表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1年C組異世界冒険譚  作者: 神埼時雨(仮)
第六章 北方事変
83/106

83.一件落着ですかね

 これはまずい。

 この場を誰かに見られたら、間違いなく責任を押しつけられる。

 かといって、見なかったふりをして逃げ帰るのも気が引ける。

 どうしたもんかと思案していると、三城が少し右にずれ、隣に座るよう促す。

 応じると、三城はぽつりぽつりと話し出す。


「しーちゃんのおかげで、あかねとみさとが殺されずにすむんだね。ありがと」

「……? お、おう……」

「それって、2人が麻痺魔法と霊を操る力っていうすごい能力をもってるからでしょ?」

「そうだな……。それが何か?」

 こいつが何を言いたいのかが分からん。

「しーちゃんは、魔力がひとの10倍。委員長は、情報を手に入れられる力。みんななんかの特殊能力を持ってるわけでしょ。

 ……私の能力がなにか、わかる?」


 俺は悩む。

 正直、こいつが能力を使って問題を解決しているところを見たことがない。

 というか迷宮の件といい芹沢の件といい、どちらかと言うと問題を作ってる側な気がする。

 だが、転移者である以上何らかの能力は持っているのだろう。

「……盗賊系魔法の使用が楽になるとか、その辺だろ。習得に必要な経験値が減るとか、魔力消費が少ないとか」

 井川や泊など、魔法習得が楽になる能力を保持している人はいる。

 だが、予想は外れたらしい。三城は目を閉じ、小さく首を横に振った。


「というか、寺田のようなもんでもない限り、外から見ただけじゃ能力は分からん。俺の魔力が多いって、どう考えても分からんだろ? それと同じだ」

 俺がそう言うと、三城は俯き、少し考えてから言う。

「みんなが持ってる能力って、あたりはずれが大きいと思わない?

 魔力は使ってると増えることがあるらしいし、しーちゃんの能力は弱いほう。

 でも、あかねとかの魔法は、世界に一つだけだから、強いでしょ?」

 言われてみればそうだ。魔法習得がしやすくなるなど、時間を短縮したに過ぎず、最弱の部類だ。

 だが、なぜこのタイミングでそれを?


「……で、結局お前の能力は何だよ」

 数分間の沈黙ののち、痺れを切らして尋ねる。

 三城は大きく息を吐くと、俯いたまま、かすかに呟く。

「……ないんだ」

 その声は、小さいのに妙に耳に残り、頭の中を通り抜けていった。


「……どういうことだ? 神のミスってことか?」

「たぶんそうだと思う。

 ……ほら、『無』って書いてあるでしょ」

 三城はこちらに顔を近づけると、空に指をつき、それをこちらへピッと飛ばす。

 右から、三城のステータス表示が視界に流れてきた。

 確かに、『能力:無』と書かれている。

 というか、これ他の人に見せられるんだ。


「……それは理解したけどさ、何でこんな所で腐ってるんだよ。別に十分活躍してんだし、問題ないだろ」

 三城はピクッと震えると、再びため息をつく。

「私が能力を持ってたら、ヘーレ迷宮でミノタウロスに襲われることもなかったし、あかねたちの裏切りもわかったはず。

 このパーティーで1番役に立ってないのって、私だよね」

「いやまあ考えようによってはそうだが、芹沢の件についてはお前の情報がなかったら間違いなく俺たちは死んでた。

 別にお前が役立たずの無能だと思ったことはないが」


 俺はどうも人の感情を汲み取るのが不得手だ。

 幼稚園の頃、飯をぶちまけて泣いている奴に、お前のせいだから泣くな、自業自得だろと言ったら先生に怒られたのはいい思い出だ。

 だから、俺はあまり人の内面に踏み込むことは避けてきた。

 だが、今回はその必要がある。

 というか、何で今日? 能力がないことを隠してたのは分かるが、何かきっかけでもあったか……ああ。

 そういえば、寺田の能力を知った時、ついでに三城にも聞いたがはぐらかされたっけ。


「ま、俺はお前に感謝してるぞ。お前もこのパーティーの大切な要員だからな。

 ……まあ、これで元気出るわけないわな」

 こちらに顔を向け、愛想笑いを始めた三城は、どこか哀しげだった。

「このままだと俺も後味が悪いな。どうしたもんか……

 そうだ、お前の左手の薬指、まだ治ってなかったよな」

 迷宮で抉られた三城の左手は、修道士(プリースト)2人の力不足か、薬指だけ回復していなかった。

 三城の左腕を手にとると、腰のベルトの小物入れからあるものを取り出す。

 それの蓋を開けると、中身を三城の指の付け根にかける。


「……え?」

「貴族にもらった回復薬だよ。俺との繋がりが欲しい貴族たちが、大量の贈り物をするんだよ。困っちゃうよな。

 ……そろそろ治ったんじゃないか?」

 俺の行動に困惑し俺の顔を見ていた三城が、目線を自らの手へと戻す。

「……あ……」

 まさかといった表情で、手をひっくり返したり、きれいな薬指を触ってくるくる回したりしている三城から目線を離し、立ち上がる。


「それで元気出せ。もうパーティーは終わってるから、直で部屋に帰れよ。俺は先に帰る」

「あ……」

 後ろから三城が声をかけてきた気がするが、ここで帰ってしまった方がいい気がしたのでそうした。



「魔王軍幹部ロンメルを討ち取りし勇者、カンザキ殿とそのお仲間が帰られる! 皆の者、拍手でお見送りしろ!」

 馬車の外から、王都の民たちの割れんばかりの拍手が聞こえる。

 ロンメル討伐の賞金も入りほくほくの俺たちは、のんびりと馬車を使って帰ることにした。

 転移魔法でささっと帰るより、自然を肌で感じながら小旅行するのが、疲れた体にはよかろう。

 ハンドンの計らいで、大きな馬車を手配してもらい、メンバー全員が一同に会することができた。

 ハンドン自身は御者の隣に座り、他愛ない世間話をするらしい。


「おい見ろ、空飛ぶカモメだ!」

「カモメは空を飛ぶもんだろ。何馬鹿なこと言ってんだ」

「あっ、川を泳ぐサケだ!」

 馬鹿話に花を咲かせること2週間弱、俺たちはアルトに帰還した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