26.過去
私は、誇り高き魔術師であった。
この王国の王都で名を上げ、それは何不自由ない生活を送っていた。
それは私が34歳の時であった。
素晴らしき日常が、音を立てて崩れ去ったのは──。
その日、私はパーティーの仲間とともに冒険に出かけた。
クエストは、かつて魔物を従える邪神が建てたとされる迷宮の探索。
なんてことはない、少し手応えのあるクエストといったところだろうか。
私たちは難なく魔物を倒し、ついに未踏領域に差し掛かった。
そこにいたのは、今までに見たこともない獣であった。
龍に近い、しかし全くその見た目は異なっていた。
獅子のような頭、そして象のような太い足。
長年の経験が告げた。こいつは危険だ──。
しかし、私たちはその警告を無視した。
その場で引き返していれば、あのような惨劇も起きなかったものを。
剣士は獣に飛びかかり、弓使いは弓を引きしぼり、修道士は後ろに控えた。
そして私は魔法の詠唱を始めた。
その時、獣はこちらに気付き、その足で剣士を薙ぎ払った。
モンスターの物理攻撃は強力だが、彼なら受け身が取れる。
そう思っていたが、間違いであった。
剣士は肉片と化していた。
彼は、地面に叩きつけられて死んだのではなかった。
獣の腕で、全身を叩き壊されて死んだのだった。
気づいた弓使いは慌てて岩陰に隠れようとする。
しかし遅かった。
当たった矢に気づいた獣は、その口から火を噴いた。
その火は、弓使いの隠れた岩ごと融かした。
修道士と私は、慌てて逃げた。
私は運良く逃れることができた。
しかし修道士は……。
私は責められた。
パーティーのリーダーとして、その選択の誤りを。
その驕りと慢心を。
かつてまで私に向けられていた尊敬と羨望の眼差しは、いつしか憎悪と軽蔑の眼差しと化していた。
私は王都を離れた。
追い出されたのだ。
ギルドには胸の光り輝く金のバッジを奪われ、役所には滞在証と冒険者資格を奪われた。
私はもはや誇り高き魔術師ではなかった。
落ちぶれた醜い浮浪者であった。
私は野山を歩いた。
吹雪吹きすさぶ峰を越え、つたの絡まる森を抜けた。
あてはなかった。ただ悲しく残酷な王都から離れたかった。
私は倒れた。
空腹によってか、あるいはモンスターに倒されてか、体力が尽きてかは知らない。
私の前には、男が座っていた。
そこは森の中であった。
前には焚き火が焚かれ、私は暖かい毛布を被せられ、草むらに寝かせられていた。
彼が救ってくれたのだと分かった。
彼は魔王だと言った。
私はそれが信じられた。なぜかは分からない。ただそんな気がした。
彼は私の力が欲しいと言った。
私は喜んで承った。断る理由がなかった。
彼は呪文を唱えた。
今まで私が使ってきたものではない、古代の言語であった。
私の周りに魔法陣ができ、そして消え去った。
私は不死王となった。
そして私は、魔王軍に身を置いた。
私は勤勉に働いた。
ある時は荒野を駆けて町を滅ぼし、ある時は大河を海峡を越えてそれをやった。
私はいつしか、魔王軍の幹部となった。
そして今日は、この町を滅ぼしにやってきた。
それが彼の望みであり、命令であったからだ。
私は成功すると思っていた。これまで常にそうであり、これからもそうあるべきであったからだ。
しかし違った。
私は今、ここに息耐えようとしている。
生きることを望み、死んだ者を悼む者たちの手によって。
私は忘れていた。
失うことの悲しみを、失う者の苦しさを。
神は私に二度目の罰を下した。




