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1年C組異世界冒険譚  作者: 神埼時雨(仮)
第五章 王都
63/71

63.令嬢をボコボコにしました

「アリスティア・フォン・リーデマンと申します。本日はよろしくお願いいたします」

 目の前に立つ金髪の女性、アリスティアは恭しく礼をする。

「いや、そんな大した者でもありませんから、礼は不要です。して一体どうして私と決闘などする気に?」

 尋ねると、代わりにリーデマンが答えてくれた。

 アリスティアは、貴族間で行われる剣術の大会で優勝するなど、かなりの腕の持ち主らしい。

 その技量は親譲りのもので、すでに実力は父のそれを上回っているものの、アリスティアは剣術において父を深く慕っていた。

 常日頃から、「もし父上が負けることがあれば、私が仇を取って見せます」と言っていたらしい。

 それで今日、リーデマンが俺に敗北を喫したと聞き、魔術の授業をすっぽかしてこの庭に飛んできたそうだ。

 リーデマンもそれを予想し、俺をアリスティアの到着まで引き留めていたのだ。


「私は魔術も嗜んでおりますので、魔術も交えた方式で決闘を行いたいと考えております。そちらも宜しいでしょうか?」

「構いませんよ。私の本職も魔術師(ウィザード)ですし、渡りに船です」

 リーデマンがこちらに歩み寄り、右手を俺とアリスティアの間に掲げる。

「審判は私が。では、初め!」

 リーデマンの号令に、俺は一旦飛びのく。

 相手の攻撃を待ち、その特性を見極めるためだ。


 アリスティアは剣を素早く鞘から引き抜き、大きく横に振りかぶる。

「魔属性付与、疾風(ゲイル)!」

 アリスティアの剣が緑に光ると、その周りに風が巻き起こる。

「はっ!」

 アリスティアが剣を振ると、一気に巨大な風がこちらに向かってくる。

 俺は近くの木陰へ飛び移ると、素早く影に潜る。

 アリスティアはこちらに駆け寄り、地面に剣を向ける。

 影の中だから安心とは言うものの、剣先がこちらに向いているのは怖い。

 というか、このままだと影から出るに出られない。


 俺は影から指先だけを出す。

 草葉の陰に紛れ、うまいこと気づかれていないようだ。

風刃(ウィンドブレード)!」

 指先から、鋭い空気の塊が飛び出す。

「いっ、きゃあ!」

 圧力を足に食らったアリスティアは、そのまま下半身を後ろに吹っ飛ばされ、うつ伏せに倒れる。

 その瞬間、俺は影から出て、剣先をアリスティアの頭に向ける。

「俺の勝ちですね?」


「なっ、なんて卑怯な……」

 足元のアリスティアが、こちらを見上げ、か細い声を上げる。

「魔法を許可したのは、そちらでしょう。『火炎旋風』で火だるまにされなかっただけ、感謝してください」

 事実、決闘が長引けばやるつもりだった。

 ここには修道士(プリースト)の玖珠田もいる、遠慮することはない。

 魔法が存在するから、この世界に決闘で命を落とす騎士や貴族はいないのだ。

「えっ、あっ、あ〜……カンザキさんの勝ち、ですかね?」

 リーデマンは困惑した顔でそう言う。

 後ろの玖珠田も、あいつが飼っていた鳩のポーちゃんを豆鉄砲で撃ち抜かれたような表情をしている。



「まあまあアリス、そう気を落とすな。アリスが負けたのは事実だが、カンザキくんは何もルール違反はしていない。まあ、これからも頑張って腕を磨けばいいさ」

 俯いて目の前の紅茶に手をつけないアリスティアを、リーデマンがなだめている。

「すみませんねぇ、アリスティアには、少し負けず嫌いなところがあって」

「いえいえ、確かに、結構卑怯な手を使ったかもしれませんし。あれは誰でも憤りますから」

「ほんとねぇ。まさかあんな手を使うだなんて。見損なったね」

 玖珠田がこれ見よがしにため息をつく。


 ここは再びリーデマン邸である。

「それで、いったい何の用なんです? 私も忙しいんですよ」

 出された紅茶を置き、リーデマンに問うと、リーデマンは息をはいた後、話し出す。

「アリスティアは15歳でね。この国では、貴族はそれくらいの年齢で結婚するもんだ。そして、決闘は相手の技量を見極める方法としてよく普及している。意味がわかるかい?」

「ま……まさか……?」

 俺のカップを持つ手が震え出し、カチャカチャと金属音を立てる。

「どうか、アリスティアの婚約相手になってはくれないか?」

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