44.地獄の番犬と戦いました
俺はやめようと言った。
だから、俺のせいではない。
「ぎぃあああああっ!! デカい! 食われる!」
俺の目の前にいる、この犬に無惨な敗北を喫することはな!
ヘルフントは、ケルベロスの上位種。
体が一回り大きく、口から炎を吹く。
俺たちの目の前にいる個体は、大量のケルベロスの王座に君臨している。
ヘルフントが一吠えすると、周りのケルベロスがこちらに向けて走り出した。
「炎よ、廻れ炎よ、全てを灰燼に帰せ……『火炎旋風』!」
ケルベロスはたちまち炎に包まれる。
だが炎を操るヘルフントの手下なだけあり、なかなか死なない。
「電光! ……ふう」
荒川がそれを仕留めた。
「アオオォォン!」
ヘルフントは遠吠えをする。すると周りの茂みがざわめき出す。
「おい、囲まれたぞ」
井川が額の汗を拭く。その瞬間、
「「グアオオッ!!」」
茂みから大量のケルベロスが飛びかかってきた。
「くそっ、皮が硬くて槍が通らない!」
「ひあっ! 引っかかれた!」
「ヒール! ヒール! ヒール!」
戦場はたちまち混沌と化した。
前衛で危険の多い衛士や剣士が軒並み抜けたため、このパーティーは近接戦に致命的に弱い。
「真紅の太刀! よし一頭!」
剣士の野口を除き、全員が遠距離攻撃か後援。
本来ならば、こんなクエスト受けるべきではなかったのだが……
「お前らはレベルの低いクエストしかしてこなかったのかよ。こっちは高難度クエストをバリバリこなしてたって言うのに」
「そんなんだから嫌気がさしたんだろう。もう昔の常識は通用しないぞ」
「そっちのパーティーだってバラバラじゃねえか。……まあいいさ。こんなクエストもこなせないんじゃ、このパーティーもどうしようもねえな」
「はあ? んなこと言うならやってやろうじゃねえか。何があってもお前の責任だぞ」
という口論をして、半ば仲間割れ気味に挑んだのだ。
売り言葉に買い言葉的だから、俺にも責任の一端があるかもしれない。
「こいつらの弱点は尻尾だったな。って無理じゃねえか! 囲まれてんのにどうやって尻尾切るんだよ!」
「普通に心臓も弱点だよ! 氷槍!」
「何だ。なら話は早いな……刀剣生成からのテレキネシス」
俺は日比野の言葉を聞き、いつもの戦法で心臓に剣を刺す。
「んで、点火」
剣に火がつき、炎はあっという間にケルベロスを燃やし尽くす。
「わお、なんて残酷な戦い方だ。俺のことを酷く言うけど、神埼も似たり寄ったりだな」
「人間とモンスターは違うだろ」
「はあっ、はあっ、ようやく全頭倒した。あとは頭領だ」
俺たちの目の前には、こちらを赤い目で見つめるヘルフント。
その瞬間、奴の咆哮が辺りに響く。
同時に空気が焼ける。視界は瞬く間に赤く染まった。
「やばい焼ける! 火炎耐性!」
玖珠田が付与してくれたバフで、俺たちは難を逃れた。
「3チームに分かれろ! こちらが囲んで攻撃する!」
俺の指示に、皆は従う。
「火炎旋風は効かないよな。『煙霞』!」
久しぶりに使う毒霧。ヘルフントは鳴き声を高め苦しげに遠吠えをする。
「今、 電光!」
荒川が心臓を輝く稲妻で貫く。
「はあ、あんたらすげえぞ。もうちょっと高難度のクエストやってても余裕だったんじゃないか?」
「そんなこともないぞ。この前迷宮で腕取れた奴いるし」
「は〜い」
「え!? なんでそんな元気なの?」
帰路、俺たちは雑談をしながら、ヘルフントの死体を板に乗せて運ぶ。
井川は、俺たちの実力にたいそう驚いたようだ。
「昔はあんなに目立たなかった神埼が、こうしてリーダーとなって指揮をとっているとは……」
「昔はあんなにいいやつだった井川が、こうして皆をこき使っていたとは……」
「おいまぜっ返すな」
「さて、改めて今後の方針だが、さっき言った通りあまり高難度のクエストはしない。安全第一だ。異論はあるか?」
手を挙げるものはいない。
「よし。じゃ報酬はこれまで通り、山分けと貯金ね。……そういえば、これまでの貯金ってどうなってるんだ?」
「「あっ」」
どうやら、全貯金喪失のようです。




