39.迷宮へ行きましょう
アルトに帰還し2週間。
山ははげ、肌寒い風の吹く冬がやってきた。
俺たちの快適な冒険者ライフも、次のステップへと進む段階だ。
「なになに? ヘーレ迷宮探索者募集中? 報酬一人50000カラン!? おーいみんな! 儲け話だよ!」
ある日突然、平城山がギルドのクエスト募集の紙を持ってきた。
「50000か。いいじゃねえか、腕試しにもちょうどいい」
「迷宮か、わくわくするなぁ」
皆も乗り気で、たちまち話はまとまった。
「はい、10人パーティーで迷宮探索クエストの受諾ですね。こちら前払いのクエストとなっておりまして、成果に応じて追加報酬が支払われます。ではこちらにサインを」
代表の日比野がサインし、金を受け取る。
「では注意事項等お話しさせていただきます……あれ?」
ギルドの人の話もろくにきかず、俺たちはギルドを飛び出した。
この世界の迷宮あるいはダンジョンは、自然に作られるものではない。
大半は貴族が金にものを言わせて作らせた、金持ちの道楽だ。
そんなのは作りも単純で、たちまち手だれの冒険者に攻略される。
貴族だから、お宝はそれはそれは豪華で、ひとたびダンジョンができたと聞けば皆こぞって出かける。
だが時々たまに、「真のダンジョン」が紛れている。
長い時を生きた魔族とか、不死王、あるいは狂った魔法研究家。
そんなのが、全てを、人生さえも擲って作るのだ。
「冒険者殺し」を。
中は魔物と罠であふれ、財宝欲しさにやってくる冒険者たちの命を刈り取っていく。
そんな自身の傑作の最奥で、彼らは静かに待つのだ。
自身を倒すものの到来を。
このヘーレ迷宮は、おそらく後者だろうと予測されている。
その根拠は、帰還率の低さだ。
通常の道楽ダンジョンは、低くても9割が無傷で生還する。
しかしこのヘーレ迷宮は、今まで潜った300人のうち、70人が未だ帰還せず、130人は身体欠損など重傷を負って帰還した。
死傷率3分の2というこの脅威の殺戮迷宮に、俺たちは無策で挑んでいるということだ。
ではなぜそれを言わないのか。
興味があるからだ。迷宮というものに。
俺は決して痛々しい厨二病ではないが、こんな世界にいれば否が応でもそういうものに興味が出てくる。
自身の最大の力を尽くして戦うということは、かくも興奮するものかと思うのである。
感覚は激辛カレーに似ている。
食べた瞬間は耐えがたい痛みと暑さに襲われ、頼んだことを後悔さえする。
だが、しばらくすると食べたくなってくるのだ。
魔術師だからましなものの、戦闘時は本当に頭と体を使う。
それこそ耐えがたい苦難だ。
だがそこからしか得られない楽しみがあるのだ。
人が死ぬかもしれないのに、こんなことを考える俺はおかしいだろうか。
「ついたぞ。意外と町から近いな」
声に目線を上げると、目の前には巨大な洞窟があった。
だが普通の洞窟ではない。
たいまつもないのに薄明るく不気味だ。
なのに奥は真っ暗で、床があるかどうかさえうかがい知ることはできない。
「おお……ヤバい空気を感じるな」
榎田が剣を構えながら呟く。
「はいはい、まずは作戦を考えよう」
日比野が言う。俺たちは草むらに座った。
「このパーティーは攻撃特化で、衛士が一人もいない。これは迷宮攻略では致命的だ。何か作戦がある人はいる?」
「まあ、順当に剣士の榎田が最前、その後ろに槍使いの若山。罠発見に盗賊の三城、攻撃力の弱い修道士の清水と千曲は1番真ん中。この陣形が1番だな」
俺は提案する。正直これが1番合理的だ。
「えなんであたしが1番前なん!? 確かにあたし剣士だけどさ、防御力が高いわけじゃないって!」
「じゃあお前以外に誰がいるんだよ。お前が1番防御力高いんだよ」
榎田の反論に、俺は言い返す。これは事実だ、諦めろ榎田菜奈。
「はいはい落ち着いて。私はそれでいいと思うけど、みんなは?」
「いいぞ」「おっけ〜」「……賛成」「それが1番だねぇ」
榎田以外は賛成する。すると榎田も渋々頷いた。
「ありがとう榎田さん。それじゃ迷宮探索レッツゴー!」
「「おー!!」」
こうして俺たちは迷宮に潜った。




