91.劇に出させられました
河口の街、サレナ・シュテレンへの滞在も残すところ数日。
クラーケンという脅威も去り、俺たちは余暇を楽しんでいた。
「で、あんたは今日もモンスター狩り? ブレないねぇ」
杖を片手に出かけようとすると、玖珠田が話しかけてきた。
「それ以外することがないんだな。そういうお前は何してるんだよ」
「いろいろやることあるでしょうが。
……今日は近所の幼稚園の劇に、修道士のお姉さん役として出てもらうよう頼まれてるのよ。
そういえば、魔術師のお兄さん役がいないって言ってたし、あんた出なさいよ」
「え!? ……まぁ、いいか」
「今日は、子どもたちに見せる劇のボランティア、ありがとうございます。
こちらが台本ですので、始まる前に覚えておいてください」
俺と同じように玖珠田に連れてこられた、魔族役・城戸、剣士のお兄さん役・野口と共に幼稚園へ向かうと、老いた園長が迎えてくれた。
森の賢者役らしい。
あらすじは、こんな感じだ。
あるところに、故郷の村を魔族に襲われ、家族も家も失った女の子がいた。
森を彷徨っていると、1000年以上生きたという賢者と出会う。
賢者に魔法を教えられ、一人前になった女の子は、魔族に復讐するため、旅に出たのであった。
(ちょっと重くないか?)
道中、魔物に襲われていた修道士を救い、仲間に迎え入れる。
また、同じ魔族に村を滅ぼされた剣士も仲間となる。
3人で力を合わせ、ついに魔族の配下の魔術師を倒す。
(これが俺かな?)
配下から魔族の情報を得て、ついに魔族と相対する。
強い魔族に苦戦しながらも倒し、彼女は復讐を成し遂げたのであった。
めでたしめでたし。
「……なるほど。異世界の劇って、こんな感じなのか」
「ぐすっ、泣けるねぇ」
「涙もろいな。……ま、とりあえず練習するか。
『はっはっは、よくぞここまでたどり着いたな。我こそは魔族ヴァイオレットの配下、魔術師シャルラッハである!』」
「プッ、あっはっはは!」
両手を広げて演技をしていると、城戸に吹き出された。
その後、1時間ほど練習をし、本番になった。
庭に作られた仮設ステージの前に、園児たちがずらっと並ぶ。
「それでは、『アンナの大冒険』はじまりはじまり〜。
……むかしむかし、あるところに、平和な小さな村がありました」
マイクを持った先生が言うと、左袖から別の先生が出てくる。
「みんな、こんにちは。私はアンナ!」
「「こんにちは!」」
園児たちはノリがよろしい。
「今日は何して遊ぼうかな〜? ……あれ? なんだろう?」
アンナは、こちらの方を見て、首を傾げる。
「はっはっは、私は魔族ヴァイオレット。お前らの村をめちゃくちゃにしてやる!」
城戸が舞台に躍り出て、杖の先をアンナに向ける。
「きゃーっ、誰か助けて!」
「大丈夫かアンナ!」
「お父さん、魔族が!」
左袖から木こり姿の先生が出てくる。
「この村は私が守る! アンナ、逃げるんだ!」
「まずはお前からだ! サンダーストライク!」
城戸が唱えると、杖から電光が走る。
「ぐっ、うわああっ!」
電光を胸に受けた先生は、胸を押さえて倒れる。
ちなみに、先生は平気だ。
サンダーストライクなんて魔法、存在しないからな。ただのハッタリだ。
「その後、魔族ヴァイオレットは村中で暴れ回り、アンナのお父さんもお母さんも、死んでしまいました。
アンナは、村でただ1人、助かったのです」
城戸やアンナの父が退場し、舞台には、うつむき目をこすりながら歩くアンナのみが残された。
「良かったぞ、本物の魔族っぽかった」
「えっへん、なにせ一度は魔王軍に入ったもんですから」
頭からツノを外す城戸は、得意げに胸を張る。
「うっ、お父さん、お母さん……。
許せない、絶対に仕返ししてやる!」
ここでアンナも退場し、舞台に作り物の木や草が並ぶ。
「アンナは、いつの間にか、森へ迷い込んでしまいました」
再登場したアンナは、周りを見渡し、悲しげな顔をする。
「ここ、どこ……?」
「お嬢ちゃん、どうしたんじゃ?」
園長先生が現れる。
「あなたは……?」
「わしはこの森でくらす賢者。どうやら、お嬢ちゃんは魔族にご両親を奪われたみたいじゃな。
そして、復讐したいとも願っておる。
……どれ、わしが魔法を教えてやろう。その気持ちを無駄にはさせん」
「あ、ありがとう!」
「こうして、アンナの特訓が始まったのです。
雨の日も、嵐の日も、暑い夏の日も、アンナは魔法の練習を続けました」
ナレーターが言うたび、俺たちは雨の音を出したり、雷の声真似をしたりと動き回る。
「そして、5年がたちました」
「……わしが教えられることはもうない。さあ行くのじゃ、勇者よ。お主の活躍を期待しておるぞ」
「ありがとうございます!」
アンナは駆け出す。
「今のところ順調だね」
「そうだな。だが、この世界に来てから、物事が平穏に続いた試しがないんで少々不安だが……」
「そ、そんな不吉なこと言わないでよ!」




