98.砂漠を進みます
一夜明けて。
「あなた方の行動力とその実力のおかげで、厄介な敵を打ち破ることができました。本当にありがとうございます」
ターバン男は深々と頭を下げる。
ドロリと溶け出た鎧たちの中身は、地面に染み込んだのか次第に消えていった。
鎧も粉になって消え始めたので、討伐に成功したとみなしたのだ。
「いいってことよ。魔王軍もこんな雑魚なら、逆に国境を押し返せるかもしれねえな」
「そうだな。じゃ、さっさと進もうぜ」
俺たちは、砂漠を象車で疾走する。
途中何度かモンスターや魔王軍の孤立兵に遭ったが、象の体重でぺしゃんこにされていった。
やっぱり、俺が知ってる象じゃないなぁ……。
「まもなく、戦闘開始前の境界線にたどり着きます。いったんそこで停止し、国の指示を待ちます」
ターバン男は、まもなく象を止めた。
国境とはいえ、付近には何もない。
かつてはここにカッタという町があったそうだが、魔王軍の電撃的な侵攻に伴い町は消滅した。
建物は魔王軍に破壊され、砂に埋もれた瓦礫が見えるのみとなっている。
「ああ、以前来た時はまだ残っていたのに……。
ここは私の生まれた地なのです。私は首都にいたので助かったのですが、私の妻と子は……」
ターバン男は、かつて自身の生家があった場所だという瓦礫の山に黙祷を捧げた。
「……毎年、遺族らがここに来て、こうして犠牲者やかつての生活を偲ぶのです。
皆様のおかげで、この場所も取り戻すことができました。本当にありがとうございます」
ターバン男は、また深々と礼をする。
なんとなく重い雰囲気になってきたことを察したのか、やじを飛ばすものや軽口を叩くものはいなかった。
その時、境界線の奥から、かすかな馬の蹄の音が聞こえてくる。
「馬が数十頭、いや百頭以上。蹄の音が重い、重装備のものを乗せているな」
地面に耳を当てたコルメの剣士が、そう伝える。
「ああ、確認した。走っているゴブリンやコボルトが見えるし、魔王軍の連中だろう」
コルメの弓使いも、手を目の上に当てて遠くを見据えながら、追って言った。
「どうやら、感傷に浸っている暇はないようだ。騎兵隊、陣形を整えろ! 防衛隊の皆様も、どうかお願いいたします」
その時、頭上に空を切る高い音が響く。
「頭上に警戒しろ! 矢が降ってくるぞ!」
「ウィンドシールド!」
俺は素早く風の盾を展開し、矢を弾き飛ばす。
「ここは、我々アルト防衛隊にお任せを」
矢の雨の波が去った後、俺はターバン男の方に近づき、そう伝える。
その後、皆の方に向き直り、声を張り上げる。
「アルト防衛隊諸君!!
衛士は矢を盾で防ぎつつ前に立て! 剣士は衛士の後ろで自衛に努めろ!
炎系統魔術師は攻撃魔法の用意! 水系統は自分と他のものの防御に徹しろ!
その他は自身のできることを見つけて動け!」
俺は一気に言い終えると、『火炎旋風』の詠唱をスタートする。
その時、もう一般人でも目視できるようになった敵が、矢を上に放つのが目に入る。
「だ、誰か防御してくれ! 死ぬ!」
中途半端に冒険者の群れから外れていたため、誰にも防御を張ってもらえていない。
ターバン男はというと、瓦礫の下に身を隠している。
「鉄網! だいじょうわあっ!?」
目の前に目の細かい金網が出現すると同時に、何者かが体当たりしてきた。
「ぐわっ!?」
たぶん、こっちに走ってきた勢いを殺せず、俺に衝突したのだろう。
しばらく俺に引っついていたその誰かは、やがてパタンと地面に倒れた。
「助かった、感謝する……ってお前か」
自分で来たくせに、打ちどころが悪かったのか目を回して情けない声を上げている三城がいた。
って、せっかく威力を上げて一掃するために詠唱頑張ってたのに、止めちゃったじゃないか。
「まあいい、『火炎旋風』!!」
炎は金網を気にも止めずにすり抜け、奥の魔物だかりに喰らいつく。
追って色とりどりの炎や雷、暴風が敵を襲う。
いつ見てもオーバーキルなんだよな、うちの攻撃方法。
まもなく、あれから絶え間なく降り注いでいた矢も収まった。
「おーい、終わったぞ。はよ起きろ」
まだ赤い顔して「ふえぇ」とか言ってる三城の体をゆさゆさと揺すって起こした。
やがて三城は目を覚まし、立ち上がった。
「ようやく起きたか」
「う、うん……。
あ、そういやこれ」
と、三城は自身の羽織っていたマントを脱いだ。
「……返すね」
……?
「あ、そういやお前に貸したんだった」
なんかいつもと違う格好をしていると思ったら。
「ま、俺はこれ貸したげたし、お前はこうして助けてくれた。これで貸し借りゼロな」
相殺できるかと言われたら怪しいところだが、三城は生返事で承諾した。
「やっぱお前は副隊長の座にふさわしい奴だな。お前の指示が早かったんで、負傷者はゼロだ」
井川がパチパチとまばらに拍手をしながら、金網をくぐって中に入ってくる。
「つーか、何でお前らは金網の中で2人でいんだよ。何してたんだ?」
「ふえ!?」
「いや、こいつが昼なのに寝ぼけてたから、起こしたくらいだな。いつもと変わらん」




