9.スライムってかわいいですよね
依頼人は、穏やかそうな老人だった。
「庭にスライムって……よくあるんですか?」
「ああ、これで何回目か……。攻撃はしてこないんだけれど、花壇が荒らされたり、芝生が食べられたりで大変なんだよ……」
老人は、困った顔で言う。
「そのスライムって、いつも同じやつなんですか?」
「ああ、たぶんそうだね。特徴的な、吸い込まれるような青色をしているんだよ」
「なるほど……。まあとりあえず、そのスライムのところに案内してください」
「ああ、分かった。ええと、今はたぶん、裏の畑でほうれん草を食べているんじゃないかな?」
そう言いながら、老人は家の裏手にある広大な畑へと俺らを案内する。
その真ん中あたり、確かに青色のスライムが畑の作物にぱくついていた。
雑魚だな。槍で一突きだろう。
そう思い、2人の方を見ると……。
「何あれ、めっちゃかわいい!!」
「ねえ、あれ私たちで飼わない!? ねえ神埼君、いいでしょ?」
「いや俺に言われても……。おじいさん、いいですかね?」
俺が老人に聞くと、老人は快諾してくれた。
「スライムがいなくなるんなら、何でもいいよ。報酬もちゃんと払うさ」
「わあ、ありがとうございます!」
ということで、スライム退治作戦は、スライム捕獲作戦へと変更された。
スライムは、倒すのは簡単だが、捕まえるのは難しい。
畑を荒らさずに捕まえるのは、なおのこと。
なんとか誘導して捕まえたりかな……。そう思っていると。
スライムが、なぜか榎田のもとに駆け寄ってきた。
え? スライムは人に懐かないはずじゃ……?
「ああ、わたしの能力、『魔物使い』なんよ」
こうして、「スライム使いの榎田菜奈」(自称)が爆誕した。
その晩。
「だめ!モンスターなんて、飼えるわけないでしょ」
「いいじゃん、私に懐いてんだし、私魔物使いだよ?」
「でもねぇ、いくらスライムといっても、飼うのにはお金もかかるし……」
「いらないよ、スライムの食べ物は草だよ?『情報』で、知ってるっしょ?」
「うっ……。はあ、仕方ないわねぇ。いいわよ。ただし、責任は取ってね」
榎田が、日比野をうまいこと丸め込み、スライムの飼育許可を得た。
ちなみに、魔物使いというのは、あくまで「自分より弱い」魔物を使役する能力である。
よって、ドラゴンだのオーガだのを手なずけることはできない。
うまいバランス調整だ。
「ねえ、このスライム、名前つけない?」
怒られたショックからすっかり回復した三城が言った。
「そうだねぇ……スライムとスマイルで、すまいむとか?」
「いいじゃんそれ! 採用!」
千曲の案が採用された。
ちなみに、本日の収入は、合計30000カラン。
食費に11000カラン。
今はパーティーの人たちの厚意で宿に泊めてもらっているが、いつまでも頼るわけにもいかない。
残りは、クラスで管理する貯金箱に保管することにした。
魔法鍵の貯金箱が2000カラン。
17000カランが、貯金箱へと吸い込まれる。
この貯金箱は、設定した全員で一斉に呪文を唱えないと、開かない。
盗まれることはないだろう。
一安心して、22人と1スライムは、幸せな眠りについた。




