4.ケルベロスとの一戦
──我々は、かつてない危機に直面している──。
牙を剥き、3組の黄色く輝く双眸でこちらを睨む狼のような生物。
そう、ケルベロスと我々は対峙しているのである。
といっても、対峙しているというより襲われていると言った方が正しいかもしれない。
何せ全員戦闘経験などゼロである。敵うはずもない。
魔法を使えるのならまだ何とかなるかもしれないが、それも無理とくる。
この状況で取りうる最善策とは──。
「逃げろぉー!!」
皆蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
せっかく作った拠点だが、仕方がない。
これは相手が悪かったな……。
せめて最初に出てくるモンスターは、ツノが生えたウサギとかであれよ。
ケルベロスなど、魔法なし武器なし知恵なしの12歳そこらに勝てるわけない。
おのれ神、とんでもないところに飛ばしてくれおったな。
(みんな大丈夫か!?)
突然、山口の声が脳内に響いてくる。
ああ、彼の能力は「通信」だったか。
(バラバラになっちゃったけど、どうする?)
(うーん、何か集まる目印になるものがあれば……)
若山の声も響いてきた。無線のような能力らしい。
(ねえ、あの高い木はどう?)
玖珠田が言う。左側、200mほど先の方に大きな杉の木が生えている。
(わかった!)(了解)(オッケー) ……。
(すぐ行くわ)(はーい)(分かりましたぁ) ……。
う る せ え !!
数十分後、クラス22人が、無事杉の木の下に集合することができた。
「さて、これからどうしましょうねぇ」
若山が不安げに呟く。
「今から拠点は作れないし、かと言って野宿も危険だし……」
野口が応じた。
「何か武器になるようなものねえもんかね?」
「木を加工すれば棍棒くらいはできそうだけどなぁ」
建築能力って、棍棒も作れるのか?
「誰か、体から武器生やす能力とかねえのかよ」
「さすがに無いでしょ」
「はいはい、みんな静かに」
騒がしくなり始めたクラスを、日比野が収めた。
「『情報』によると、あいつの弱点は尻尾らしいの。何か倒す方法はない?」
「尻尾って言っても、背後に回り込むのも難しいだろうしなぁ……」
「なら、せっかく22人いるんだし、周りを囲んだらどう?」
平城山美里が言った。
「まあ、それが一番だと思うけど……。でも素手じゃどうにもならないしなぁ」
「なら、僕の建築能力で、枝とかを削って槍みたいにできない?」
……建築って何だっけ?
「今のところそれが最大戦力だね、よし、枝を集めよう!」
こうして、本日2回目の枝集めが始まったのであった。
ケルベロスは、地面に放り出された魚を貪っていた。
例の作戦通り、川へ追い詰めるような形で、半円に陣形を組んでいる。
(3、2、1、突撃!)
山口の脳内合図で、一斉に槍を持って飛び出す。
「うおおおおおお!!」
三方からいきなり襲撃されたケルベロスは、慌てて川を渡ろうと背を向けた。
「今だ!」
井川が運よく尻尾を突き刺すことに成功した。
ケルベロスは驚き、動きを止める。
その隙を見逃さず、周りのものから無我夢中で槍を突き刺し続けた。
5分ほど後、ついにケルベロスは息絶えた。
ステータス画面を開いてみると、『倒した魔物:ケルベロス 1』と書かれている。
「よっしゃあああ!」
「倒したぞー!」
と、皆口々に勝利の雄叫びを上げている。
「勝ったな!」
そう言い、朴葉がハイタッチをしてきた。
「はいはい、集まってー」
委員長コールがかかった。
「またモンスターが襲ってきたら危ないし、交代で見張り番をつけないといけないよね」
「そーねぇ、まあ出席番号順でいいんじゃない?」
ということで、1番の荒川、2番の井川が見張り番となり、俺らは寝ることとなった。
見張りは30分で交代だから、5番の俺が起きるのは1時間後か。
そんなことを考えながら、俺は異世界初の眠りについた。