74.最後の希望
「迎撃しろーっ!」
王都からの派遣軍の隊長らしき人物が叫ぶ。
鎧姿の兵士たちは、俺たちの後ろから前に躍り出てくる。
そのまま剣で獣人たちと戦いを始める。
「魔法攻撃は控えろ、味方に当たる。現地軍も協力を頼む!」
ボロボロになりながらも、剣を取り前線へと突っ込んでいく冒険者たち。
「俺たちも協力するぞ、テレキネシス!」
俺は剣を飛ばしてピンポイントの攻撃を試みる。
それは運良く獣人の1人に当たった。
「うがあっ! 何が起こった!」
「剣が飛んでいる……操作魔法か。お前ら、気をつけろ!」
ロンメルは即座に理解し、指示を飛ばす。
「避けられるなら、避けようのない数の攻撃を出せばいい話。テレキネシス!」
俺は手頃な位置にいる、下半身が蛇の、角が生えた男に狙いをつけ、そいつを四方八方から囲むように、数十本の剣をぶつける。
飛んだ剣同士がぶつかる、甲高い音が響く。
横に目をやると、さっきまで剣の着弾地点にいた蛇男が平然と立っている。
「何!?」
「お前の仕業か。あんな遅い剣、ゆっくり見ながら避けられるさ」
「はあ!?」
蛇男は、体を蛇のようにくねらせ、猛スピードで近づいてくる。
そのまま、大きな口を広げ、その尖った犬歯を見せる。
まさか毒!?
俺は手近にあった剣で、辛うじて噛まれるのを防いだ。
その瞬間、剣が青黒く変色し、滴り落ち始める。
「なっ!?」
慌てて剣から手を離し飛びのくと、口を拭いた蛇男はニヤリと笑い。
「驚いたか。俺はウロボロス、このロンメル隊で2番目に強い獣人さ。
安心しろ,全員がこんなに強いわけじゃない。だが俺に目をつけられたのが運の尽きだったな!」
ウロボロスはこちらに襲いかかる。
俺は紙一重でかわし、後ろから剣を打ち込む。
瞬間に避けたウロボロスの頬を、剣が赤く染めた。
「俺の体に傷をつけるとは、お前もなかなかだな。だが、他の奴らはそうじゃないみたいだぜ?」
ウロボロスは自身の背後を親指で指差す。
見ると、獣人と兵士や冒険者が、相打ちになってあちこちで倒れていた。
「あいつらもよくやるよ。魔王軍では最強と言われた俺たちと互角なんだからな。
だが、こっちは俺とロンメルさんの2人、そっちはお前と、あとは役立たずの女子供だけ。どう戦うってんだ?」
「え? 俺だけ? いや、もっといたはずだが……」
「見ろよ」
ウロボロスは、南へ通じる街道を指差す。
全速力で走る兵士たちの銀の後ろ姿が、太陽に光っていた。
「……とまあ、お前に勝ち目なんざねえ訳だ。どうだ? 降伏するか……何だ?」
突然、地響きが聞こえる。
まもなく、先ほど兵士が消えた街道から、馬に乗った騎兵団が駆けてくる。
「まったく、逃げるとは王都防衛軍の風上にもおけん」
「しゃあねえよ、あいつらは西の壁担当だ。弱っちいのも無理はねえ。……兄ちゃん、その点俺らは信用していいぜ。俺らは遠征軍だからな。いつもどこかの戦場で戦ってるスーパーエリート集団だ」
先頭にいた男が、爽やかな笑顔を見せる。
「チッ、最強部隊が来やがったぞ」
「どうするっすか? 流石に2人じゃ無理っすよ」
「そうだな……来い!!」
ロンメルは、高原に向かって叫ぶ。
すると、地面に伏せて隠れていたらしい、さらなる獣人の集団がこちらに迫ってくる。
「ロンメル隊の実力を見せてやれ! あらゆる行動を許可する、全力で叩き潰せ!」
獣人たちは、目を見開き、ニヤリと笑う。
そこからは、想像するもおぞましい。
素早く動き、強い攻撃力を持つ獣人に、遠征軍は善戦した。
だが、1人、また1人とやられていった。
もっとも、裏で待機していた日比野によれば、死んではいないらしい。
かくも強いものかと慄いていたら、日比野がもう一つ教えてくれた。
「まあ、遠征軍とは言っても、最近入ったばかりの新人集団みたいだし、仕方ないよね……」
「え?」
テントに、さっきの爽やか男が血を流して入ってくる。
「君に最後の望みを託したい。このペンダントを使って、エスランド王国に救援を求めてくれ。あそこは魔王軍と交戦状態にないから、軍は余っているはずだ」
男は荒い息で、鎧の中から緑色の宝玉が嵌ったペンダントを取り出す。
「それを首にかけて、頭の中で行き先を念じればいい。頼む、君が最後の望みだ……」
爽やか男は、そのままばったりと倒れた。
「あっ、大丈夫ですか!? ……神埼くん、お願い」
俺は頷き、脳内でエスランドエスランドと念じる。
突然、知らない景色が頭の中に浮かぶ。
広い庭園と、大理石のように美しい城。
おそらく、これがエスランドなのだろう。
俺が心の中で頷くと、突然、ペンダントが光り輝く。
目を開けると、先ほど頭の中で見た景色そのままが広がっていた。
俺は近くにいた役人風の男を呼び止める。
証明書や何やらを見せると、望み通り軍部と外交の官僚に伝えてもらえた。
「私は隣の王国から参った使者でございます。
現在、我が国は魔王軍による襲撃を受けておりまして、状況はかなり悪化しているのです。
相応の対価をお支払いいたしますので、どうか援助を」
俺は深々と頭を下げる。




