106.不思議な人たち
「……えーと、どちら様ですか?」
俺は初対面の人との会話が苦手だ。
異世界に来て多少は緩和されたが、やはり慣れないものだ。
仕事上仕方なくといったものでないなら、なおさらだ。
「私はエリー・テイラー、この町で冒険者をやっている者よ」
フードを被っていた時の印象とは裏腹に、その口調には自信が満ちていた。
「で、その冒険者さんが何か用です?」
「別に、何もないわよ。ただいい雰囲気の店を見つけて入ってみたら、あなたがいただけ。
今日も来たのも、ここの料理が気に入ったからよ」
金髪を指でいじくりながら、エリーは淡々と語る。
「それは、ありがたいことですね。これからもどうぞご愛顧のほどを」
店主も、店を褒められごきげんのようす。
今日も店内には誰もいないのに、エリーは俺の隣のカウンターに腰掛ける。
「ねえあなた、防衛隊の副隊長さんよね」
町で子供に話しかけられることも増えてきた、新進気鋭の副隊長でございますよ。
まあ、冒険者ならば顔や名前は知っていて当然か。
「見たところまだ12、3歳くらいよね。そんな若いのにすごいわ。
もしかしたら、数年もすれば王都行きかもしれないわね」
「まさか。そんな大した人間じゃないです」
「そんなに謙遜するものじゃないわ。自分に自信を持って」
先生みたいなことを言い出し始めたエリーをあしらいながら、料理を急いで平らげ、宿へ逃げ戻った。
「……てことがあってな」
「ふーん。で、そのエリーってやつは誰なんだ?」
「さあな。ま、怪しい人じゃなかっただけよかったよ」
エリーがうるさくてろくに休めなかったので、ロビーでその辺で買ってきたらしき弁当を堂々と食っている井川に、愚痴がてら相談することにした。
「そうか。ま、このことは忘れるのが1番だ。
……ん? これが欲しいのか? はいどうぞ」
井川が、物欲しげに弁当を眺め始めた小さい子供に、何かを渡そうとする。
お前も意外といい奴なんだな。
って……。
「お前、自分の嫌いなニンジン押し付けようとしてるだろ」
「うっ」
嫌がる井川の口に無理やりニンジンを押し込んだ後、俺はさっさかと眠った。
いつものようにギルドに向かう途中。
「あ、副隊長さんよ!」
「ねえ、早く行きなさいよ」
「え〜、無理だよ〜」
後ろが何やら騒がしい。
突然、「あのー……」と遠慮がちな声とともに、肩が叩かれた。
「誰です? 何の用ですか?」
振り返ると、目をキラキラさせた、同年齢くらいの女性が3人。
「大ファンなんです、サインください!」
「サイン? ……まあ、いいが」
色紙を受け取り、日本語で『かんざきしぐれ』と綴った。
「ん? これ、何て読むんですか?」
「俺の故郷の言語で、俺の名前だ」
「副隊長さんの故郷……。いつか、言ってみたいなぁ」
「行くなら自分で金を貯めることだな。
……ところで、エリーって奴、知ってるか?」
思いつきで聞いてみたのだが、女子たちは顔を見合わせた後、何やらキャーキャーと騒ぎ始める。
「エリーちゃんと何があったんですか?」
「いや、飯食ってたら会ってな。妙な奴だったんで、気になってたんだよ」
「あいつ、一人で抜け駆けしたな!」
「帰ってきたらとっちめてやる!」
「……って言ってたんで、気をつけた方がいいですよ」
「あ、ああ……。そう? ……何だか今の話だとあなたが火種を撒いていた気がするんだけど……」
エリーは、何だか知らんが大人びて見える。
あの女子たちが知っているということは、そこまで歳が離れているわけではなさそうだが。
「ちなみに、あなた何歳なんです?」
「25よ。あなたが言ってた子たちは、私の弟子ね」
フード被ってた時は子供っぽく見えたが、俺も観察眼を鍛えた方がいいかな。
「弟子? 武術か何かのか?」
「『カンザキさんを落とす会』っていうのがあって。そこでみんな切磋琢磨しながら頑張ってるのよ」
え? 俺どこから落とされんの? 崖?
「……っていうことがあってな」
「最近俺にばっか相談するなお前。
……うらやまし」
「何がだよ。いつ突き落とされるか分からない恐怖、味わったことないだろ」
「そういうことじゃねえんだよ。……まあいい、後ろに気をつけて過ごせよ」
「他人事みたいに言うなぁ」
やっぱり、最近俺の周囲で陰謀が渦巻いている気がするんだよなぁ。




