81.北方の平和
ロンメルは、爪を振りかざして飛んでくる。
と、俺の体が勝手に動き、それを難なく避ける。
ロンメルは前転をして着地する。
「っ……。まあ、予想通りだ。ならこれはどうだ!? 無限斬撃!!」
ロンメルはすぐに体勢を立て直すと、かぎ爪を開き、腕を左右に振るう。
目視では確認できないほどの高速だが、俺の体に当たることはなかった。
「くそっ、卑怯だぞ! 決闘では、支援魔法を使わず己の力のみで戦うのがマナーだ!
恥を知れ! それでも人間の代表か!」
ロンメルは攻撃が当たらないと見るや後ろに跳びのくと、こちらに指を指して怒り出す。
「知らんな。そもそもこれは決闘ではない。魔王軍と人間の戦争だ。
戦争にルールもマナーもあるか」
この世界に国際法とかないだろ。あったとしても魔王軍は対象外だ。
「これで決めるぞ、はあっ!!」
俺は地面を蹴って駆け出し、時速50kmを超える速さでロンメルに迫る。
ガキン!!
俺の剣と、ロンメルのかぎ爪がぶつかり、大きな金属音を立てた。
凄まじい衝撃に、俺は思わず目を瞑る。
後ろに飛びのき、再び剣を構え……。
「あれ?」
手に感触がない。
ロンメルの方に目をやると、俺の剣を足蹴にするロンメルが目に入る。
「今のは危なかったな。もしかしたら、俺の爪が飛んでたかもわからん。
だが、これでお前の攻撃手段は……あ!?」
いつものごとく、剣を生成し構えると、ロンメルの口から声にならない声が漏れる。
再び斬りかかる俺に、ロンメルは腕を構え直す。
「ぐっ! ……くそ、やっぱり破れんな……」
今度も、押し負けたのはこちらであった。
「ふっ、一度は危なかったが、意外と大したことねえな」
剣を構え直した俺を、ロンメルは嘲る。
「おいおい、俺が魔術師ってこと、忘れてねえよな。
ここからが俺の本分だぞ」
「笑わせるな。お前の攻撃など、当たらんぞ。
バルカを消し炭にしたのもお前だろう? ロンメル隊がピンピンしていたのはその目で見ただろう」
「ああそうだな。だから、点火!」
紅々と燃え上がり始めた剣を見て、ロンメルはため息を漏らす。
「それが何になるってんだ。たとえ業火に焼かれようが、何の問題もない」
「そりゃそうだろうな。だが真の目的は……!」
俺は3度目の突撃を行う。
ロンメルは当然の如く、腕で守りの姿勢。
俺はその数歩手前で止まる。
「……?」
俺の行動に困惑したロンメルが、腕の奥に隠していた顔を上げる。
「リーチを伸ばすことだよ。はあっ!!」
剣に一気に魔力を注ぐと、炎は数倍に巨大化する。
剣を薙ぐと、炎も共に動く。
「なっ……!」
突然の状況に固まったロンメルの首を、灼熱の炎が真一文字に両断する。
こうして、俺は魔王軍幹部、獣人ロンメルを討った。
大将を失った獣人は総崩れになり、散り散りに逃げていった。
敵のいなくなった源流地域は、まもなく王国軍によって制圧された。
その後も軍は進み、1週間もしたところで、アラメイン高原全域が王国の占領下に入った。
魔王軍に侵攻されてばかりの人間にとっては、大きな快挙である。
また、バルカの再建も始まった。
エスランドからぶんどった潤沢な資金を使用し国中から大工を招き、急ピッチで作業が進められている。
ふた月もすれば、バルカの市民もまた平和な暮らしができよう。
「……さて、知っている情報を洗いざらい吐くんだな。そうすれば、お前たちを新しい魔法の威力実験台として使うこともなくなるだろう」
王城の小さな一室。
我々旧1年C組がこの部屋を貸してもらい、人間を裏切った2人の尋問を請け負った。
「ひっ! ど、どうかそれだけは……」
「何でも言うから許してぇ!」
俺の言葉に、部屋の中央で椅子に縛り付けられた2人が震え始める。
「はいはい、神埼君もそんなに脅さない。
それで、まずは何で魔王軍に入ったかを教えてくれる?」
さすがは委員長と言ったところか、日比野が2人の肩に手を置き、優しく語りかける。
「わ、私はクエストで行った森で魔王軍に勧誘されて。給料が高くてやりがいのある仕事って言うから、つい……」
平城山が肩を落とす。
「私はクエスト中に森で魔王軍に会って。パーティーのみんなと戦ったんだけど負けちゃって。助かる道が魔王軍に入ることしかなかったから……。
だから、許して……?」
城戸はこちらに潤んだ目を向ける。
「おい、嘘発見器もらってこい。魔道具は嘘をつかんからな。
もし嘘だったら鋼魔法と毒魔法を組み合わせた新しい魔法の実験台になってもらおうかな……
クックックック」
「ほ、ほんとだってばぁ!」
「……神埼、それはさすがに引くぞ」
「なんかどっちが魔王軍か分からないよ……?」
俺の悪魔的な笑いに、井川と三城が後ずさった。
「み、みんな大変! 2人が……」
ドアがバタンと開き、嘘発見器を取りに行っていた日比野が飛び込んでくる。
「さっき役人が話してるのを聞いたんだけど……。
このままだと2人、処刑されちゃう!」
「……別にいいだろ」
「「だめだよ!!」」
2人が悲痛な声を上げる。




