62.貴族と決闘しました
「やあ。会えて嬉しく思うよ。僕はエルンスト・フォン・リーデマン。とある都市を治めている貴族の端くれさ」
腰に剣を下げ、高級感のある服を着た目の前の男は言う。
「そりゃどうも。しかしなんでまた私なんかを?」
「噂は聞いているよ。その若さで副隊長だなんて凄いじゃないか。是非とも一度会ってみたいと思っていたんだよ」
ここは王都にあるリーデマン邸。
リーデマンの言葉を聞き流しながら、俺は相手を観察する。
飄々とした態度とは裏腹に、その姿勢に油断はなかった。
今斬り込んでも、弾き返されてしまうだろう。
かなりの実力者だという印象を受けた。実力でのし上がってきたタイプの貴族かもしれない。
「そうですか。では早速、決闘といきましょうか」
「話が早いね。魔法は禁止、剣一本での勝負でいいかな?」
「おやおや、魔術師の魔法を封じるとは、少し卑怯では?」
「もっともだ。だがこちらとしても、炎に巻かれて死にたくはないからね。そうだな……支援魔法限定というのは?」
「なるほど……。いいでしょう」
とは言ったものの、俺は支援魔法など使えない。
だって修道士がいるんだもの。誰も貴重な経験値を使ってまで取らないよ。
どうしたもんかと思案していると……。
「パワード! アクセラレーション! プロテクト!」
声と共に、俺の体がぼんやりと色とりどりに輝き始める。
声のする方を見てみると……。
「後で感謝しなさいよ、あんた1人じゃ絶対負けるから」
玖珠田がいた。
「って、何でお前がここにいるんだよ」
「心配だったからついてきたのよ。そのでっかい建物の影に隠れてたら、あんた支援魔法なんて使えないのに応じちゃって、ばかじゃないの?」
「くっ……」
言い返せん。
「はっはっは。それもまた面白い。支援もついたところで、早速行かせてもらおうかな?」
振り返ると、リーデマンが剣を抜き、構えるところであった。
俺も剣を生成し、両手で構える。
「では、こちらから……!」
リーデマンは一気に向かってくる。
俺は左によける。
だがリーデマンは、予想していたかのようにすぐ止まり、再び斬りかかってくる。
俺は剣を横にし、リーデマンの剣を目の前で止める。
「さすがだ。だがこれはどうかな……?」
リーデマンは飛びのくと、剣を握る手に力を込める。
剣が青白く輝きだし、ついには燃え上がった。
「ちょっ、魔法は禁止って言いませんでした?」
「剣に魔力を纏わせただけさ。魔法は使ってないよ、魔法は」
なんて手だ。だが、ルールには則っている。
「ならこちらも、点火」
俺の剣は、リーデマンのものと対照的な真紅の炎に包まれる。
実は、これも魔法ではないのだ。
「やはり『地獄の炎を操る者』カンザキ・シグレの名は伊達じゃないな」
リーデマンは言う。
「え? 地獄の……って何です?」
「知らなかったのか。君の名は王都にまで轟いているよ」
まじかよ。全然知らなかった。
「敵を無慈悲に炎で焼き殺していくから、そう言う名前がついたらしいが……」
俺そんな人になってるの!? 道理で王都での視線が何だか冷たかったわけだ。
「全然知りませんでしたね。まあいい……行きますよ」
俺は一気に加速し、リーデマンに斬り込む。
当然、リーデマンは避けた。
「甘い……!」
俺は、剣に魔力を一気に注ぎ込む。
剣の炎が一気に強さを増し、剣の4倍以上の大きさにまで膨れ上がる。
「うわあっ!」
目の前にまで炎が襲いかかったリーデマンはよろけ、尻もちをつく。
俺はそれを逃さず、剣の魔力を戻した後、リーデマンの首元に剣先を近づける。
「俺の勝ちですね?」
リーデマン邸にて。
「いやあ、まさか負けるとは。油断していたなぁ」
俺とついてきた玖珠田は、邸宅に招かれ、昼ごはんをご馳走になっていた。
「そんなことを言って、本気で戦っていたでしょう。剣筋が本気で殺しにかかってきてましたよ」
事実だ。玖珠田の支援がなければ、今頃俺は修道士のお世話になっていただろう。
「ばれたか。しかし君の実力は本物だ。このリーデマン、君の立場を貴族として保障しよう」
「なんか面倒なしがらみに巻き込まれそうなんで、遠慮しておきます」
「ははっ、賢明だ。それはそうと、一つお願いがあるんだ。いいかな?」
「何でしょう?」
「私の娘、アリスティアとも戦っていただけないかな?」




