72.国王に会いました
俺は、あれよあれよと言う間にバッジを取り替えられ、金の入った袋を渡され、そのまま馬車に乗せられた。
「ちょ、待ってくださいよ。俺は権利を行使するなんて一言も言ってないですよ」
馬車の中でハンドンに文句をたれると、ハンドンは慌てたように俺の口を塞ぎ、耳元で話す。
「国王陛下への謁見を許されると言うのは、つまり陛下がその人に興味を示していると言うことだ。それを断ったら、どうなることか……。
とにかく、今後人前で絶対にそんなことを言うんじゃないぞ」
「は、はあ……」
「というか、なんで馬車なんですか? テレポートがあるのに」
「まあ、向こうにも迎える準備時間が必要だってことだよ。昔から、国王への謁見は馬車で行くというしきたりがあるんだ」
「そうですか。ところで、前にも後ろにも馬車がたくさんあるんですけど、誰が乗ってるんです?」
「後ろは護衛の冒険者だが、前は人じゃないよ。陛下に差し上げる献上品だ。ケルベロスの毛皮とか、ドラゴンの首とかね」
異世界じゃ、献上品も大したもんだな。
その後、10日ほどかけて、街道を東へと進んだ。
サレン川方面に向かった時と違い、道路はよく舗装されており、駅の間隔も短かった。
ハンドンによれば、頻繁に商人や冒険者が利用するため、この街道は王国で最も栄えているそうだ。
途中、何回も都市を通った。
中にはアルトと肩を並べる大きなものもあり、街道の周りは店が多く立ち並んでいた。
宿では、ハンドンが謁見に行く最中だと告げると、無料で貸してもらえた。
情報は周知してあるのだろう。
到着まであと1日くらいになると、目に入るものは広大な草原や雄大な山脈ではなく、整備された田畑となった。
アルト周辺にも田畑はあるが、ここまで大規模ではない。
やはり人口の問題だろうか。
さらに進むと、家の数もずいぶんと増えた。
「城壁の外なのに、人が多いですね」
「農民だな。王都では、農民は城壁の外で暮らすのが原則だ。大農家となれば、中に居を構えるのも許されるがな。
人口30万の王都でも、城壁の中に住んでいるのは半分くらいかな」
日が暮れるころ、ついに最初の城壁をくぐった。
馬車の外を見ると、人々が手を振っている。
「おい見ろよ、魔王軍幹部を討伐したカンザキさんだ!」
「すげえ! おーい、これからもよろしくなー!」
どうやら、ここでまで人気になってしまっているらしい。
昔は恐れられていたらしいが、アザリエルを倒したことで信頼が生まれたのだろう。
その後、2番目の城壁のそばで一夜を明かし、9時ごろ王城に向かい、門を叩く。
「カンザキ様ですね。どうぞお入りください。お連れ様もどうぞ」
庭を進み、大きく開けられた門を通り中に入る。
と、廊下の先に、真ん中を大きな石造りの柱に貫かれた大きな広間が目に入る。
広間だけで、俺らが泊まっている宿がすっぽり入ってしまうだろう。
防衛戦の際は気が立っていたので気づかなかったが、こうも豪奢な建築だとは。
それにしても、随分と巨大だ。
この王城は、5階建ての八角形の本殿を中心として、東西南北に3階建ての部分が突き出した形をしている。中央はさらに2階突き出しているので、合計で7階という驚異的な大きさだ。
実際にはもっと複雑な形をしているのだが、話すと日が暮れるので割愛する。
中央の柱の中の螺旋階段をのぼり、5階につく。
そこで数分待たされた後、今度は南側にある階段を使い、上に登る。
7階に上がると、その部屋で、予定の説明を受ける。
謁見の後は、国王との会食、その後、戦略についての対談を経て、5時に謁見式は終了する。
式の始まりまで待っていると、何やら外が騒がしくなってきた。
「あの、カンザキ様の仲間と名乗る人物が数名いらっしゃっているのですが……」
「呼んでないぞ? どれどれ……あぁ、俺の仲間です。本当にすいません」
ドアを細く開けて向こうを覗くと、うちのパーティーメンバーが勢揃いしていた。
「何でお前らが来るんだよ。謁見は俺と隊長だけのはずだろ」
「道中の護衛の冒険者として王都まで来て、そこからはお前の連れだって言ったんだよ。パーティーメンバー調べさせたら、平謝りで通してくれたよ」
井川は笑う。
「まあいいけどさ……。ん? なんか1人多くないか?」
「どーも平城山です。なんか来ちゃった」
見知らぬ女性がピースをする。
「……誰?」
「ひどい!!」
「……ああ、霊術師か。どうせ、パーティーに戻して欲しいんだろ」
「その通りよ。意外と霊術師って需要ないから、どこも雇ってくれないんだよね」
「ふーん。まあ検討しておく」
話をしていると、案内してきた男が耳打ちしてくる。
「陛下は、お連れ様も一緒に謁見してよいと仰られました」
「そうですか。迷惑をかけます」
やがて、黒塗りの扉が開かれる。
宴会すら開けそうな、大きな広間。
その最奥に、王はいた。
「そなたが、かのカンザキ・シグレか。余は、国王エドワード・アンデレアである」




