59.王都に行きました
「ごめんください。もしもーし!?」
扉を叩く音と、上ずった男の声に目を覚ますと、俺は部屋の扉を開ける。
とたん、焦った様子の、鎧姿の男が飛び込んできた。
「何の用です? まだ外も暗いし、こっちだって忙しいんですよ」
「そんなことを言っている場合ではないのです。とにかく来てください、副隊長殿」
男に促され、ギルドの隊長室に駆け込むと、そこには深刻な顔をしたハンドンと、そわそわしている見知らぬ者が5人ほど。
「お連れして参りました」
男がハンドンに報告すると、ハンドンはこちらを見据える。
「急に起こしてしまってすまない。だが、どうやら大事らしい」
話を聞くところによると、この国の王都が、今魔王軍の襲撃に遭っているそうだ。
過去に類を見ないような大軍勢で、人間の国で最強とまで言われる王都防衛軍も、劣勢を強いられている。
状況を打破するため、急遽政府が各都市の防衛隊に使者を送り、協力を要請しているとのこと。
「なるほど。しかし、王都の危機とあれば、向かうべきでは?」
「ああ。魔王軍の目的が、王都の陥落だけならばな」
ハンドンの言うとおり、王都に戦力を集め、その他の地域を攻め落とすことが目的の可能性もある。
ならば、迂闊に冒険者を向かわせるのは避けたい。
転移魔法も無限ではないのだ。
「お気持ちはよく分かります。しかし、このままでは、陥落は免れても、王都は再建不可能なほどに甚大な被害を受けるでしょう。もしかしたら、支援に向かわなかったこの防衛隊に、何らかの処分が下されるかもしれません」
ハンドンは俯き、唸る。
「でしたら、私が王都への援軍を率い、隊長はここを防衛するというのは?」
「いいのか? それができるならば、一番だ」
ハンドンは顔を上げ、顔を綻ばせる。
「でしたら、早速作戦を考えましょう。これが王都付近の地図です」
男が、自らの鞄から地図を出し、机に広げる。
地図は、等高線や森林が描かれており、なかなか詳細である。
「魔王軍は、現在王都の北と北東から侵攻しています。また東のエスランド王国と結ばれた道路も、敵軍の手に落ちたようです」
男は、黒色の立方体を地図のあちこちに置き、さらに矢印を描いた。
「我が軍は現在、南西方面に市民や王族貴族を避難させつつ、王都中央に位置する王城にこもり、遠距離の攻撃を行っています」
地図に描かれた城に、白い立方体が置かれる。
「敵の構成は?」
「さまざまです。不死者から魔獣、亜人、魔人騎士団も混ざっているとか。ただ幹部は確認されなかったそうです」
「なるほど。我々は王城内に転移し、そこから魔法で攻撃するのか?」
「いえ、できれば侵攻してくる魔王軍を直接攻撃してほしいというのが、指揮官のご意向だそうで」
「分かった。この高地は占領されたのか?」
俺は、王都の北西に描かれた高台を指差す。
「いえ、おそらくまだ。敵の目的は王都の陥落ですから」
「この高台に転移すればよいのですね。しかしこの大人数となると、魔力が持つか心配ですね」
転移の術者が呟く。
「ちょっと、転移中に魔力が切れたりしたらことですし、回数を分けてやった方がいいんじゃないですか?」
時空の狭間に閉じ込められるとかないだろうな?
「そうですね。ではまず20人」
術者は魔法を唱える。
目を開けるより先に、戦場の音が聞こえてきた。
魔法による爆発音。怒号と掛け声。唸り声。
目を開けると、雪の薄く積もる巨大な王都が目いっぱいに映る。
しかし、その端々から煙や火が上がり、2重になっている城壁も大きく破損している。
「敵軍に気づかれている様子はないな。全員が転移し終わるまで待とう」
しばらくして、総勢200人の冒険者が、この地に集結する。
魔術師たちは杖を構え、剣士や衛士は最前で剣を構え、その他もろもろもそれぞれ攻撃の備えをする。
「初手が全てを決する。強くなくていい、広範囲に一気に攻撃を注ぎ、弱ったところで剣士たちが突撃する」
俺も、『火炎旋風』の魔力の形を色々と調整する。
「攻撃……初め!!」
俺の合図と共に、魔法が一気に放たれる。
戦闘の開始を告げる花火だ。




