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1年C組異世界冒険譚  作者: 神埼時雨(仮)
第一章 異世界
5/19

5.見張りは辛いです

「神埼くん、おーい」

 体が揺さぶられるのに目を覚ますと、石川がいた。

「ああ、見張りか。お疲れ」

 石川と簡単な挨拶を交わし、槍を片手に小屋の外まで出ていくと、すでに異世界初心者、城戸が切り株に座っていた。


 俺は無言で隣の切り株に座る。

 城戸とは別の小学校出身で、特に仲良くもない。

 わずかな月明かりだけで表情はよく分からないが、城戸も同じような表情で座っていた。

 気まずさに耐えかねたのか、城戸が話しかけてくる。

「ね、ねえ神埼君……」

「ん、何」

「いやさ、急にこんなことになって、大変だったけどさ、えっと……頑張ろうね!」

 話すにしても、内容薄すぎないか?

「ああ、頑張ろうな」

 そこからはまた無言になり、そのまま20分ほどが過ぎた。


 ふと、川の向こうの森を見た瞬間、背筋が凍るほどの緊張が走った。

 俺は気づいてしまったのだ。

 こちらをじっと睨む、6つの黄色い光に。

 城戸も気づいたのか、全身が硬直している。


「敵だーっ!!」

 俺はあらん限りの大声を出し、皆を起こそうと試みる。

 黄色い目の色と、6つあることから、さっきのケルベロスと同類だろう。

 仲間が帰ってこないことに気づき、やってきたのかもしれない。


 ケルベロスは森から飛び出し、川に飛び込み、そのままこちらへ渡り始めた。

 時間がない。早く皆を起こさなくては。

 俺は近かった女子用の小屋に飛び込み、大声で叫んだ。

「襲撃だーっ、早く起きろーっ!!」

 その瞬間、石が俺の腹に飛んできた。

 痛みと衝撃で、小屋の外に吹っ飛ばされる。

「襲撃はあんたよ、この変態め!」

 榎田の罵声が響いてきた。

「違えよ、ケルベロスだっ!」

 痛む腹を押さえながら、俺はかすれた声で応答する。この調子だと、内出血しているかもしれない。

「マジで!?」

 榎田は、壁に立てかけてあった槍を手に取り、外に向かって駆け出した。そして……。

「あっ、待て──うぎゃあーっ!!」

 俺の頭を踏んづけて行きやがった!


 いつまでも倒れているわけにもいかない。このままでは、女子全員に踏んづけられるか、変態扱いで村八分(むらはちぶ)(クラス八分?)だ。

 俺は放り出されていた槍を手に取り、川岸へと向かう。

 後ろから、起きてきた男子や女子がやってきた。

「おぉ……、これはやべえぞ……」

 榎田が絶望的な表情で呟く。モンスターとはいえ、さすがに一匹でそれはなくないか?

 そう思い、川を見ると……。

「おいおい、どうなってんだ」

 数十匹はあろうかというのケルベロスの群れが、こちらへと渡って来ているではないか。

 この大群では、なす術なくこの拠点は陥落するだろう。

 もう終わりか……。そう皆が諦めかけた時。


闇の(ダークネス・)攪乱(パラライズ)!!」

 城戸がケルベロスの方へ腕を伸ばし、叫んだ。

 ケルベロスたちは、動けなくなった。


 パラライズ。「麻痺」などと訳される、強力な状態異常。

 特殊魔法は経験値がなければ、習得できないはずだが……?

 見ると、朴葉が城戸の手を握っていた。


 瞬間、俺の脳内に電流が走る。

『ステータス』と心の中で唱え、『経験値』の欄を見る。

 やっぱりな。そこには何も書かれていない。

 朴葉の能力は「スキルドレイン」。経験値や魔法を奪ったり、与えたりできる能力だ。

 昨日、朴葉はケルベロスを倒した後、皆とハイタッチや握手をしていた。

 その瞬間に、全員から経験値を奪っていたのだ。

 もしもの際、誰か一人に流し込むために。


 ケルベロスからの経験値は5だったから、5かける22、110EXP。

 「闇の攪乱」の習得に、足りる。

 やるじゃないか、朴葉勝──。


「あっ、あかね!? 大丈夫!?」

 玖珠田の声に現実に引き戻され、声のした方を見ると、城戸が倒れていた。

 パラライズはかなり強力な状態異常だ。それを20頭を超えるケルベロスに使用したのだ。

 魔力が切れ、体力までかなり消費してもおかしくはない。

 玖珠田と榎田に抱えられ、小屋の中へ運ばれていく城戸を見送る。

 俺、見張りに要らんかったな……。


 パラライズが解けたケルベロスたちは、森の奥へと一目散に逃げていく。

 深追いする必要はないだろう。

 結局、今日は夜通し、城戸を除いて全員で見張ることになった。

 ……のだが、朝まで特に何も現れなかった。

 こうして、異世界での2日目が始まったのである。

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