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1年C組異世界冒険譚  作者: 神埼時雨(仮)
第七章 水都の亡霊
93/106

93.ピクニックに行きました

 俺は、宿のロビーで紅茶を啜りながら、1人ため息をつく。

 抵抗むなしく、ついに玖珠田に魔法の杖を没収されてしまったのだ。

「あんたねぇ……。本当にモンスターを倒す以外の趣味を覚えなさいよ」

 無気力無表情の俺を見かねてか、スキップしながら部屋から出てきた玖珠田と三城が、俺の前に座った。

「仕方ないだろ。娯楽も少ないこの世界じゃ、モンスターを殲滅して優越感に浸るのが1番楽しいんだよ」

「サイコパスだぁ……」

「別にいいだろ。金になるし人に貢献できるし鍛錬にもなるし、一石三鳥だ」


「はいはい。とりあえず、何かしなさい。そこで陰気を振りまかれると、気分が重くなるから。

 ……そうだ、今から私たちピクニックに行くから、着いてきたら? 少しは気が紛れるんじゃない?」

「それいいね! ねぇしーちゃん、行こ?」

「……はぁ、まあいいが……」

「ならもう準備はできてるし、お弁当も予備を1個作っといたから大丈夫ね。しゅっぱーつ!」

「え? あっ、ちょまっ……」

 2人に文字通り背中を押され、俺は無理やり宿の外に出される。


「何だ、こんだけ大人数で行くのか。なら気楽だな」

 宿の外には、荒川、井川、笹川、清水、千曲、野口、日比野という大人数が集結していた。

「よう神埼、話すのは久しぶりだな」

 同じパーティーではあるが、最近パーティー単位の活動がほぼなかったせいで関わりがなかった井川が声をかけてくる。

「杖を取られたんだって? ま、元気出せよ」

 清水は笑いかける。

「それじゃ、早速レッツゴーー!」


 サレナ・シュテレンを発ち、小一時間ほどかけてこの三角州で最北に位置する緑地に辿り着いた。

 原っぱが広がり、周りを大河に囲まれたその雄大な景色は、杖を失った悲しみを癒すには十分だった。

「まだお昼までは時間があるから、何か遊ぼうよ」

 木陰にレジャーシートもどきを敷きおわった日比野が、皆に呼びかける。

「ドッジボールでもするか?」

「卒業してからやってねえな。やろうぜ」

 荒川の木魔法で、木を編み込んだカゴを球体にしたようなボールが用意され、試合開始だ。

 日本じゃすぐに外野行きだったが、ついに巷では勇者とまで言われるようになったこの神埼時雨、負ける気はしない!


「はいアウトー。……プッ」

「笑うな玖珠田、素手でも魔法が使えること忘れてないよな。後で火球(ファイアボール)投げつけてやる」

 一瞬で退場。

 よく考えりゃ、みんなステータス上がってるか。

 とはいえ、隅で逃げ回っていた千曲に強烈な一撃を加え、颯爽と内野に舞い戻ってきた。

「女子に本気で投げるなんて最低」

「神埼、あれは俺もちょっと引くぞ」

「なぜだ!?」


 その後も攻防を繰り返し、試合終了の笛が鳴った時には、両チーム3名が内野にいた。

「引きわけだね。じゃ、おひさまも真上にのぼったし、おべんと食べよ〜」

 三城が嬉々として包みを開く。

「すげぇなこれ。誰が作ったんだ?」

「井川くん、これは私が作った弁当なのだよ」

「玖珠田って料理できたんだな。てっきり黒焦げにするタイプかと──

 やめ、やめろ! あああああっ!!」

 修道士(プリースト)の玖珠田に数々のデバフをかけられ悶えている井川を尻目に、俺も弁当を受け取る。

 おにぎりに卵焼き、ブロッコリーにタコさんウィンナー等々、なかなかに手の込んだ弁当だ。


「おいしかったぞ、サンキュー玖珠田」

 まだ髪の毛から煙がもうもうと上がっている井川も、美味しい弁当にありつけたらしい。

「それじゃ、ちょっと腹ごなしに歩き回ってくる」

 俺はそう言いながら立ち上がり、伸びをする。

「じゃ、みんな自由行動で。解散!」

 玖珠田がそう言うと、皆は一斉に立ち上がる。

 ドッジボールでサッカーを始める井川と笹川。

 極寒の中、どこからか取り出した水鉄砲で清水に襲いかかる野口。

 談笑しながらゆっくりと歩く千曲、三城、そして玖珠田。

 ゴミを袋に入れている、苦労人の日比野。

 非常にのどかな景色だ。


 緑地は非常に大きく、下手すればここの市街地の半分もあるかもしれない。

 そんな緑地を一周すれば、腹もこなれる。

 足も疲れてきたので、河原にあるベンチに腰掛ける。

 川のせせらぎが心地よい。

 アルトに帰ったらまた大変だろうが、今ばかりは全てを忘れて心を癒すことができる。

 雄大なサレン川と、奥に広がる西エルフ国の山々。

 大自然とは、人の気持ちを穏やかにしてくれる。


「……、…………」

 どこかで鳥の鳴き声が聞こえるな。

 もうすぐ春、小鳥たちも巣立つだろう。


「神……、………くん……?」

 これは風の音だろうか。

 この寒い北風も、だいぶ弱くなり、暖かな風もたびたび感じられるようになったな。


「神埼くん、神埼くん?」

 ん?

 明らかに人の声だ。

 しかも耳元から聞こえる。

 恐る恐る左を向くと……。


「ぎゃああっ!?」

「きゃああっ!?」

 目の前に、誰かの顔がぬんと現れた。

 あまりの驚きに、ベンチから転げ落ちる。

「あっ、大丈夫……?」

 顔を上げると、そこには荒川がいた。

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