16.アルト最大の危機
「はあ、はあ、はあ……。くそ、なかなかやりますね」
霧が晴れると、ヴァルトは胸を押さえ、肩で息をしていた。
よし、かなり体力を削った。あとはじっくりと追い詰めて……。
しかし、ヴァルトはまたも立ち上がり、俺たちを嘲嗤う。
「だが、たった一度でいい気になるな。我が操る魔法は100種類以上。今度は何で戦うことにしましょうかね」
ヴァルトから魔力が溢れ出す。悪魔公爵ともなればその魔力は俺の数倍を超えるだろう。
「これだ……氷牢」
地面から、氷が生えてくる。氷はたちまち俺たちの足を飲み込んだ。
「盤弾」
辺りに散らばっていた、ガラスや瓦礫が浮き、俺たちに向かってくる。
「くそ、ウィンドシールド!」
俺は、瓦礫を風で防ぎながら、火球を氷に当て、足を自由にする。
「ふう、やってくれたな、刀剣生成」
俺は剣を生成し、両手で構えた。
他の皆も、次々と氷を溶かし、武器を構える。
「素晴らしい……では、そろそろ森の悪魔お得意の戦術を……大樹」
ギルドの屋根を突き破り、巨大な木が生える。
ヴァルトは、生えてくる木の枝に素早く腰かけ、そのまま天空へと消えていった。
上から、ヴァルトの声がした。
「では、捕える枝」
とたんに、大樹の枝がタコの足のように動き出す。
枝は鋭く、回り込み、時にはゆっくり動き、俺らを翻弄する。
切っても切ってもキリがない。ならば……。
「火球」
枝に火をつけてみた。
火は、枝の先から根元へと広がる。
ん? これいけるか?
まあそんなことはなく。たちまち火は枝に覆われて消えた。
しかし、それを見た他の魔術師たちも、こぞって火を放つ。
枝は次々と火に焼かれ、灰と化す。
ついに、大樹の幹へと火が燃え移る。大樹は、たちまち火柱へと変貌した。
「な、何だ!? くそ、うわああ!!」
上から悲鳴が聞こえる。まもなく、悪魔が空から落っこちてきた。
彼は翼を広げるまでもなく、地面に激突する。
「はあ、はあ、はあ……人間にここまで苦戦するとは」
「はっ、そうだろう。人間様も強いんだぜ」
「木が燃えるって知らなかったのか、バカ悪魔め」
冒険者たちは、ここぞとばかりにヴァルトを煽る。
ヴァルトは、彼らを一瞥したあと、おもむろに立ち上がり、ニヤリと笑った。
「しかし、人間ごときがこの悪魔公爵ヴァルトに敵う訳はない」
ヴァルトは左手を高々と掲げ、その上に巨大な真紅の球を生じさせる。
「何だ? ……はっ、周りを囲め! 町へ被害を出すな!」
ハンドンが叫んだ。俺たちは、慌ててヴァルトの周りを囲み、防御を張る。
その瞬間。
ドゴオォン!!
轟音と共に、爆風と瓦礫の破片が高速で迫ってくる。
俺たちは、それを必死で防ぐ。
見ると、ヴァルトの周りには、紅い竜巻のような風が渦巻いていた。
ヴァルトの笑い声が響く。爆風はさらに強まった。
「終わりだ……紅蓮の終焉」
その瞬間、視界が真っ白に染まる。
目を開けると、辺りには何もなかった。
目測で、半径500メートル以内の建物はすべて消滅した。
辺りに残るのは、瓦礫と煤。
その爆心に、ヴァルトは笑みを浮かべて立っていた。
「ははは、はっはっはっは。やはりこの悪魔公爵に敵うものなどいない」




