84.河口の街
「……大事な話がある」
宿のロビーに集結した、1年C組全メンバーを前に、俺は重々しく言う。
「……ただで旅行に行くぞ!」
「「っしゃああっ!!」
魔王軍幹部と2回も戦闘し、疲労も甚だしいだろうということで、ハンドンの計らいで長期休暇をもらったのだ。
存分に楽しんでこいと、宿をすでに予約し、おまけに現地までの切符まで買ってくれた。
「用意しろ! 今日の昼出発だ!」
旅行で転移魔法を使うやつはいない。
現地までの風光明媚な名所を訪れるのも、旅の醍醐味だからな。
今回の行き先までにも、さまざまな名勝があるらしい。
御者に切符を見せると、快く乗せてくれた。
城門をくぐり、平原に通された街道を通って、ひたすらに南下する。
「おお、すげえ広い平原だな」
皆は窓の外を食い入るように眺めている。
王都への道と違い、なだらかな平原には、見渡す限り家も田畑もなかった。
「あなたたち、不思議な人ですね。こんな平原なんてどこにでもあるじゃないですか。
王都出身ですか? あそこは田畑ばかりですから、雄大な平原は少なそうですが」
「まあ、異国の都市といったところですかね。アルトでの生活も楽しいですよ」
日本といっても分かるわけがなかろう。
「こちらが、炎龍が寝床にしたといわれる一枚岩、『龍の枕』です。
高さは80メートル、幅が200メートルもあるんですよ」
目の前に聳える巨大な岩に言葉を失ったり。
「これは、かつて大いなる魔術師ステラが大悪魔ソロモンを封印した地です。
この大きな穴は、大魔術師ステラの放った大魔法によるものですよ」
絶対に隕石のクレーターだろと思いつつ、それでもやはり偉大な伝説に感動してみたり。
「かつてエルフが築いた文明の遺跡です。ほら、エルフの宝物、魔晶石の彫像がありますでしょ」
この星にはどんな歴史があったのかなと考えてみたり。
アルトから1週間をかけて、ついに街が見えてきた。
「あれがサレナ・シュテレンです。私も来たことはありませんが、『水都』と呼ばれるだけありますね」
窓から身を乗り出すと、大河の三角州に築かれた大きな都市が見える。
「サレン川の終わり」を意味するその街は、サレン川という天然の堀に守られ、穏やかな昼を迎えていた。
「馬車はここでおしまい、あとはあそこの渡し船に乗り換えてくださいね」
御者に礼を言い、渡し船に乗りかえる。
ハンドンに交通費としてもらった金貨を渡すと、そのまま乗せてもらえた。
サレン川は、河口付近では幅十数キロにも達する大河だ。
その真ん中の都市に行くためには、船で川を数キロ渡る必要がある。
サレン川は大いに賑わっており、多くの船が行き交っている。
まもなく、シュテレン側の渡しに着いた。
「宿は地図のここね。飯が6時だから、それまでに宿に帰ること。では解散!」
一旦宿に寄り、財布や土産を入れるカバンなど必要最低限の荷物に減らしてから、街を散策することにした。
「しーちゃんはどこ行くのー?」
「そうだな。河原の公園で昼寝でもするかな」
「えーつまんないの。それよりちょっと来て来て」
「おいちょっと待て引っ張るな、髪が抜ける! なぜ髪を掴むんだ! 腕とかにしろ!」
「……なるほど、いい所だ」
「でしょでしょ? 何にもない河原よりよっぽどいいでしょ」
眼前に広がるのは、広大な公園と、あちこちに出された出店の数々。
魔力式の街灯や時計、滑り台のような遊具もあり、雰囲気は完全に日本の公園だ。
とりあえずたこ焼きを買い、三城と並んでその辺のベンチに腰かける。
「ほれ、お前も一個食うか」
「わーい! ……っ!? あっ、はっ、から……」
「クフフ、ハッハッハ。そいつは激辛だ。数多の辛い物好きを撃沈してきた激辛堂の名は伊達じゃないな。
俺も一個……。 辛っ!?」
俺も辛いの無理なのを完全に忘れてた。
「ぐすん、しーちゃんにひどいめにあわされた」
「その言い方はちょっと語弊が……いやそうか。
まあまあ、アイス買ったるから泣くな泣くな」
「ほんと?」
何だかぐずる迷子の子供をあやす気分だ。
「ねえ、何これ」
すっかり上機嫌になった三城が、掲示板のポスターを指差す。
「『水難者鎮魂祭』? ああ、サレン川や海で溺死した人を鎮める祭りだな。安全装置も天気予報もないから、難破や座礁とかはよく起こるんだろ」
来週には、この国で信仰されている宗教の祭りに合わせて、鎮魂祭が行われるらしい。
我々も参加することにしよう。
そう思っていると……。
「おい、船が座礁したぞ! みんな助けてくれ!」
「中に人が取り残されてる! 荷物は後回しでいい、早く救助を!」
河口の方が騒がしい。
ふと服を引っ張られ、振り返ると三城がこちらを見つめている。
「……そうだな。行くぞ!」




