46.抗争の始まりです
「……それで、俺にいったい何の用なんだ」
芹沢は紅茶を啜りながらこちらを睨めつける。
俺は、芹沢と話をしていた。
パーティー崩壊のきっかけを作った張本人に聞けば、何かわかるかもしれぬ。
そう思って、ギルドの料理屋に芹沢を呼び出したのだ。
「いや、なぜあのタイミングで、あんなことを言い出したのか気になってな」
俺は長椅子の背もたれに左腕を乗せ、右手で紅茶を啜る。
「たまたま2つのパーティーが一緒になったからだ。俺1人で抜けるのはやりづらいが、多ければ気持ちも軽い」
「ほう、そのせいで大勢が迷惑被ってんだがな」
「迷惑? なぜだ。みんな自分の意思で辞めていったんだ。お前にそれを阻害する権利などない」
「確かにな。だがこちらとしては、何か裏があるのではと疑ってしまうよ」
「……俺が、魔王軍か何かと関わっていると?」
芹沢はカップを置き、深くため息をする。
「そうかもしれんな。お前昔はそんな奴じゃなかったぞ、地味だが真面目できちんとしていた。それがねぇ」
「証拠はあるのか? 俺が魔王軍と関わっているっていう、証拠はよ!?」
芹沢はテーブルを叩いて立ち上がる。ギルドの客たちが驚いてこちらを見た。
「……とにかく、推測だけで物を語るのはやめてもらいたい。俺だって別のパーティーに入った。彼らに迷惑が及ぶ」
気まずくなったのか、芹沢は咳払いをしたあと座って言った。
「分かった。だが俺は、その線は捨てないからな。お前も、脱退した他の奴も、あるいはこちらの者も疑う」
俺は金を置いて料理屋ののれんをくぐる。
「窃盗!」
料理屋を出た瞬間、何者かに攻撃を受けた。
俺はすかさず、声のした方にテレキネシスを発動させる。
動けないようにした後、そいつの正体を確認すると……。
「もう、いつもひどいなぁ、冗談だって」
三城が頬を膨らませていた。
「お前はいったい何の用だ」
取られた財布を火炎旋風の脅しで取り返した後、俺は三城に尋ねた。
「べつに、暇だったから」
「お前は俺を軽視している節があるようだな。少し魔術師の本気というものを──」
「ああごめんなさいごめんなさい、やめてぇーーっ!」
最近、俺はオーラというものを出せるようになったのだろうか。
「まあいい、丁度いいからお前に頼みたいことがある」
俺は並んで街道を歩きながら言った。
「何?」
「脱退組が、魔王軍と繋がっていないか、調べろ」
「全員!?」
「全員だ。盗賊にはもってこいの仕事だろう。潜入に盗聴、証拠品の確保まで何でもできる」
「なんだか悪者みたいな扱いでいやだなあ。なんでそんなことしなくちゃいけないの?」
三城は頬を膨らませる。俺にはそういう攻撃は効かないぞ。
「怪しいからだ。クエストの方は受けなくていいから、そっちに専念してくれ」
三城を承諾させた後、俺はその足で宿に向かう。
できるだけ向こうの奴らと接点を持っておきたい。
会話をすればボロも出てくるだろうし、関係者とそれ以外を選別することもできる。
俺は、ロビーの椅子に腰掛け食事をとっている山口に近づく。
「少し話を聞いてもいいか?」
「お前は今何をして生計を立てている?」
「フリーの冒険者だよ。意外と雇ってくれるところがなくてな」
怪しいな。パーティーに所属すれば、それだけ行動も制限される。
「なぜパーティーを脱退した?」
「報酬が割に合わなかったからさ。俺の能力は『通信』だろ? それでタイミング合わせとかして戦ってたのに、それにしては分け前が少なかったんだ。抗議したら『お前、戦闘に参加してないだろ?』だって」
山口はため息をつく。
「そうか。早くパーティーに入れるといいな」
俺は山口と別れる。
山口との会話で、新たな説が浮上した。
黒幕は、井川ではないか。
井川がパーティーの環境をよくないものにし、メンバーのフラストレーションを溜める。
その上で、他の魔王軍関係者が、冒険者のふりをして芹沢に勧誘とかする。
それに乗った芹沢が、パーティーを崩壊させる。
脱退した奴を、魔王軍がそれぞれ取り込んでいく。
もっとも、井川にそのような兆候は、少なくともパーティー分割の前まではなかったから、決定打はない。
だが、警戒を怠るべきではない。




