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1年C組異世界冒険譚  作者: 神埼時雨(仮)
第六章 北方事変
82/106

82.戦勝を祝したかったのですが

「お願いします、悪気があったわけじゃないんです! ですから、どうか命は……」

「ならん。魔王軍と共謀し我が国を貶めるなど、本来なら晒し首だ。

 それを裏での処刑で済ませるなど、国王陛下の寛大さに感謝せねばなるまい」

「ぐっ……。しかし、2人はまだ子供です。ほら、神埼くんもなんか言って」

「いや、俺は別に……」

「この人でなし!」

 日比野に無理やり役人の部屋に連れて行かれ、2人の助命を懇願しにきた。


「そもそも、たとえ私が納得しても、私に処刑を止める権限はない。

 どうしてもというなら、陛下に直訴するんだな」

 そう言うと、役人は俺たちを部屋から追い出す。

「よし、王様に会いに行こう!」

「待て、今行っても不法侵入で捕まるぞ」

 王の寝室方面に突進しようとする日比野の肩を掴み、引き戻すのに5分かかった。


「……ほい、これで謁見ができるようになる。1時間で準備しておけ」

 さっきの役人にあれこれ言い、謁見の許可をもらった。

 一応これでも国を救った英雄扱いだから、わりと自由度が高いのだ。

 1時間後に支度を済ませやってきた日比野と共に、謁見の間へと歩み出す。


「久しいな、カンザキよ。前回は歯切れの悪い別れ方をしてしまったが、また存分に話し合おうではないか」

 王は微笑み、跪いた俺たちに顔をあげるよう促すと、そう語りかけた。

「お言葉は大変ありがたいのですが、今回はこの者が、ぜひ陛下にお願いしたいことがあるようで」

 俺の言葉に、日比野は立ち上がり一歩進むと、カーペットに顔を押し付けんばかりに土下座する。

「今回の件で、裏切りを働いた2名に関してなのですが……。

 どうか、どうか彼女らの命をお救いください。2人はまだ子供、死罪は重すぎます。どうかやり直しの機会を」

 顔が半分めり込んでいる日比野に困惑しながらも、王は重々しく語りかける。


「そうか。そちの願いはよく分かった。

 しかし、それはできぬ。国の掟に従い、反逆罪として厳罰に処さねばならぬのだ。

 私もあの2人に関しては心苦しく思うが、この責任ある立場ではそうと言えぬ」

「そんな……。

 分かりました、この件はあきらめましょう」

 日比野は潤んだ目をこすると、再び土下座をした。


「……では、私に策がございます。

 2人の能力は、どちらも非常に強力なもの。これを手放すのは惜しい。

 ですから、2人の冒険者資格を奪うとともに、私たちのパーティーによりその一挙手一投足を監視し、二度とこのような事態を招かぬようにする。もし力が必要な時あらば、その時は活躍してもらう。

 というのはどうでしょうか」

 俺の言葉に、王は驚きの表情をつくる。

「なるほど……。それは名案だ。だが、責任は取れるのだろうな?

 もし彼女らが再びことを起こしたときには、そなたらにも罰が(くだ)ることになる」

「ええ、構いませんとも。その際はこの事態を招いたこの日比野も処刑してしまえばよいでしょう」

「ひどい!!」



「……というわけで、お前らの処刑はなくなった。ただし、再び魔王軍と繋がれば今度こそ晒し首だ。

 お前らも今日のパーティーに参加していいと王が仰っていたから、準備しろ」

 縄を解かれ、腕の跡を指でいじっている2人にそう告げると、俺も準備をしに部屋へ向かう。

 戦場から帰ってきた兵士たちが揃い、今夜国王主催の戦勝パーティーが催されることとなった。

 王都に帰ってきた際に、アルトに帰るまでの宿代わりに貸してもらえた部屋に入ると、俺も支度を始める。

 とはいえ、持っていくものなど何もないな。


「それでは、魔王軍との戦いでの勝利を祝って。万歳!」

「「ばんざーい!!」」

 王の音頭に合わせ、皆は一斉にグラスを頭上に掲げ、それを一気にあおる。

 広い宴会場は、冒険者や王族貴族、所狭しと料理の並べられたテーブルに埋め尽くされていた。

 あちこちから乾杯の澄んだ音や、人々の歓談の声が聞こえ始める。


「やあ、君が今回の戦いでのMVP、カンザキくんか。さあさあ、一杯どうぞ」

「いや、私はまだ酒が飲める年ではありませんので」

「なんと。今でこの強さとは、これは将来が楽しみですな」

「ささ、こちらつまらないものですが、お納めください」

 貴族がコネを作ろうと次々と話しかけてくるのが鬱陶しいが、いろいろと済んだ後の一杯は格別。

 そう思いながら、その辺にあったリンゴジュースを飲んだ。


「……人酔いした」

「大丈夫か神埼? ……まあありゃ疲れるわな」

「水どうぞ。……あんたにはあとでいろいろ言うことがあるからね」

 背中をさすってくれる井川と、こちらを厳しい目で見る寺田。

「俺が何をしたっていうんだ?」

「私がロンメルに吹っ飛ばされたあと、完全に無視したわよね?

 助け出されたの、ロンメルが死んで1時間後よ? 薮の中って、虫がいて本当に気持ち悪いのよ」

 ひとしきり俺を罵ったあと、寺田は当時を思い出してかブルブルと震え出す。

 ていうか、あれは井川の発案だから俺の責任じゃないだろ。



 そういえば、一つ気になることがある。

 こういう時は背後から忍び寄ってきて窃盗(スティール)をかけたり、俺の弱点である脇をくすぐりに来たりするあいつが、今日は妙に大人しい。

 というか、姿が見えない。

「……いや、入場記録がないですね。忙しい方はすでに王都を発たれているので、とくに気にしてはいませんでしたが」

 入り口に立っていた使用人に聞くと、そう返ってきた。

「そうですか。おおかた集合時間を忘れて中庭で蝶でも追いかけているんじゃないかと思うので、連れてきます」


 予想通り、あいつは中庭にいた。

 予想と外れているのは、あいつが蝶を追いかけているのではなく、大人しく中庭の真ん中に植えられた木の根に腰掛けていることだ。

 妙な哀愁が漂っているのはなぜだと思いながら、声をかける。

「おい三城、もうパーティー始まってるぞ」

 振り返った三城の顔を見て、俺はぎょっとする。

 無理に微笑む顔のその目は潤み、涙がこぼれ落ちた。

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