23.守ると言うことは
「常世の理に相反する魂よ、今ここに顕現し、我が僕となれ……蘇生呪術」
へードルが言うと、彼の周りの土から、大量のアンデッドが這い出してきた。
「おい、お前が直々に戦うんじゃねえのかよ!」
「卑怯だぞ、自分は戦わないつもりか!?」
こちら側から不満が飛ぶ。へードルはそれを気にも止めず、詠唱を続ける。
「さあ我が眷属たちよ、我の血となり肉となれ」
アンデッドたちは、へードルの元へと歩き出した。
「魂よ、仮の依り代より移ろい、我が元へ……霊魂吸収」
へードルから黒い霧が吹き出し、アンデッドたちを包む。
霧が晴れると、そこにはへードル1人しかいなかった。
彼はアンデッドを吸収したのだ。
「ここら一体のすべての霊魂は全て我と一つになった。前よりいくばくかは強くなったろう。さあ愚かなる人間どもよ、我が眷属となるがいい」
「へっ、誰がてめえなんかに従うか」
「そうだ! 俺たちは断固戦うぞ!」
「うおおおおおっ!」
防衛軍の士気は上々だ。なんか雰囲気がデモ隊だが……。
「打て! 高火力の魔術を打ち込むんだ!」
ハンドンの合図に合わせ、俺たちは再び攻撃を再開する。
「荒れ狂え地獄の炎よ、我が敵をその紅き魂で燃やし尽くせ……地獄炎!」
「大地の神よ、空の神よ、その厖大なる力で敵に光の鉄槌を下したまえ……電光剣!」
へードルに、幾度目かの総攻撃が行われた。
草原には火の手が上がり、火の海から煙は立ち上った。
煙が晴れると、しかしそこにはへードルが悠然と立っていた。
「何だと!? この量なら、黒龍も瞬殺だぞ!?」
「えーと、へードルのHP,MPは……!? 1割も削れていません!」
日比野が言った。情報って、敵の残りHPとかまで分かるんだ。便利──。
「はっはっは。それで倒したつもりか? まあ、今まで破壊した都市の中で、最も力強い抵抗だったよ。では、貴様らの最後の言葉を聞こうとするかな」
「ふざけるな! こっちはまだ魔力がある! このまま根気良く魔法を打って、絶対にお前を殺すぞ!」
「まだやられたわけじゃねえぞ! 行くぞお前ら! 不死王を殺せ!」
数人がへードルの方へと向かっていく。それは危険な気がするが……。
突如へードルの持つ杖から黒い閃光が走り、彼らの胸を突いた。
彼らは胸を押さえ、倒れる。
「っ、死んでます……。生体反応がありません」
日比野が震える声で伝える。ハンドンは俯き、黙って手を合わせた。
「おいおい、これやべえぞ……。即死魔法か?」
「お、俺は逃げるぞ! 最初からそうすればよかったんだ!」
防衛軍はざわめき始める。それをハンドンは鎮めた。
「みんな、聞いてくれ。彼は西エルフ国軍の長官、グラディウス。そしてこっちは、東エルフ国軍の長官、グローヌだ」
ハンドンの両側にいる男が会釈した。
グローヌが、へードルに呼びかける。
「少し時間を頂きたい。降伏するか戦うか、よく話し合って決めたいんだ」
「よかろう。少しばかりのハンデはくれてやろう」
へードルが了承すると、俺たちは城門の中へ入り、大通りに丸く座った。
「まず、戦うか、それとも降伏し、町を明け渡すか。戦いたいものは通りのあちら側へ、そうでないものは反対へ動いてくれ」
ハンドンが言うと、人々は左右に割れた。
比率にして3:2といったところだろうか。少しだけ戦いたいと思っている人の方が多いようだ。
「そうか……。できれば私は、皆とこの町のために戦いたいと思っている。せっかく両エルフ国の支援があるのに、ここで我々が引き下がってはいけないと思うんだ」
ハンドンは皆を説得する。
「でもよう、あんな強いやつ、今まで会ったことも、ましてや戦ったことなんてない。一瞬で殺されちまうよ」
「ああ、殺されないで済むなら、さっさと逃げようぜ。町のみんなはどこに避難してるのか知らないけど、新しい町なんてすぐに作れる」
皆は弱音を吐く。その時。
「お前ら、それでも冒険者なのか? 今のお前らは、ちょっと強いだけのただの臆病者にしか見えんぞ」
泊が立ち上がり言った。それに続いて榎田も立ち上がる。
「そうよ、町の危機に、全てを賭けて戦うのが、あたしたち冒険者の役目じゃないの?」
皆は顔を見合わせ、次第に決意したような表情になり、ついに頷き立ち上がった。
「そうだな、思えばこの町も、思い出深いものだ。それを捨ててしまうのは惜しいな」
「ああ、思えば20年前、パーティーを追放され、1人さまよっていた私を救ってくれたあの方、彼に連れられてやってきたこの町は──」
「はいはいじいさん、思い出話はいいから、さっさと城門へ行くぞ」
「じいさんとは何を言う、私はまだ現役の魔術師だぞ!」
俺たちは、城門に再び並んだ。
「答えは出たか、聞かせたまえ」
へードルの問いに、俺たちは口々に答える。
「へっ、命を捨てる覚悟はとっくにできた。貴様を差し違えてでも倒す!」
「てめえのおかげで、この町の思い出を思い出したよ。ありがとう……そして死ね!」
へードルは一瞬顔をしかめ、そしてニヤリと笑った。
「それでこそ愚かなる人間……。面白い。では我も、本気で行かせてもらう」




