69.怪しい貴族の裏の顔
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敵の数、六、七十人。
そのほとんどは、業火により無力化されている。
とはいえ、俺も火の中へは進めない。
お互いに何もできないまま、火が消えるのを待った。
「ふう、ふう……。こいつら、強いぞ! 援軍を要請してこい!」
「はっ!」
1人が廊下へと走っていく。
「……っておい、敵が1人いないぞ! 何があった!」
ようやく三城が抜けたのに気づいたようで、あわて始めるリーデマンの子分たち。
「さあな。荒れ狂え、大台風!」
ダイニングは、巨大な旋風にかき乱される。
「柱や壁に捕まれ! 吹き飛ばされるぞ!」
敵の首魁は、自分も柱にしがみつきながら、指示を出す。
「感謝するぜ神埼、地獄炎!」
風は、一瞬にして竜のような炎へと変わった。
「おい、この魔法はカンザキの合成魔法じゃないか?」
「あれは奴だけが使える魔法だろう! こいつが使えるわけがない!」
あいつらの言っていることは、半分正解で半分間違いだな。
この作戦は、神埼の『火炎旋風』からヒントを得て立てた。
合成魔法でなくても、魔法を同時に出せば再現できる。
しかし、普通は新たに魔法を発動すると、前のものは消える。
前買ったマナタイトに魔法を引き継いでもらうことで、同時に魔法を発動した。
神埼はぼったくりって言ってたが、こうしてちゃんと役に立ったじゃねえか。
「そういえば、リーデマンの情報はわからねえのか?」
俺は、魔法を打っている間に委員長に聞く。
「うーん、それがさっきからやってるんだけど、どうにも全く読み取れなくて。もしかしたら、結界とか、他には着ている服が情報を遮断するとか、いろいろ可能性はあるけど……」
「なるほど、あいつをマッパにすればいいんだな」
言うのと同時に、俺はリーデマンに向かって駆け出す。
「うおおおおっ、風刃!」
手から飛び出したするどい風が、リーデマンに迫る。
「ぐわっ! ……閣下、ご無事でしたか」
突然、リーデマンの前に子分が飛びだし、そいつがマッパになった。
「大丈夫かハドソン! おいっ、ハドソンに何か着せてやってくれ」
リーデマンは毛布をかけられた子分が下がるのを見届けると、こっちに向き直る。
「よく僕が情報を遮断していると見破ったね。だが、この特注の服は並大抵の攻撃じゃ燃えないし破れない。僕の計画上、僕の正体がバレるのはまずいからね」
そんなに強い服、どうやって破くんだよと悩んでいると、委員長がリーデマンに手を向ける。
「服が情報を防ぐんだね。装備無効!」
委員長がとなえると、リーデマンのしわのないスーツが、薄くなってくる。
「なっ、何だ!? 服が、消えて……!」
やがて、リーデマンはパンイチになった。
「委員長、そんな変態な魔法取ってたんだな」
「ち、違うよ! もとは鎧とかを着てる相手の防御力を削るための魔法なんだよ! ……信じてよ!」
「はいはい、そうだねー。それで、情報は?」
顔を真っ赤にして怒る委員長に聞く。
「名前、……あれ? リーデマンじゃない!? 種族……え!?」
委員長は、みるみる慌てだす。
そんな委員長を見て、観念したのか、リーデマンが話しだす。
「いかにも。僕はエルンスト・フォン・リーデマンじゃない。魔王軍幹部、堕天使アザリエルさ」
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人がいないか確認しながら、私は走りつづける。
向こうに人が見えたので、慌てて身を隠した。
でも、このままじゃしーちゃんたちは見つからない。
いいことを考えた──。
「なあ、この前リーデマン……閣下に、戦いを仕掛けたっていうやつは今どこにいるんだ?」
「あぁ? んなこと知ってんだろ。つうか何する気だよ」
「うっ……。いや、あんまり放ったらかして死んじゃったりしちまったら大変だから、見てくるように閣下に言われたんだよ」
「ふん……。まあいいか、そこの扉を開けたら、あいつらがいる地下牢への入り口だ。ほら、鍵だ」
「ああ、ありがとよ」
……上手くいったあぁぁ。
盗賊の能力、「変声」と「変装」を使って、ここの兵士に変装してみた。
鍵をあけ、無我夢中で走る。
うすぐらい石の細道を走りつづけ、ついに鉄格子が見えてきた。
たぶんあそこだ。私は鉄格子の目の前まで行く。
中を覗いてみると……。
「……誰、だ?」
こっちを光のない目で見つめる、しーちゃんがいた。
「し、しーちゃん……」
私は、あまりにショックな光景に、思わずへたへたと座りこむ。
あんなに元気だったのに。
あんなに強かったのに。
あのひきょうな貴族に負けて、こんなひどい仕打ちを受けるなんて。
……あ、今は早く助けなきゃ。
「解錠! ……できた」
ドアの鍵を開け、中に入る。
しーちゃんの後ろに回り込み、手錠の鍵も解除する。
「あぁ……。三城、か」
しーちゃんは、少しだけ光を取り戻した目で私の目を見つめる。
そのやつれた姿に、思わず涙が込み上げてくる。
「うぅ、う、っ!」
声にならない声をあげながら、しーちゃんに抱きつく。
そのまま、顔をうずめて声を抑えながら、泣いた。
「あぁ……どうすりゃいいんだ、これ?」
しーちゃんはしばらく戸惑ったあと、私の頭に優しく手を置く。
「本当はこっちが泣きたいんだがな……。ありがとう」
しーちゃんは、その手で私の頭をぽんぽんする。
「とりあえず……水が欲しい。喉が渇いた」
「うんっ、これ、全部飲んでいいよ」
私は、腰に結びつけてある水筒を、しーちゃんに手渡す。
「ふう……。少し落ち着いた。それで、お前1人で来たのか?」
水筒の中身を一気飲みしたあと、すっかり元気になったしーちゃんはそう聞いた。
「ううん、井川くんと委員長もいっしょ。2人は上でリーデマンとたたかってる」
「そうか。……待て、今お前魔法使ってたよな。ということは……」
「結界、解除できました!」
私は、精一杯の笑顔を見せる。
「わ、私も助けてぇ……」
あっ。




