56.アルトの冬は厳しいです
1週間後。
時は12月、厳しい冬の始まりだ。
モンスターの多くは冬眠し、冒険者の財布の中身も寒くなる。
しかし、今年は一味違うらしい。
今年は記録的な寒波がこの辺りを襲い、豪雪となる見込みだ。
実際、まだ12月の頭だというのに、もう道路にはうっすら雪が積もっている。
「冒険者の皆さんは、ギルドに集合してください!」
スピーカーが呼びかける。
「今日の夜から明日の朝にかけて、大雪が降る見込みです。明日の朝から、皆さんには雪かきをしていただきたいと思います」
「いったいどれくらい積もるんだ?」
「町の占い師によりますと、2階から飛び降りても平気なくらいの雪が降るそうです」
めちゃくちゃ降るじゃん。
「そのままだと町の皆さんが苦労するので、手分けして雪かきをして欲しいのです」
なるほど。
そして朝。
「おいおい、占い師なんてあてにならねえぞ」
2階の俺の部屋の窓が、真っ暗になっていた。
もちろん、俺が早く目覚めたから暗いわけではない。
最上階の2階まで積もったのだ。
ロビーに降りると、出られなくなった宿泊客たちが身を寄せている。
「はい、集合」
俺はパーティーメンバーを招集し、宿の周りの雪かきを命じた。
各々の部屋の窓から掘り進め、屋根の上で合流する手筈になっている。
俺は窓を開けて……。
開けて……。
「……この窓、外開きじゃねえか」
閉じ込められました。
「この宿に中開きか引き戸はないのか!?」
「裏口は中開きですけど、1階だからどうしようも……」
「なんだってぇ!? しょうがない、この際火炎旋風で天井を焼き払い──」
「そ、それはやめてください!?」
しかしどうしたものか。
「……より多くの……りました。……ん、救助……まで……待ち……」
途切れ途切れの放送が聞こえる。
「とにかく、まずは雪を溶かすところから始めるか。湯を沸かしてください」
受付に頼んで、大量の湯たんぽを手に入れると、それを窓に押し当てる。
なかなか雪が溶ける気配はない。
俺はしびれを切らし、『不知火』を窓にぶつける。
ヒビが入り、鋭い音とともに、窓ガラスに小さな穴が空いた。
「ちょっとお客さん、窓ガラスを壊すのは……いや、非常事態だし、仕方ありませんね。そのまま続けて」
支配人の許可ももらい、俺はそのままガラスを砕く。
ついに、人が通れるほどの穴が空いた。
「じゃあ、俺はこのまま雪を溶かしていきますんで、お客さんたちを呼んでおいてください。火属性の魔術師は、ついてきてください」
俺が雪を『不知火』で溶かしながら進むと、後から何人かが、横の壁に穴を開けながらついてくる。
ついに、白い天井に光が差し込む。
頭上の雪をかき分け、頭を出すと、そこにはとんでもない光景が広がっていた。
町全体が雪に覆われ、見渡す限り白しか目に入らない。
アルトで1番高い建築物である4階建てのギルドも、雪像と化していた。
俺は呆然としながら座り込む。穴から冒険者たちが這い出してきて、言葉を失っている。
周りを見ると、同じようにやったのか、やっとこさと雪から出てくる冒険者がちらほら見える。
「カンザキさん。あなた確かカエン…なんちゃらとかいう魔法使えましたよね。あれで雪を全部溶かせないんですか?」
「やれるだけやってみましょうかね。しかし、雪の上に立ってちゃ打てないんだよなぁ……」
俺と支配人は腕を組んで唸る。ここで『火炎旋風』なんて打とうものなら、地面に落ちて骨折する。
「あの、私、空飛べるんですけど……。」
後ろから、穴から出てきた荒川がおずおずと手を挙げる。
そういやそうだったな。異世界に来た時以来、使う機会なんてなかったからすっかり忘れていた。
「じゃあ、あなたがカンザキさんを連れて上まで上がって、そこで魔法を放ってもらえれば……」
「できますね。周りの人に、建物に戻るよう伝えてください」
「た、高い……」
俺は体中をピクピクさせ、暗闇に落ちそうな魂を必死で脳に押しとどめる。
荒川に負ぶってもらっているとはいえ、さすがに怖い。
「神埼さんって、高所恐怖症だったんですね」
普段は大人しい荒川が、振り返ってくすくす笑っている。
「そ、そんなことはない……『火炎旋風』っ!」
俺はごまかすように杖を雪面に向け、魔法を放つ。
たちまち雪が溶け、大地が見える。
「『火炎旋風』!」
過去最大の魔力を込めた火柱は、アルトの雪を溶かし尽くした。
その時、俺の意識は暗闇に滑り落ちていった。




