97.鎧たちとの戦い
「おおおい!? さすがに無理だろあれ!」
「ど、どーすんだよ副隊長!?」
俺は、肩を冒険者たちに揺さぶられながら、目の前の光景をただ呆然と見つめる。
「あれは、こちらの象に速さこそ劣るものの、攻撃力は2倍以上を誇ります。ぶつかることはおろか、横をかすめるだけでも重傷は不可避でしょう」
ターバン男がそう言った。
「まあ、魔法攻撃は効くだろな。『火炎旋風』!」
我に返って杖を構え、業火を繰り出す。
たちまち、象のうちの一頭が息絶える。
その後、俺に続いた魔術師たちが魔法を乱射し、象はたちまち全滅した。
「おお、さすがはかのアルト防衛隊の皆さん。ありがとうございます。
……ですが……」
ターバン男は合掌して礼をした後、顔を曇らせる。
「……くっ、まさかこんなに早く攻撃を浴びるとは。不覚をとった。
皆の者、立ち上がれ! 我らの命果てるまで進むのだ!」
象とともに地面に倒れ伏していた鎧姿の魔人たちが、次々と立ち上がり、剣を構えてこちらに向かってくる。
もちろん、すぐに魔法の雨あられが浴びせられる。
「なんだ、造作もない相手だな」
「あれで倒れれば、苦労はないのですが……」
「……どういうことだ?」
ターバン男の言葉に聞き返す。
「あの鎧姿のものども、どうも一筋縄では死なないのです。──」
慌てて振り返ると、砂塵を切り裂いて、鎧に少しの傷もない魔人の群れが、雄叫びを上げながらなおも進撃を続けている。
「彼らは日光を動力にしているようで、いつも日が暮れると同時に帰っていくのですが。
昼の間は絶対に後退しないし死なないので、夜の間に進んだ戦線が、日が昇っている間に押し戻されていくのです」
魔人と呼んでいいのか怪しくなってきた者たちと前衛の衛士たちとの剣戟の鋭い音が、砂漠の大地を揺らす。
魔術師、修道士、盗賊など前衛に向かない職のものたちは、ターバン男に促され象車のつくる影に身を寄せた。
「こりゃ厄介だな。いくら攻撃を当てても死なず、向こうの攻撃はこちらに効く。
……これ勝ち目あるのかよ」
「おととい、帰ってくのを足掴んで引き留めたら、だんだん動かなくなって、しまいにゃドロンと溶けたぞ。やっぱり、夜が弱点なんだな。
……おっと、自己紹介がまだだったな。俺はビリー、コルメから来た剣士だ」
隣にいた軽装の男が、頼みもしないのにぺらぺらと語ってくる。
コルメ共和国は、ここのすぐ西にある国。
北方諸国で唯一連邦に加入せず、独自の外交・経済活動を行ってきた。
砂漠地域では、魔道具などにも用いられる、不思議な燃える黒い水(石油だな)が採れ、多雨な南部の島嶼地域では豊富な水産資源・農業資源が得られるため、周りを魔王領に囲まれている状況にもかかわらず、貿易によって経済は潤っている。
連邦が魔王軍の侵攻を受けた際も世論のため静観を貫いていたが、自国も魔王軍による侵攻を受け、大陸側の国土が分断されるまで追い込まれたため、軍隊を本格的に動員し国土を奪還するかたわら、冒険者たちを連邦に派遣し、見返りとしての連邦軍の支援を要求しているようだ。
そんな質実剛健で知られるコルメの剣士が言うのだから、間違いないのだろう。
「おーい、どうしたんだ? お前アルト出身だろ? 幹部と戦った時の感想とか聞かせてくれよ」
「すごかった。
というか、お前剣士だろ。なんでここにいるんだよ」
「え? いや、あのおっちゃんがこっちに来いって」
「お前は前衛だろ。ほれ、行ってこい」
「くそっ、ばれたか……」
噂は信じないほうがいいな。こんなのもいた。
ビリーを笑顔で送り出した後、俺は先ほどから始まっていたらしい作戦会議の輪の中に入る。
「日光がある限り死なないとなると、無力化するのが効率的だよな」
「剣を奪うとか?」
「どうやって。ヨワヨワな力で握ってるわけあるまいし、かなりの力をかけないと人の剣は奪えないぞ」
議論は活発に行われている。
さっきから、氷で全員固めてしまえとか、落とし穴に閉じ込めようとかさまざまな意見が出ては、暑さで氷が溶けるだの、砂地に落とし穴は掘れないだのとさまざまな批判も飛び出している。
「やっぱり、日が沈むまで動きを止めるのがいいんじゃないか?」
「問題は、どうやって動きを止めるかだよ」
井川が会話に割り込んできた。
「麻痺魔法や拘束魔法には魔力の限界があるし、王国じゃ使える氷系統も気候のせいで無理。鎧が硬すぎて、地面に串刺しておくのもダメだな」
地面に串刺し!?
お前は一体どんな残酷なことを考えていたのだ井川〜!
議論の収集がつかぬまま、日もだんだんと翳ってきた。
「チッ、今日は進めなかったな。……退却!」
鎧たちの頭領の呼びかけに、鎧たちは剣でこちらの攻撃を捌きながら後ろ歩きで下がっていく。
「逃がすな! 夜の気に当てて倒してしまえ!」
「麻痺!」
こういう系の魔法が得意な盗賊たちが次々と象車の影から飛び出し、鎧たちを逃がすまいと必死の抵抗をする。
城戸も飛び出そうとしたが、玖珠田と日比野に押し倒され断念したらしい。
「くそっ、ここまでか……ぎゃああ!」
鎧の中身が次々と、紫色の煙をあげながら溶けていく。
話には聞いたが、いざ見るとかなり気持ち悪い。
やがて、呻き声も断末魔も絶えた。




