥の方だし、そりゃそこにいるレベルの冒険者なら上層なんて相手にならんよな"
「とりあえず入ってみるニャ!」
ダンジョンの第5層。
そこは闘技場のように1つの大きな部屋であった。
何も無いシンプルな空間に大きな魔物が1匹待ち構えていた。
2メートルはあろうかという巨大な身体と特徴的な大きく発達した豚鼻。
オークが巨大な棍棒を持ち、キトラを待ち構えていた。
「まあお前にゃら初心者の壁としては悪くないニャ」
向かい合ったキトラは不敵に笑う。
大人と子供以上の身長差がある2匹だが、そんなのはキトラにとってなんのハンデにもならない。
自分より大きな敵ばかりを相手にしていた彼は臆することなく配信を続け、オークの特徴を語る。
「オークは魔法を使えず、鼻が利くのと怪力でタフなこと以外はこれといった特徴がないから、一定の強さを超えると雑魚扱いできるモンスターニャ。問題は一定以上の強さがないとリーチもそれなりにあって、丈夫な皮膚を抜けなくてかなり苦戦をするニャ。ちなみに中層からは索敵が上手くて、火力が高くて、頑丈なモンスターなんていっぱいいるから中層へ行くためには余裕を持ってオークは倒したいところニャ」
これは脅しでもなんでも純然たる事実である。
5層までは上層と言われており、パーティを組んだ冒険者なら駆け出しでもイレギュラーが無い限りはここまでは辿り着ける。
だがここより下は一気に難易度が跳ね上がる。
中層からは特殊な能力を持っていたり、魔法を使ってきたりと一筋縄ではいかず、上層ボスのオークですら中層では癒し枠となっている。
ちなみに上層は〜5層、中層は6〜30層、31〜40層は下層、41層〜は深淵と言われており、世界でも最高記録は40層となっており、キトラが目指す50層は前人未到の地となっている。
「せっかくだし、いつも猫パンチだけで倒すのも面白くないだろうからいくつかニャーのスキルを見せてあげるニャ!オークごときじゃニャーにダメージは与えられないので安心して見て欲しいニャ!」
目の前のオークを無視してカメラに話しかけるキトラ。
その姿にオークがブチギレる。
猫など彼にとって障害になるはずもなく、敵と言うにも烏滸がましい程の体格差があるのだ。
実際普通の猫がオークに襲われて叶うわけが無い。
なのでこのオークの怒りは最もである。
その怒りに任せて人間の胴回りほどの大きな棍棒を振りかぶるがキトラは動かない。
"のるなオーク!!!戻れ!!!"
"オーク「ダンジョンはおれ達に生きる場所をくれたんだ!!!猫にダンジョンの偉大さの何がわかる!!!」"
"お願い、死なないでオーク!次回オーク死す。"
"草。お前ら猫の心配したれ"
"キトラちゃん!!大丈夫だよね!?!?"
"避けて!!あんなの死んじゃうよ!"
"煽る猫ちゃんもかわヨ"
"この配信、冒険者として見てる層と猫動画と見てる層の差が激しいな
視聴者の反応が別れる中、ついに棍棒が振り下ろされた。
ドンッ!!
大きな音が響き、振り下ろされた地面はえぐれて辺りは水が飛び散っていた。
"えっ????"
"嘘だろ"
"?????"
"えっ?えっ?"
"キトラちゃん・・・・・・?"
"いやぁぁぁぁぁぁぁ"
"あの猫死んだ!?"
"イキってたのに死んで草"
"オーク程度にワンパンされるザコwww"
"落ち着け。死んだなら魔力供給止まってカメラ止まるから生きてるぞ"
"犬カス炙り出されてて草"
"そもそも攻撃されて血じゃなくて水が飛び散ってるのありえないからこれスキルだろ"
状況を考えればオークの一撃で跡形もなく消え去ったと考えた方が自然な映像にコメントの多くはざわつく。
しかし冒険者や冒険者の配信を見ているもの達は落ち着いてコメントをしている。
「「「驚かせたみたいだニャ。まあ生きてるし、この程度でどうにかなる弱さじゃないから安心するニャ」」」
"は???"
