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1年C組異世界冒険譚  作者: 神埼時雨(仮)
第七章 水都の亡霊
94/108

94.のどかな日常です

「何? というかいつからいたんだ?」

 俺は身を起こしながら、こちらを心配そうに見下ろす荒川に訊く。

「えっと、神埼くんが座った時にはもういました……」

「すまん、全然気づかなかった」

「うっ……」

 なんか申し訳ない。


 俺は背中についた土や草を払った後、再びベンチに腰掛ける。

「で、何の用?」

「その、雪かきの時のこと、まだちゃんと謝ってなかったなって……」

 そういや、空中から落下したことがあったな。

「特に気にしてはいないが。というか、むしろ魔力の加減を間違えた俺の責任だ。すまない」

 俺は素直に頭を下げる。

 元はといえば、荒川に煽られたせいでもあるのだが、こちらの非も大きい。

「あっ、そんな……」

 荒川は分かりやすく慌て始めた。


「それにしても、妙な偶然もあるものだな」

「え……?」

「たまたま俺に謝りたいと思っていたお前の隣に、たまたま俺が座った。

 珍しいこともあるもんだな」

 純粋に気になっただけなのだが、荒川は一旦収まった挙動不審を再開させた。

「あっ、えーっと……そ、そうですね……。

 わ、私も神埼くんが隣に座ったときは、いいタイミングだなーって、思いました……!」


 あ、これ絶対何か隠してるやつだ。

「ん?」

「あっ、いや……」

「んー?」

「違っ、その……」

「ん゛ーっ!?」

「うっ、あっ……。すみません……」

 眉間にしわを寄せながら、顔をずいっと近づけると、荒川は顔をそらし、か細い声で呟いた。


「さて、いったい何を隠しているのやら」

 姿勢を元に戻し、目線だけを荒川の方に向けて促すと、荒川はぽつぽつと話し始める。

 ベンチに座っていた俺に気づき、そういえば謝っていないことに気づいて隣に腰掛けたものの、全く反応がなかったので、耳元で囁き始めたらしい。

 何で俺が来る前にはもういたと言ったかと聞けば、俺に、荒川に気づかなかったという落ち度を与え、強く怒られないようにするためだったと。

「……つまり、お前は俺が烈火のごとく怒り狂うタイプの男だと」

「ち、違います……!」


「ま、そんだけなら俺はもう帰るとするかな」

「あっ、ちょっと待って……」

 立ち上がりかけると、荒川が呼び止める。

「まだ何かあったか? 俺は何もされた覚えはないが」

 荒川は、ポニーテールの長い髪をすかし、左肩にまとめて置いた後、フッと微笑む。

「この世界に来てから、大変なこと、楽しいこと、いろいろあったけど……

 このクラスがこんなにまとまってるのは、神埼くんのおかげ。ありがとう」


「……?」

「え……?」

 怪訝な目で30秒ほど見つめると、荒川はまた挙動不審モードに入る。

「ほ、ほら、このクラスで1番レベルが高いのって神埼くんでしょ……?」

「いや、確か1番は野口だった。見たのはクラーケン討伐前だから、今は変わってるかもしれんが」

「いっ、1番みんなに信頼されてるし……」

「この前、玖珠田に頭のおかしいやつ呼ばわりされたし、委員長の方が信頼されてる気がする」

「さ、作戦とかを考えてくれるし……」

「あー、それはあるかもな」

「ほっ……」

 荒川は、クラーケンみたいに動かしていた手を、ようやく膝の上に置いた。


「で、感謝の言葉を伝えたかっただけか。帰るぞ」

「あっ、うん……」

 俺は立ち上がり、レジャーシートのある木の方へ歩いていく。

 が、途中で足を止めた。

「……誰かいるのか?」

 横の細い木の根元から、何者かの気配を感じる。

 だが、数十秒ほど待っても、誰も何も現れなかった。

「……気のせいか」



 その後は、まだ水鉄砲戦を続けていた野口から水鉄砲を奪って清水と集中放水したり、好きな人はいるのかとやたらしつこく聞いてくる玖珠田と千曲をあしらったりして時間が過ぎていった。

「それじゃ、帰ろうか」

「そうだね。みんな、ゴミとか落としてないよね?」

「委員長はうるさいなぁ。ちゃんとポッケに入れてあるって」

 日が傾き始め、集団は帰途についた。


「久しぶりに何も考えずに遊べたな。明日帰るんだっけ?」

 井川が、何があったのか半分に割れたボールの片割れを頭に被りながら尋ねる。

「2月20日に帰ることになってるが。三城、今日って何日だ?」

 たまたま隣にいた三城に声をかける。

 が、なぜか無言でそっぽを向かれた。

「今日が2月19日だから、明日帰るよ」

 前にいた玖珠田が、振り返ってそう返す。


 空が黄金色に染まり始めた頃、俺たちは宿に帰りついた。

 不思議なことに、行きは数回ちょっかいをかけてきた三城が、帰りは妙に大人しかった。

 その代わり、玖珠田がこちらを振り返り、チラチラと俺と三城の間で目線を動かしたりした。

 俺は何か壮大な陰謀にでも巻き込まれているのではと心配になる帰路であった。


 その後、俺たちは5日ほどかけてアルトへと戻った。

 行きと異なり、まっすぐ帰ってきたので、早く帰ってきたのだ。

 久しぶりのギルドに入ると、ハンドンらが手を振って迎えてくれた。

 いちおう買ってきた、サレナ・シュテレン名物スライムソーダを渡すと、大変喜ばれた。

 スライムソーダというのは、ラムネのような炭酸に、スライムを模した色とりどりの大きなゼリーが入ったやつで、日本にあったらイン○タ映えしそうなものである。

 明日から再び始まる冒険に胸を躍らせながら、俺は久しぶりのアルトの居室で眠った。

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