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1年C組異世界冒険譚  作者: 神埼時雨(仮)
第七章 水都の亡霊
88/106

88.すごすごと退散しました

 (来ます!)

 沈没船の底から、再び黒い斬撃が繰り出される。

 (沈没船の真上に! 真上なら攻撃は届かないはずだ!)

 誰かの言葉を信じ、皆は沈没船の上に避難した。

 しばらく敵の攻撃もなく、一安心。


 と思ったが。

 突然、沈没船が激しく揺れる。

 必死に舟底にしがみつくが、あまりの揺れに振り落とされる。

 (皆さん、態勢を整えてください! すぐに攻撃が!)

 慌てて船の方に向き直ると。

 そこには、崩れ去った沈没船の残骸の中から覗く、人よりも大きな2つの眼があった。


 眼の持ち主は体を大きく振るわせ、身体中についた船の残骸を払い落とす。

 (あっ、あれは……)

 眼の下には、ギザギザとした歯の並んだ左右に大きく裂けた口。

 その下に蠢く、くすんだ色の無数の触手。

 (ク、クラーケンだ!)

 (逃げろぉっ!)

 数人の冒険者たちが慌てて逃げ出す。

 その背中を、一瞬にしてクラーケンの足が突いた。


 (な、何で魔王軍幹部級のモンスターがここに!?

 ……今はそれより逃げてください! 背中を見せないで、背後から貫かれます!)

 その言葉に、俺たちはクラーケンを見据えながらゆっくりと交代していく。

 (魔法攻撃は効かないのか?)

 (分かりませんが、魔術支援系の支援魔法がない今では、やるだけ無駄でしょう。あれは神話の時代から海を支配してきた魔物、敵うはずがありません)

 (そうか……。というか、なんでそんな強敵がここに? 亡霊じゃなかったのか?)

 (おそらく、集まっていた魂に引き寄せられたクラーケンが、全てを食べ尽くしてしまったのでしょう。あいつは何でも喰らう悪食で、神話では神をも喰らったと言われています)


 その後、俺たちはすごすごと逃げ帰った。

 今の一瞬で何人もが犠牲になったのだ。

 対策を立てねば、全員やられる。

 多くの冒険者がそのまま逃げ帰ったが、かろうじて残っていた十数人で作戦会議を開く。

「座礁事故はおそらくクラーケンが舟底を掴んでぶつけたのでしょうし、マナタイトの暴走もその強大な魔力によるものと考えられます。これ以上の被害を防ぐため、付近の航行を禁止します」

 ギルドの人は、何やら難しい論文を見せながら、そう言った。

「そうなると、サレン川の水運で生きている人々は大打撃を受けるな」

「それだけじゃない。この街は周りを全て水で囲まれている、あらゆる商品が転移魔法による輸送に限られるとなると、他の人々もひもじい思いをすることになるぞ」

「そうですね……。できれば市民の皆さんをこの島の外に避難させたいところですが、どこも受け入れに限界がありますし、皆さんには耐えてもらうしかないですかね……」


「なら、どうやって倒すんだ? 近接は無理だから、魔法での攻撃ということになるが」

「土、木、炎、風属性は水に遮られてダメージが入らない。相手が強大な魔物であることを考えると、闇魔法も効果が薄いか。

 となると、やはり空間を操ることになる水が最適か」

「鋼魔法で拘束したところを、周りの水を抜いて干からびさせるのがいいんじゃないか?」

 井川が言った。なるほど、名案だ。


「動きを封じるといえば、心当たりがあります」

「カンザキさん、それは一体?」

「ちょっと待っててくださいね……。

 委員長、城戸を連れてきてくれ。ちゃんと身動きが取れないようにな」

 日比野が部屋を後にする。

 まもなく、力自慢の冒険者たちに後ろで両腕をしっかりと掴まれた城戸が作戦室に入ってきた。


「こ、この人は……」

 ギルドの人が、城戸を指差して震え出す。

「多分想像通りですね。安心してください、もう裏切ったりはしませんよ。

 ……な?」

 城戸の方を向くと、城戸は青い顔でぶんぶんと首を縦に振る。

「……あなたは一体この人に何をしたのですか……?

 しかし、それは心強い。早速、明日この方を連れて再挑戦しましょう」


 こうして、作戦が決まろうとしたのだが。

「……俺は行きたくねえ。あんなのごめんだよ」

「同感だわ、せめて死ぬなら陸で死にたいわよ」

 ただでさえ少ない冒険者が、もう嫌とばかりに帰ってしまった。

 残ったのは、顔に大きな刀傷のあるつるっぱげの重戦士(タンク)、おそらく魔術師(ウィザード)の丸眼鏡をかけた青髪の女、そして茶色いモヒカンの剣士(ソードマン)、あと日比野だけだった。

 城戸を護送してきた冒険者たちも足早に帰ってしまったので、城戸の「子守り」は俺が引き受けることにした。


「……神埼くん、いくら元裏切り者とはいえ、その扱いは酷くない……?」

「いや、これくらい当然だろ。こいつの素性もよく分からんし、海の中で固められたらクラーケンのオヤツにされかねんだろ?」

 剣を飛ばすためにしか使ってないテレキネシスを有効活用しただけなのに、失礼だぞ。

「なるほど、あなたの魔力なら、すぐにひねり潰すことができると。確かに合理的ですね……」

 ギルドの人は理解を示してくれたようだ。

「……それでは、明日に備え、皆さんは英気を養ってください。解散!」

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