14.黒服の悪魔
殺される。俺は潔く目を閉じた。やるなら一思いに──。
ああ、異世界での生活、楽しかったなあ。
「ああちょっと、怖がらなくてもよいのに」
悪魔が優しく語りかけてきた。
「まあ、そんな茂みの中じゃ何ですから、ちょっと出てきて下さいよ」
逆らうわけにもいかず、俺らは茂みから出てきた。
「では、自己紹介をしましょう。我が名はヴァルト、この森を統べる公爵」
ほらね。強いやつだ。
「あ、えーっと、井川翔って言います。アルトで冒険者をしております」
井川に続き、皆自己紹介をした。
「なるほど。お会いできて光栄です。皆さん、オーガの軍団を倒した方々でしょう」
「ああそうですけど……。なぜそれを?」
「なに、私も魔王軍のはしくれ、それくらい知っていますよ」
清水の問いに、ヴァルトは答えた。
「魔王軍ねぇ、一体どうしてこんな森で?」
清水は質問を重ねる。
「ふむ。まあ答えてもよいでしょう。端的にいえば、魔王の命で、偵察に来たのです。私の魔力で、あたりのモンスターが逃げ出し、人々に気づかれてしまったのは計算外でしたが……」
「なるほど。じゃああのスライムも、偵察用ということですか?」
「そうです。私にはできない仕事、例えば町に侵入したりとかね。それをやらせているのです」
さっきから、ヴァルトは魔王軍の秘密情報をべらべらと喋っている。
まさか、殺すつもりじゃなかろうな?
「いえいえ、カンザキさん。私はあくまでも人間とは友好的に接したいと考えていますよ」
「っ!? ──心が、読まれ……」
「当然です。我々悪魔族の食すもの、それは人間の心です。心が読めなければ飢えて死んでしまいます」
ヴァルトによると、悪魔は人間の感情や、死後の魂を食って生きているらしい。
といっても、神々との契約で、魂は罪人のものしか食べてはいけないことになっているそう。
まあ、悪いことをしなければ、死後は安心できるということだ。
「さて。私があなたたちを探していたのは、とある理由からです」
「理由……。一体何ですか?」
「お恥ずかしいことですが……、スライムの飼い慣らしかたです」
「「はぁ?」」
ヴァルト曰く、この藍色のスライムたち、仕事は忠実にこなすのだが、休暇中に消えたり、変なものを食べてきたり、人間にちょっかいをかけたりと、なかなか統制が取れていないらしい。
そこに、オーガとの戦いで、スライムを使いこなして戦う女性(榎田だな)を見て、彼女に教えを乞おうとしたらしい。
「んー、彼女がスライムを使役できているのは、彼女の魔物使いという能力由来なので、厳しいかと……」
俺がそういうと、ヴァルトは残念そうに引き下がった。
「ふむ、そうですか。能力……。ということは転生者? いや、似た雰囲気のものがこんなに……。 っ、あの忌々しい老神め、また送り込んできたのか」
ヴァルトは、紳士っぽくなく悪態をつく。が、すぐ我に返った。
「おっと、お見苦しいところを、すみません。では、私はこれで。おっと、大事なことを忘れていました」
ヴァルトは、ひっくり返ってばたばたしているすまいむをつまみ上げると、右手の指先をすまいむに向ける。
「あ、ちょっと、藍色のスライムに変えようなんて、やめて下さいよ」
「ああいえ、違います。このスライムに、うちのスライムたちと敵対しないように魔法をかけるのです」
「まあ、それくらいならいいですけど……」
ヴァルトが古代語で呪文を唱えると、すまいむの周りに紫色のベールがかかり、消え去った。
「ふう、これでいいでしょう。ではさようなら。ああそれと皆さん、私のことをギルドに話すことはお勧めしませんよ」
ヴァルトは怪しげな目で呟き、飛び去っていった。
俺たちは、その後ギルドへ帰ってきた。
「お疲れ様でした。それで、何か収穫はありましたか?」
さて、どうしよう。冒険者として、話さないのは気が咎める。しかし、最後にヴァルトが残した言葉が気になるのだ。
「ええっとですね、まず獣道を列になって進む大量の藍色のスライムが……」
「あっ、ちょっと──」
止める間もなく、泊があらいざらいギルドの人に話していた。




