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1年C組異世界冒険譚  作者: 神埼時雨(仮)
第六章 北方事変
75/115

75.支援をもらいましたけども……

「なるほど。それで、我が国に助けを求めに来たというわけか。そなたの話はよく理解した」

 デイビスと名乗った男は、言い終わると紅茶を啜る。

「それでは──」

「だが、手放しに援軍を出すわけにはいかんな。

 我が国の守備隊を剥がせば我が国が危険に陥るし、お前たちが魔王軍と共謀し偽の戦闘を行い、我が軍をおびき出そうと言う作戦かもしれぬ」

 デイビスは冷たく突き放す。


「仰ることは分かります。しかし、相応の代価は支払いますので、どうか……」

 代価という言葉に、デイビスの眉がぴくりと動く。

「代価をね。なら、考えてやらんこともない。いくら出せる?」

 俺は少し思案する。

 あまり高額な言い値だと損をするし、あまり低くても取り合ってもらえない。

 というか、俺はそもそも正式な使者ですらない。

 勝手に金を渡す契約などして大丈夫なのか?


 困っていると、扉が開き、人が入ってくる。

「デイビス長官、王国からの使者がさらに参りました。お連れしますか」

「ほう。君が呼んだのか、カンザキ君?」

「ええ、私だけでは判断できかねる問題ですので」

 ちょうどいいタイミングで来てくれた。

 おそらく正式な交渉をしに来たのだろう。これで、値段のすり合わせもできよう。


「それで、いくら出せるのだ?」

「そうですね……100億カラン、貴国の通貨単位で300億ドラードほどでしょうか」

 100億円か。かなりのもんだが、国という単位で見ればそんなもんなんだろうか。

「それっぽっちで我が軍を危険に晒せと。そう仰るのか?」

「いえ、そう言うわけでは……。貴国はどれほどを望むのですか?」

「そうだな……」

 デイビスは部下らしき人物と小声で話し合うと、告げる。

「9兆ドラードだな。貴国では、3兆か」


「さ、3兆ですと!? こちらが提示した額の300倍ではないですか。さすがにそれは……」

「嫌なら、お帰りいただきたい。私も暇ではないのだ」

「うっ、しかし……」

 こちらの使者は、たっぷり数分悩み続けた後、ゆっくりと呟く。

「分かりました。すぐに王都へ連絡を入れますので、どうか」

「よろしい。ハンス、すぐに軍隊を向かわせろ!」



 数千のエスランド軍とともに、バルカの地へ再び降り立つ。

 現場では、王都防衛軍のさらなる増援と、さらに数を増した獣人たちが激しい戦いを繰り広げていた。

 こちらの方が数は2倍ほど多く見えるにも関わらず、バルカはじりじりと敵の手に落ちつつあった。

 先ほどまで俺がいたテントにも、獣人が火をつけている。

「これは大変ですな。よし、全軍突撃!」

 ハンスとかいう男の声と共に、エスランド軍は剣を引き抜きバルカへまっしぐらに向かっていく。



ーーーーーーーーーーー



 デイビスの部屋にノックが響く。

 ドアが開き、スーツを着た女が入ってくる。

「報告申し上げます。たった今、アンデレア王国より金銀およびスズが送られてきました。ドラード貨がちょうど9兆ドラード分鋳造できる量です。国家間売買契約協定により、これを以て、金銭の支払いが完了したとみなされます。よろしいでしょうか」

「構わん。ドラード貨が作れるのならば、何でもよい。

 それよりその足で、アンデレアに向かったハンスに、魔王軍と協調し、アンデレア軍および市民を攻撃するよう伝えろ」

「え? しかし、契約が……」


 デイビスは立ち上がり、女の耳元にささやく。

「君は知らなかったな。この国が、魔王と相互不可侵協定を結び、その理念に協力すると誓っていることを。

 すでに魔王軍には、奴らを貶めるためにわざと危害を加えると通達してあるとはいえ、早く行かねば不信を招く。

 早く行け」

「はっ、はい……」

 女は困惑した様子で、足早に転移術師の元へと向かっていく。


 デイビスは、再び静寂の訪れた部屋を後にし、廊下を歩き出す。

 その頭の中で、この王国の歴史に想いを馳せる。


 魔大陸。それは我々人間には知られていない、未知の新天地。

 そこには、我々人間や亜人と似たさまざまな魔族が暮らし、またモンスターも住んでいる。

 だが、我々と決定的に違ったのは、彼らが他種族やモンスターとの友好を選んだことであった。

 我々人間や亜人が争い合っている間、奴らは次々と友好協定を結び、魔大陸は急速に統一されていった。

 魔大陸の統一が完了したのが、159年前。


 その頃には、こちらの戦乱もだいぶ落ち着き、平和な世が訪れていた。

 それから数年間が、この星のもっとも穏やかな時期だったであろう。

 だが、事態は急変する。

 魔大陸国家は、もうすでに我々の歯が立たないほどに強大な敵へと化していたのだ。

 奴らを人間もどきと侮り、警戒を怠ったのが運の尽きだった。

 自らの強さを知った魔族は、海峡を渡り侵攻を開始した。


 複数の大陸に分かれている人間側でも、魔大陸にもっとも近いアルム大陸はあっという間に魔族の手に落ちた。

 その後、魔大陸に近い順に、次々と占領されていく。

 すでに我々の版図は、我が国の位置する東大陸の一部と、南部のメア大陸にまで狭まった。

 我が国に、魔王軍の魔の手が伸び始めたのは、50年前。


 時の王は、魔王軍の侵攻を止める方法を模索した。

 王は豊富な金属資源を生かし、それを捧げることによる友好を選んだ。

 幸運にも魔王はそれを認め、この国が魔王軍に攻められることはなくなった。

 軍事で魔王軍を食い止めるアンデレアと、策略により友好を選んだエスランド。

 こうしてアンデレアが滅びゆく様を見ると、どちらが賢いかは明白だろう。


「デイビス長官、報告でございます!」

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