76.エスランドの背信
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エスランド軍は、正直言うとあまり頼りにならなかった。
逃げ惑ってばかりで、剣を交えることもしない。
まるで子供のチャンバラ遊びのようだった。
しかしありがたいことに、各都市からの援軍も次々と到着し、我々はだんだんと優位に傾いていく。
「さて、久しぶりだな、旧1年C組が集結するのは」
俺の目の前には、かつてとは雰囲気が違うが、確かに面影を残した19人。
「……1人いなくないか?」
うちのクラスは22人で、俺と死んだ芹沢を抜くと20人のはずだが……。
「そういえば美里がいないね」
「何でだ? ……まあ、あいつも気まぐれなやつだからな」
そういうもんなんだろうか。
「さて、再会を喜んでいる暇はない。まずは敵の殲滅だ。お前らは臨時で俺の指揮下に入ってくれ。いいな?」
「了解!」「任せろ!」「もちろんだ」
なんだかんだ言って、こいつらも頼もしいのだ。
「近接攻撃職は王都防衛軍およびエスランド軍と協力して突撃! 修道士は支援を! 魔術師は味方に攻撃が当たりかねんから待機だ」
剣士の榎田と野口、槍使いの若山が前線に突っ込んでいく。
俺も剣を飛ばして、気持ちばかりの援助をする。
その時、場に異変が起こった。
エスランド軍が急に動きを止めたかと思うと、いきなり王都防衛軍と剣を交えだしたのだ。
「おい、何事だ! なぜこちらを攻撃する!」
ハンスは自身に浴びせられる怒声をものともせず、高らかに言い放つ。
「我々エスランドは、魔王軍との協力を宣言し、貴様らアンデレアへ宣戦布告する!」
戦況は大きく逆転した。
強くないとはいえ、数千のエスランド軍が一気に寝返ったのだから、パワーバランスも崩れる。
エスランド軍と共闘していたものは、たちまち囲まれて倒された。
どうする?
「市長、街を破壊しても構いませんか?」
「え? まあ、どうせ再建するし、魔王軍を撃退できるなら構わないよ」
その返答を聞くや否や、俺は王都防衛軍の指揮官に撤退を命じるよう要請する。
「私に策があります。王都防衛軍および援軍の冒険者を、バルカ市外に撤退させてください」
「バルカを放棄するというのか? いや、しかしこのままではジリ貧だ。
よし分かった。
全軍、撤退ーーいっ!!」
指揮官は叫ぶ。皆はそれを聞き、渋々ながら退却を始める。
数分後には、バルカの人影は魔王軍とエスランド軍のみとなった。
「全員退却が完了した。負傷者も運び終わっている」
「ありがとうございます。
魔術師、最大火力の攻撃を叩き込め! 市街地ごと敵を殲滅せよ!」
俺の指示に、冒険者らは戸惑いながらも、準備を始める。
「『火炎旋風』!! お前らも打てーーっ!」
バルカに光線が降りそそぐ。
煙が晴れると。
「はあ。これじゃ、我々ロンメル隊に打撃を与えることもできんね。エスランドの奴らもそうだろ……」
得意げに語っていたロンメルの声が小さくなっていく。
事実、魔法を避けられるほどの身体能力を持つロンメル隊と違い、エスランド軍はただの人間だ。
魔法を一気に打ち込まれれば、そりゃ壊滅する。
「カンザキ殿、敵の司令官ハンスを捕らえたぞ」
指揮官が背中に、さっきまで高らかに勝ち誇っていたハンスをくくりつけてやってくる。
「さて、知っていることを洗いざらい吐き、命を見逃してもらうのと、黙秘を続け、お前の部下全員もろとも神様に会ってみるのと、どっちがいいかい?」
俺は杖の先から真紅の球を出し、それをハンスの首に近づけながら言う。
「ひっ! ……分かりました、全て話しますから命だけは!
我がエスランドは、魔王軍と不可侵協定を結んでいます。今回、デイビス長官が金目当てに、ここによこしたのが私たちです」
その他、自分たちがエスランドの最高戦力であること、まもなく敗北がデイビスの耳に届くことなど、いろいろと喋ってくれた。
ロンメルらは、いちおう街が滅んだのと、エスランド軍が壊滅したのを見て士気が下がってしまったので、一旦撤退した。
それとほぼ入れ違いに、青い顔のデイビスがやってきた。
賠償とか色々は、王都からやってきた外交官に任せ、我々冒険者は明日の戦闘に備え休息を取ることにした。
結局、軍隊派遣の代金3兆カラン返還に加え、バルカ再建費用、それまでの住民の避難生活費、さらには契約破棄に対する違約金、合計50兆円をエスランドが支払うことになった。
あと魔王軍との相互不可侵協定の破棄、その代わりとしてこの王国がエスランドに対して軍を派遣し、その代金年6兆。
旧エスランド軍の解体。官僚の総辞職。現在は魔王軍支配下にあるが、係争地の書類上全面的割譲。
これだけを認めさせることに成功したらしい。




