7.ついに、町に着きました
さて、これからどうすればいいだろう。
モンスターがたくさんいるだろう洞窟について、正午ごろから激しい議論が行われていた。
「いつモンスターの大群がこっちにくるかも分からない。さっさと攻めて倒さないと」
川向こう班、芹沢が言う。
「いやいや、あれはやばいって。前になんか置いて、さっさと逃げようぜ」
カエル経験者、芳賀は言った。俺としてはこれに賛成だ。
「んなら、私のパラライズで、動き止めてから倒すのは?」
城戸が小屋から這い出してきた。
「ああ、大丈夫大丈夫、あなたは休んでていいよ」
日比野が小屋に連れ戻す。
数十分の議論を経て、洞窟は拠点から人間で2時間というかなり遠い場所にあるので、洞窟へは行かないことにした。
代わりに、拠点周りに柵を設置することとなった。
こうして、俺らはまたもや木々集めである。
3時ごろ、3重の強固な柵が完成した。
柵の上は、槍のごとく尖らせてある。モンスターも飛び越えるのを躊躇することだろう。
これで、ひとまずの防御が完成した。
しかし、新たな問題が露呈してきた。
「……あちい」
そう、温度である。
元いた世界は、30度を超える真夏であった。
この地域、わりかし気候が日本と似ている。
すなわち、俺らはさっき、真夏日に重労働をしたわけだ。
服が1着しかない状況で、誰も濡れたくないのか、川で涼んでいる人もいない。
誰も彼も、小屋の中で大の字になって寝転んだり、友達と葉っぱを振って風を送り合ったりしている。
さらに、2日とはいえ、かなり動いたせいで、汗を多くかいた。
俺はあまり汗をかかない体質なので、あまり気にならないが、汗を多くかく人は、服の臭さに悶絶している。
つまり、今の俺らの最大の目標は、「涼しい服の製造、入手」なのである。
しかし、そう都合よく全身を覆う葉っぱがあるわけもなく、編んだりできるような長くて細いつるもない。
あるものといえば、少々高い草と、木の皮と、小さい葉っぱだけである。
誰か人間に出会えれば、全て解決するのだが。
その時、それはまるで天からの贈り物の如く現れた。
4人の人間。その姿は似ているが、装いは元の世界とまるで違う。
銀に輝く鎧を身につけ、背中に大剣を背負う男。
赤い宝玉が先端についた杖を持ち、藍色のとがった帽子を目深にかぶる女。
宗教者のような白と青の服をまとい、穏やかな眼差しでこちらを見てくる男。
軽装で、弓を手に持ち、背中には矢筒を背負う男。
彼らは、こちらに気づくと、近づいてきた。
「君たち、こんなところで何をしているんだ」
鎧男が声をかける。
「あ、いや、森で道に迷ってしまい……」
日比野が返す。まあ異世界から来ましたっていうよりいいか。
「まあ、それは可哀想に。カール、彼らを町まで連れて行ってあげましょう」
杖女にカールと呼ばれた弓男は、頷いた。
「彼らはこの近くの町の冒険者パーティーらしいです」
日比野が耳打ちする。確かにそういう雰囲気だ。
「いやあ、まさかケルベロスの討伐クエスト中に、迷子の22人に会うなんてなぁ」
アーツと名乗った鎧男は言った。
「あっ、ケルベロスならあっちの森に……」
「まさか君たち、ケルベロスにあったのか!?」
カールが慌てた声で言う。
「あ、はい、20頭くらい……」
「「20頭!!?」」
4人が飛び上がった。
「す、すぐにギルドに報告しないと……。みんな、一旦クエストは中止!急いでギルドへ行こう!」
カールが言い、俺らもそれについていくことにした。
4時間後。
ついに、俺らは、異世界の大都市、アルトへとたどり着いた。
人口は約5万人。人のまばらなこの世界では、人口で十指に入る都市だ。
町を一周囲む城壁の門には、鎧に身を包み、槍を構えた兵士が立っていた。
アーツがカードのようなものを兵士に見せると、兵士は俺らを通してくれた。
町は4時間歩いた疲れを忘れるほど、俺らを驚かせるものだった。
石造りの城壁の中には、まるで中世ヨーロッパのような建物がひしめいている。
ところどころで出店が営業していて、見たことのない食べ物や、謎の小物、ぶっそうな武器まで売っている。
俺らは、パーティーの人たちの厚意で、風呂や着替え、さらには宿まで準備してもらった。
あのパーティーの人たちには、頭が上がらない。
風呂に入り、異世界っぽい服に着替えたあと、宿のベッドに入ると、そのまま引きずり込まれるように眠った。
久しぶりに、夢を見た。
元の世界での生活の夢だった。