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1年C組異世界冒険譚  作者: 神埼時雨(仮)
第七章 水都の亡霊
85/109

85.混乱に包まれる水都

 建物の角を曲がり、他に走ってくる人々と合流しながら、声のする方を目指す。

 視界が開けると、そこには驚くべき光景が広がっていた。

 サレン川が海へ注ぐ河口。

 その上で、大きな帆船が煙を出しながら沈みかけている。

「地下室に行ったジョンがまだ取り残されてる!」

「頼む、あの積荷だけは助け出してくれ! 妻との思い出の品が!」

「縄を持ってきてくれ! こいつの体重が重すぎて泳げん!」


 まるで映画のワンシーンのような壮絶な光景に絶句している俺たちの方に、誰かが駆け寄ってくる。

「君たち、ギルドに行って冒険者たちを連れて来てくれ! 俺たち漁師や商人じゃどうにも……」

「は、はい!」

 俺たちは弾かれたように駆け出し、街道の先にある建物を目指す。

「座礁事故だ! 救援を頼む!」

 扉を開くなり叫ぶと、ギルドの職員たちは手際よく冒険者を手配してくれた。


 冒険者たちの活躍によって、この事件は終息した。

 積荷や人を魔法で浮かせて救い出す光景は、冒険者の価値の高さを見せつけるようだった。

 だが、一つ気になることがある。

「チッ、またかよ。ろくに報酬ももらえねえし、骨折り損だぜ」

「まあまあ、そう言うな。俺たちは彼らを助け、彼らは商品を値下げしたりしてくれる。共存共栄の社会だからよ」

「そうは言ってもよ、ここ最近増えすぎだろ。ろくにクエストにも行けやしない」

 冒険者たちは、口々にそのようなことを言った。

「そうなんだよ。毎年、鎮魂祭の前は霊の仕業か知らんが事故が増えるが、今年はあまりにも多すぎる。まさか魔王軍が変な魔物を放流したわけじゃないだろうなって、話の種にはなるけどよ」

 冒険者の1人に聞くと、そんな答えが返ってきた。


 さらに、世間を震撼させる出来事が。

 助け出され、意識を取り戻した船員たちが、口々に恐ろしいことを呟くのだ。

「子供の甲高い笑い声がした後、風もないのに舵を取られてそのまま岩場に突っ込んでしまったんです」

「深い水の底に、黄色く輝く目が見えて。あまりの怖さに気を失って、目が覚めたらここに」

「これは、呪いだ……」

 呪いや悪霊にめっぽう弱い人々は恐れ慄き、強がっている人も体が細かく震える。

 いつもは平和なこの水都では、今日ばかりはその水に包囲されていることが悪運に感じられた。


 さらに、それを裏付けることが。

「ええ、この海から魔力を感じます。邪悪な、でもモンスターのものではないですね。まるで、人間の負の感情だけを集めたような……」

 街の占い師や修道士、教会、その他もろもろが一斉にそう言い出したのだ。

 地球では非科学的とされていた魔法が当たり前のように存在するこの世界じゃ、占いは天気予報レベルの信用がおける。


 それが一斉にそう口走ったのだから、街はたちまちパニックになった。

「きょ、今日はもう閉店です! 皆さんも早く家に帰った方がいいですよ!」

「おい、転移魔法の受付はまだか! こっちは急いでるんだ!」

「渡し船なんて出せるわけないじゃないですか、命を張ってまでお金なんて欲しくないですよ!」

 サレナ・シュテレンから逃げ出そうとする人々で、渡し船の桟橋やギルドの転移室は満員になっている。

「皆さん、落ち着いてください! 海の脅威は陸上までは来れません、きっと!」

 そう呼びかける放送の声も、震えている。

 若干不安になりながら、夜を越したのだが……。


「マナタイトが暴走して発火してる! 誰か水を持ってこい!」

「だめだ、あの船は小麦粉や塩を積んでる、水をかけたら積荷が売り物にならなくなるぞ!」

「そうは言っても、このままじゃ船員も死んじまうぞ!」

 マナタイトを推進源とする最新式の船、とやらが事故った。

 結局、積荷を犠牲にし事なきを得たのだが、怒りに燃える商人たちが船の製造工場を襲撃し、工場長が重傷を負うという暴動事件が発生した。

 2日連続での重大事故はかなり珍しく、ついに水運を担当する役所が調査に来た。


 その結果、ある事実が判明した。

「なになに……『海底で強い魔力源を確認。沈没船が霊魂を吸収し、巨大な魔物に変異している可能性』……?

 こりゃどういうことなんです?」

「ああ、数年前に、この王国初の旅客船が嵐で沈没する事故があったじゃないですか。それがこの海に流れ着いたらしいんですよ」

「それで?」

「ただでさえ乗客の恨みや悲しみがこもった旅客船に、サレン川や海で亡くなった人々の思いが吸い寄せられていき、負の精神生命体と化したってことらしいです」

 よく分からんが、要するに厄介なのが現れたということか。


「それに、良からぬ組織が動き始めたようで……」

「良からぬ……まさか密輸組織とか?」

 この世界にそんな大それた犯罪組織があるわけ……。

「そうです。あの旅客船に乗っていたのは貴族や大商人などの金持ちばかり、当然財宝もたくさん眠っています。

 それに目をつけ、密輸組織や盗賊団が一斉にここに向かっているとか……」

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