"どうなってんの?"
"ぶ、分身したぁぁぁぁ!!!!"
"そうはならんやろ!"
"なっとるやろがい"
"トムとジェ〇ーのトムかな?"
"ファーーー!!"
"ちっちゃい猫ちゃんいっぱいで画面が幸せすぎる"
"猫ちゃん沢山で幸せすぎる"
画面に現れたのは半分以下の大きさになった3匹のキトラだった。
「「「これは液体化して攻撃を防ぐスキルと分身スキルの併用技だニャ。スキル名は猫は液体、分身ってスキル名ニャ」」」
キトラがふふんとドヤ顔をするとコメント欄が一気に盛り上がる。
"薄々思っていたけどやっぱり猫は液体なのか"
"スキルがそう言ってるならヨシ!"
"猫は液体って物理学者が論文出して権威ある賞も取ってるからな"
"権威ある賞(イグ・ノーベル賞)"
"液体はともかく分身はなんやねん"
"猫はたまに分身してるけどもしかして猫エアプか?"
"猫は分身するぞ"
"猫 分身 で検索検索ぅ〜"
"普通にヤバそうな組み合わせで草"
"これもしかして攻撃受ける度に増えるとか言わんよな?"
"てかこれ同時に喋ってるってことは全員自律行動能力あり!?"
"ふぁっ!?そんなんチートやんけ!"
"人間の言葉話せます。空間魔法使えます。独自行動可能な分身作れます。この猫もしかして無敵か???"
"無敵かは知らんが敵に回したら相手は死ぬ"
"ワイはお猫様の下僕です!だから見逃してクレメンス"
"お猫様に栄光あれ!!!"
"自分にゃ〜る買ってきます"
"寝返り早すぎだろwww あっワイも寝返ります"
"SNSのトレンド入りおめでとう"
"空間魔法も入ってたけど猫は液体でも入ってるな"
「うむ。苦しゅうないニャ」
「存分に奉るがいいニャ」
「配信も飽きたし、コイツを倒してそろそろ帰るニャ」
当たり前のように3匹が違うことを話して、それぞれに思考能力があることを示してオークを見据える。
そして「「「ニャッ!」」」と小さな可愛いお口から火を吹く。
可愛らしいお口から出たとは思えないほど、大きな炎が一瞬でオークを消し炭にした。
"は?"
"は??"
"液体化は分かるけど火はなんでだよ!!"
"もしかして ドラゴン ?"
"可愛いからなんでもあり"
"本当の赤猫で草"
"↑突然ラーメン屋の話か?それともお餅の話?"
"赤猫は放火の隠語だゾ。標的の家に火をつけた猫を放って放火する手口"
"猫が可哀想すぎる"
"は?そんなの死刑だろ!"
"実際江戸時代の放火は基本的に極刑だからな"
"じゃけん凶悪犯罪の放火と盗賊は火付盗賊改方ってまとめた役職がある。鬼平こと長谷川平蔵が有名なやつ"
"まあそれはそれとして実際は猫に火をつけるなんて創作だったはず"
"よかった、、、流石に無理があるもんな"
"とりあえず上層突破おめでとう!"
"猫による上層突破は世界初だな!おめでとう!"
"当たり前定期"
「「「それじゃ今日の配信はここまでニャ。次の予定はまたSNSで告知するニャ!それじゃチャンネル登録と高評価よろしくにゃん」」」
分身したままの3匹があざとく肉球を見せながら首をかしげてチャンネル登録を促して配信を終える。
キトラは分身を元に戻して、うっかり空間魔法を使った詫びと正体を言うべきなのかをダンジョン庁と話をするべく、ギルドに向かうことにした。
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