50.ラプラスの悪魔
「逃げろおおおっ!」
こんな村に魔王軍幹部が出るとか聞いてないって!
「山口いい! ここからアルトまで救援要請できるか!?」
「……駄目だ、繋がらん! 魔力不足か?」
「何だとおおっ!」
俺たちは森を分け入って駆け抜ける。
その時、突如として眼前に白いタキシードの男が出現した。
「止まれええっ!」
俺たちは慌てて止まる。幸い、ラプラスの間合いに入ることはなかった。
「逃げるとは卑怯な。貴様ら冒険者は、敵を見るやそそくさと逃げ出す小心者の集団であったか」
ラプラスは身長よりも大きな大剣を、いとも容易く片手で構える。
「俺たちは、無謀な馬鹿の集まりではない。実力差の明らかな相手にむざむざと殺されにいくような真似はしない」
そう言いつつ、日比野に『通信』で奴の情報を聞く。
(委員長、奴の特徴について分かることを共有してくれ)
(もう委員長じゃないってば! ……えーと、相手の行動を無制限に予測することができる特殊能力の持ち主。魔法に秀でているわけではなさそう)
なるほど。搦め手や単純な攻撃は通用せずということか。
ならば攻撃手段を封じ、防御に徹するのみ。
(防御を張れ!)
脳内合図に、荒川らが魔法の堅固な防壁を築く。
「殻に閉じこもって、根負けを待つつもりか? 我が目は、貴様らの魔力が切れ、我に切り刻まれる未来を見通しているぞ」
(確かに、魔力切れは問題だね。何とかならない?)
(アルトに援軍を呼べればいいんだけどな……)
現在の状況は、我々人間、パーティーメンバー+村人、合計38人。
対するは、リザードマン軍54匹、加えてラプラス。
閉じこもっている間に、リザードマンに囲まれてしまった。
(防壁を一瞬だけ解除して、『火炎旋風』でリザードマンを掃討してから、再び閉じこもるのは? モンスターを倒せば魔力も補給できるし)
(動きを全部予測されるんだぜ。解除した瞬間に切り刻まれるぞ)
(だめかあ……)
ラプラスの能力は、あくまで「行動の予測」だから、心までは読まれてない……はず。
いや、考えた結果の行動を全部読まれてるんなら、同じことか。
今は迂闊に行動できない。
俺たちは、魔力の持つ限り防壁に篭り続けた。
「なかなかの魔力量だな。まさか日が沈むまで持つとは」
ラプラスは剣を地面に刺し、その上に腕を乗せて休んでいる。
リザードマンたちは、そわそわしながらも忍耐強く持ちこたえていた。
(やばいよ、魔力が持たない)
(こっちも、もう無理そう……)
防壁を張っているものたちが、相次いで連絡を入れてきた。
流石にこのままでは負ける。
(全員! 息を止めて、合図と同時にラプラスと反対方向に全速力で走れ! リザードマンは適当にあしらっておけ!)
言うが早いか、俺は魔法を発動する。
「『煙霞』!」
もっとも、毒でダメージを与えるのが目的ではない。
(走れーーーっ!)
目くらましである。
走りながらふと後ろを振り返ると、煙の中に悠然と立つラプラスの姿があった。
「…回は、………ておけ。いず……が、………に手……」
ラプラスが何かを指示すると、レプティール以下リザードマンたちは森の奥へと消えていった。
当のラプラスも、一瞬にして視界から消えた。
「ふう、ここまで来れば大丈夫でしょう。皆さま本当に助かりました」
「いえいえ、それより、宿を手配しましたので。しばらくそちらで暮らすほうがよろしいかと」
かなり離れた後、村人たち含め全員で帰還した。
村にいてはいつリザードマンやラプラスに襲われるかわかったものじゃないので、しばらくアルトに避難ということだ。
ラプラスの出現は、ギルドにも報告した。
まもなくアルト防衛隊率いる討伐隊が、まともな作戦を立てて挑むだろう。
クエストが出されたら、俺たちも参加するかな。




