78.赤と黒の開戦
俺たちが困惑している間に、城戸は全てのアンデッドの血を啜り終える。
「ぷはっ、あんまり美味しくないね。まずい」
大きく伸びをすると、城戸は血に濡れた口元を手で拭った。
木々の間から差し込む黄金色の光が、その姿を妖しげに映す。
「お前、吸血鬼にでもなったのか? なら何で太陽の下で動けるんだよ」
「いやいや、まさか。魔力を補給しただけだよ」
「魔力? どういうことだ?」
意味のわからん話に、思わず首を傾げる。
「魔力ってのは、血管をつかって身体中を巡ってるのね。
血管が太い首にはたくさん魔力があるから、吸うだけでたくさん手に入るんだ」
うぅ、知らないでよかった事実。
これから仲間を魔力の補給源としてしか見られなくなったらどうしてくれる。
「まあ、私の魔力の低さをカバーできるってことだね。
魔力フルで威力もアップ! 闇の攪乱!」
城戸の話のペースに流されてたせいで、また動けなくなった。
「神聖解呪! 皆さん、こちらの魔力もあまりないんですから、気をつけてくださいよ」
「くそ、こんな小娘に負けるのは癪だが、みんな、一旦撤退だ!」
指揮官の言葉に、俺含め城戸と交戦していた者たちが、仮拠点へと下がっていく。
「ロンメルと交戦している部隊も、奴の魔法に悩まされています。今は修道士たちの魔力が足りているからいいものの、修道士の魔力切れが起きたら我々の終わりですよ。どうしたら……」
テントの隙間から覗くと、城戸が兵士たちを麻痺させ、それを修道士が解除する、ということを続けている。
城戸が修道士を麻痺させないのは、1人でも取り逃がしたら解除されてしまうので、割に合わないからだろうし、修道士たちが城戸にデバフをかけないのは、麻痺させられた兵士を助けるので手一杯だからだろう。
城戸の魔法は広範囲を一気に麻痺させることもできるが、解除する修道士たちはあまり大人数を一気にとはいかないらしい。
「やはり、修道士たちにとびきりの耐性をつけさせた数人を向かわせて制圧するのが1番では?
大人数で行ってもまとめてやられますし」
「そうだな。そこの修道士、ちょっと来てくれ」
俺の提案を受け、指揮官が呼ぶ。
「いえ、私の魔力では、麻痺を解除するのが背いっぱいで、あの術にかからないようにするほどの魔法などかけられません」
やってきた老修道士は、申し訳なさそうに言う。
「なら、私に心当たりがあります。ちょっと、援軍にきた人々のリストか何か見せてもらえますかね?
……ああこれ、朴葉勝という人を呼んできてください」
指揮官に渡された名簿の中の、覚えのある名を指差す。
「神埼? 何の用だ?」
「俺の魔力を吸って、そこの修道士にあげてくれ」
「分かった……。よし、これでOK」
朴葉は俺の手に触れ魔力を抜くと、老修道士の手にも触れ、魔力を渡す。
「おお、力がみなぎるよう。あなたは類まれなる才能をお持ちですな。
しかし、これでも4人が限界でしょう。魔力を頂いたカンザキさんには差し上げるとして、残り3人は誰にすれば……」
指揮官が、冒険者の中からこれはという人物を3人見つけてきた。
「右から攻撃魔法に長けたイガワさん、盗賊の魔法に優れたミシロさん、隠密行動を得意とするテラダさんです」
「あぁ、井川と三城、……寺田って誰だ?」
真面目に覚えていない。
「酷いわね。あんたと同じクラスだったじゃない」
「そうだっけな……。
というか、さっきから気になっているんだが、頭の上のそれは……?」
というと、寺田は頬を赤らめ、パッと手で頭の上のそれを隠した。
「大の猫派なのが影響したのか、着地技術とか気配を消す、あとは猫への変装とかができる能力をもらったのよ。
それを使ってダンジョンでどんどんとレベルを上げていったんだけど……」
「なるほど、使いすぎて耳だけ戻らなくなったと」
「……! わざわざ言うな! 爪で引っ掻くぞ!」
口元を隠し、さも可笑げに笑いながら言っていると、寺田が大きく腕を振りかぶって襲いかかってきた。
これが初めての会話だが、妙になじめる。
やはり、異世界に来ると性格が変わるな。
「そういえば、お前の能力って何なんだ?
井川は魔法習得に必要な経験値が半分になる、だったよな」
顔に大きくついた爪痕をさすりながら、ふと気になって、三城に聞いてみる。
「あー、えーとね。
っていうか、早くあかねを倒さないとみんなが危ないから」
三城は俺の後ろに回り込み、背中をぐいぐいと押す。
「それもそうだな。よし、全員出撃!」
「……あれ、どうしたの? 自分から捕まりにきたの、闇の攪乱!
あれ、効かない?」
今日初めて、城戸の焦る顔を見た。
「やっぱり修道士は偉大だなぁ。お前みたいなやんちゃ娘を簡単に無力化できるんだから」
「あかね、裏切るなんてひどいよ」
「かつての友だちと刃を交えるのは心が痛むけど、仕方ないわね。
……この耳は気にしないでちょうだい!?」
「理由は知らんが、魔王軍に協力する存在は敵だ。容赦なく滅ぼしてやる、覚悟しろ」
ついに、かつての仲間との因縁の戦いが幕を開ける。




