2.これが異世界ってやつですか
目を開けると、そこは青々とした木がしげる深い森の中であった。
「インベントリ! ……違うか、ステータス! ……あれぇ?」
野口が画面を開こうとしている。現実で出るわけなかろうに。
「ああん、家に帰りたい〜」
気の弱い女子、三城茉里が泣きぬれている。
「大丈夫だから、ぐすん」
玖珠田美琴が泣きながら三城をなぐさめている。
「はい、みんな集まって」
日比野が皆を誘導する。さすがは委員長。
「さて、これからどうしたらいいと思う?」
「やっぱり、町に向かうのが一番だと思います」
若山はそう言う。一方、野口は
「近くに町があるとも限らないし、動物や草を探して食べるのが一番だと」
どっちが正しいのだろう。オタクが偶数だとこういう時に困る。
「まず開けた場所に拠点を作ろうぜ」
「なるほど、それはいい!」
おや、オタクたちは一瞬で妥協点を見つけたようだ。
「でもよお、あのジジイが言ってた力っての、全然分かんねえよ」
泊が愚痴る。
「確かに、それもそうだけど……、町を見つける前に死んじゃったら意味ないし、ここは彼らに従うほうがいいんじゃないかな」
委員長は冷静だ。本当に異世界初心者なのか?
「よし、じゃあ河原を探そう。川のそばは開けているからね」
読書家の石川遼也が出所、真偽ともに不明の情報を口にする。
こうして22人の川探しが始まったのであった。
「……見つかんねえ」
歩き出して4時間、時差がないとして正午だ。文句が出るのも無理はない。
「誰か空飛べる能力もらったやついない〜?」
笹川が無責任な発言をする。
「あっ、私飛べるみたい……」
内向的な美少女、荒川美鈴が自信なさげに呟く。
荒川は10cmほど浮いていた。
「まじで!?ちょっと上まで行って見てきてくれよ」
「えっ、あっ、うん……」
荒川は少し嫌そうだ。まあそりゃそうか。俺たちは制服のまま転移した。そして女子の制服はスカートだ。
「って、ああそうか。無理か……」
笹川は察しがいい。
「おおい、川だぁよ〜」
のんびりした声で千曲由梨が言う。ベストタイミングだ。
「よっしゃあ!」
「助かったぁ!」
口々に皆が駆け出し、川に飛び込んだり、水を頭からかぶったりしている。
まあ4時間も歩いたんだ、無理もない。
「ここは広いし、簡単なキャンプくらいなら作れそうですね」
石川が俺に話しかけてきた。
「ああそうだな、作れるやつがいるんならな……」
建築能力持ちはいるだろうか。
「僕、作れますよ」
こいつだった。
「ってことは、材料さえあれば生活には困らんな」
「そうですね。だからまずは木とか動物の皮が欲しいところですが……」
「動物ん中には住みたくねえな、よし、木を集めることにしよう。おーい委員長〜」
委員長が俺たちの方にやってきた。
「何?何かいい案思いついたの?」
「とりあえず、こいつが建築能力持ちみたいで、家つくろうぜって話」
「おお、やった!それじゃみんな集合〜!」
クラス全員が集まってくる。この委員長すげえ。
「石川くんが建築できるらしいの。だからみんな木を集めてきてくれない?」
委員長の言葉に、皆ぞろぞろと森へ向かう。
こんな状況で逆らっても意味がないと思ったのか、泊も森へ向かっている。
これならすぐに集まるだろう……。そう思いながら、俺も森へ向かった。