52.事態は思わしくないようで
「何ヘマやらかしてるんですか! 数十匹のリザードマンに大隊が負けるなどアルトの恥ですよ」
俺はやってくるリザードマンを倒しながら、そこら辺の地べたに転がされている分隊長を非難する。
「す、すまない。突然体が動かなくなって、その間にやられた。おそらく魔法だ」
「あたしも、持ち直した時には背後を取られて……」
皆は口々に言う。どうやら状態異常魔法の一種なようだな。
「はいはい、修道士! 状態異常耐性をかけてくれ!」
俺の指示に、地面に転がされていたシスターのような格好をした奴が皆に耐性をかける。
「これで大丈夫だな。『不知火』」
俺たちはリザードマンに攻撃を続ける。
真っ向から戦えば、我々の方がはるかに強い。俺たちはなんなくリザードマンたちを討伐し、残るは3匹となった。
「首領、逃げましょう! もはや勝ち目はありませぬ!」
「くそっ、退却!」
レプティールたちは逃げ出す。
「お前たちはそこの情けない奴らを解放してやれ。敵は俺が仕留める」
場の冒険者たちに指示を出し、俺は奥へと踏み入る。
「止まれえっ、今降伏すれば命は助けてやる!」
「今更失って困る命などない! 我々リザードマン、滅ぶ時は同じぞ!」
「なら正々堂々と戦え! 行動が矛盾しているぞ!」
昨日さっさか逃げた俺が言うのもブーメランな気がするが、俺に背負うものは特にないのでよしとしよう。
「くそう、おい! こいつを麻痺させろ! 並大抵の修道士ではお前の攻撃は貫通するはずだ!」
レプティールが木々の間に向かって叫ぶ。 見ると、そこに人影。
奴がアルト防衛隊の半分を丸々麻痺させるほどの能力の持ち主。
麻痺させられる前に倒す!
「風刃!」
風が空を切り裂き、人影に向かう。
奴はムササビの如く隣の木に移り、それを避ける。
そしてそのままこちらに手を向ける。
まずい! 俺は身を翻し、近くの茂みに飛び込む。
「隠遁!」
俺は気配を消す。この魔法は、影の中に溶け込み、身を隠す魔法。
影の中は自由に移動できるので、俺は奴の正体を探るべく道へと出ていく。
青いフードを被り、顔を隠した人物がいた。
目測だが、身長は俺と同じくらい。肩幅も広くないし、おそらく女性だろう。
「申し訳ありません、捕り逃してしまいました」
奴はそれを裏付けるような高い声で言う。
「気にすることはない。奴を殺すのが目的ではないのだ。確かに恨みつらみはあるが、そんなもの、あの村の奴らに比べたらちっぽけなものだ。今日はもう良い、森へ帰るぞ、ルビア」
「ふう、なんとか許してもらえたな。もう奴に関わるのはやめた方がよさそうだ」
ギルドにて、ハンドンはため息をつく。
あの後戻ると、傷だらけのハンドンたちがこちらに渡ってきていた。
話を聞くに、冒険者たちはなすすべなくボコボコにされたらしい。
なんとか命だけは救ってもらい、こちらに逃げてきたとのこと。
幸い、犠牲者はいなかった。倒れていたものたちも、ただ気絶していただけのようだった。
「んー、あいつなんだか引っかかるんだよなぁ」
俺は銭湯で湯船に浸かりながら、そうこぼした。
「あいつって誰だ? ラプラスなら、魔王軍幹部でも一、二を争う強さだ。傷一つつけられないでもおかしくない」
一緒に入っていた井川が反応する。
「いや、気にしなくていい」
と言うか、こいつに知られてはまずい気がする。
防衛隊の半分を無力化するあのルビアとかいう女。
その佇まいに、俺は既視感を抱いた。
声もどこかで聞いたことがある気がする。
俺の勘違いならいいのだが、仮に俺の勘が当たっていれば、事態はすでに大きくなっている。
早めに対策を講ずるが吉か……?
「カンザキさん。アルト防衛隊長、ハンドン様がお呼びです」
外からの声に、俺は慌てて用意を済ませ、促されるがままにギルドへ向かう。
隊長室に向かうと、そこに、えらく真剣な顔をしたハンドンが座っていた。
アルト防衛隊の副隊長であった分隊長は、今回の件で無力さを痛感し、座を降りるらしい。
んで、代わりの副隊長が……。
「カンザキくん。ぜひ君にお願いしたいんだ」
やっぱり、主人公ルートですよねこれは!?




