3.魔力が常人の10倍らしいです
ここは異世界、森の中。
皆思い思いに木を切ったり引っ張ったりしている。
「抜けねえ〜」
「お前馬鹿か!?そんなでけえ木引っこ抜けるわけねーだろ!?」
井川と笹川はあほらしいやり取りをしている。
「きゃあ、なんかいるんですけど!?」
どこにでもいそうなギャル、榎田菜奈が騒いでいる。
「何にもいるわけないでしょ、ただの森よ」
城戸茜は異世界初心者らしい。こんな森にでけえモンスターがいるのが異世界だろうが。
「いやいや、そこにいるって!なんか邪悪な雰囲気を感じるのよ」
「まさかあ?」
そんなやり取りをしている暇があったら木を取れ。
「めんどくせえな、誰か魔法で木ぃ切ったり出来ねぇのかよ?」
泊は早くも不平を言い始めた。
「そんなこと言っても、どんな魔法が使えるか分からないし……」
「うるせえよ、お前オタクだろ?何か方法知ってんだろ?」
「ええっ……、『ステータス』も『インベントリ』も違ったし……」
だから現実で出るわけないだろう。
「心の中で唱えてみるか……。あっできた!」
まじかよ。『ステータス』
そう心の中で唱えると、目の前に表?のようなものが出てくる。
氏名: カンザキ シグレ
種族:人族 性別:男
年齢:12 レベル:1
職業:未設定 属性:未設定
HP: 1000/1000
MP:10000/10000
攻撃:11 防御:12
知力:23 敏捷性:13
幸運:10 器用さ:15
経験値:0
習得済み魔法:なし
倒した魔物:なし
特殊能力:魔力10倍
……なるほど。
特殊能力ってのは、多分神が言ってたやつだろう。
能力に被りがないなら、この中で最も魔力が高いのは俺ということになる。
ついに俺もド平凡中学生脱却か?
野口は皆にステータスの表示方法を伝授していた。
皆口々に自分の能力を得意げに語っている。
日比野が異世界に詳しかったのは、この世界の情報がいろいろとわかる、「情報」という能力があったかららしい。
笹川は「無詠唱」。上位魔法とかで必要な詠唱をしなくていいらしい。
泊や清水、井川は「魔法習得ポイント半減」だそうだ。但し泊は攻撃、清水は回復、井川は四大魔法と限定されている。
日比野によると、まず誰かに魔法を教わり、モンスターを倒して手に入る経験値を使用することで魔法が習得できるそうだ。
……まんまゲームの世界じゃねえか。
彼らや俺のように、魔法が強化されている者もいれば、
「真紅の太刀」だの「闇の攪乱」だの厨二病っぽいものもある。
これらは特殊魔法らしく、経験値のみで習得でき、強大な力があるが、恐ろしいレベルの魔力と経験値を必要とするらしい。
石川や荒川の能力のように、いかにも特殊能力といったものもある。
彼らの能力は、魔法ではないから、魔力は消費しないし、覚える必要もないらしい。代わりに体力を使うそうだ。
……「情報」能力、便利だな……。
さて、いくら魔力が10倍あろうと、魔法が使えないんじゃ意味がないな。
何せ魔法を教えてくれる人も、経験値もない。
とりあえず今は木を集めるのに集中しよう。
午後4時ごろ、必要な木材は集め終わった。
なるほど石川の能力は大したもので、あっという間に角材を作り上げた。
手一つで木の表面をやすり始めた時は、流石に驚いたが。
日が落ち始めた頃には、すでに小さな小屋を2軒建てていた。
石川が家を建てている間、他の人は魚を追い回したり、山菜を取ったりしていた。
おかげで今夜の食料には困らなさそうだ。
火炎魔法など使えないので、魚は生で食うしかない。
山菜は、日比野の情報能力で、生で食べられるものだけ集めてきた。
「ふう、大変だったけど、無事に1日過ごせたね」
「そうだね〜」
三城と玖珠田が、そんなことを言いながら山菜を抱えて持ってきた。
……? おい待て、それってフラグじゃ……。
「「うぎゃぁーー!!」」
ほらな!井川と笹川が山からむちゃくちゃ怯えた顔で走ってきたぞ!!
「狼だ!首が3つある!」
「ケルベロスだ!強敵だぞ!」
若山が解説を入れてくる。どうやら厨二病御用達の魔物ご登場らしい。
こうして、22人による異世界生活は、早くも危機にぶち当たるのであった。