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1年C組異世界冒険譚  作者: 神埼時雨(仮)
第八章 北国
105/106

105.料亭にて

 魔女キルナの呪いを解除し、数日がたった。

 あれから、アルトに魔王軍が出現するといったこともなく、平和に日々が過ぎていった。

 北方諸国でも、キルナが出現した地域からは撤退したものの、まだ広い領域の支配権を維持できているそうだ。

 局所的な被害こそ大きかったものの、全体的に見れば我々人類の勝利と言えよう。


 さて、平和な状況に置かれると、刺激を求めるのが人の常。

 今日も今日とて、冒険者たちは性懲りも無くクエストに出かける。

「そっち行ったぞ! 魔法を撃て!」

「まだ詠唱が済んでない! 援護を頼む!」

「任せろ!」

 今日は、町の北側の開発に先立った、モンスター掃討。

 アルト近辺でも人類が勝利を収め、支配領域を広げた。

 おかげでこの辺りの安全性がぐっと高まり、移住者がさらに増えているのだ。

 すでに城壁の外側には住宅が建ち並び始めており、北側にも空間を広げる必要が出てきたということだ。


 しかし、町の北側は、サレン川の支流がいくつも流れており、地盤がゆるい。

 歩いたりする分には何も感じられないが、建造物を建てるとなると、地盤沈下の危険性が出てくる。

 さらに、湿地帯に住むモンスターも多く生息しており、これまた厄介だ。

 もっとも、すでに冒険者たちの経験値稼ぎ場になってはいたが。


「……地獄炎(インフェルノ)!」

 おっと、誰かが魔法を撃ったようだ。

 先ほどまで衛士(プロテクター)相手に攻めあぐねていた巨大カエルが、跡形もなく消え去った。

 だが、その轟音に、草むらに隠れていたホーンラビットの群れが怒り、魔術師(ウィザード)たちに襲いかかる。

「雑魚敵じゃねえか。ほい、かんたんかんたん」

 哀れな小動物たちは、もれなく剣士(ソードマン)たちの経験値になった。


 こうしてみると、誰も指示を出していないのに、勝手にまとまって協力していることがわかる。

 成長したもんだなぁ。

「副隊長。副隊長! ボケっと立ってないで戦闘に参加してください。それか向こうで地盤に杭を打つのを手伝ってください」

「あぁすまない。『火炎旋風』!!」

 まとまって巨大になりかけていたスライムを焼き払う。


 日が暮れる前には、辺り一帯のモンスターを全滅させ、仮の結界を張るのに成功した。

 もっとも、この辺りはモンスターも少ないから、湿地帯にいた分を全滅させた今、しばらくは何も現れないだろう。

 俺たちは、結界を維持する少人数を残して、アルトに帰還した。


「んー、やっぱりここの白身魚はうまいな。しかし一体どうやってこんな内陸に魚を?」

「お客さん、それナマズですよ」

「げ!?」

 夜のギルドは、酔っ払いや面倒な奴が屯していて少々居心地が悪い。

 ここは、俺が最近見つけた、隠れ名店。

 良心的な価格だし、味付けも淡白で良い。

 それに、サービスの紅茶もまた絶品なのだ。


「それにしても、よくこんな価格と品質を維持できてますね。割に合わないでしょう」

「いや、昼はお子様連れの方がたくさんお見えになりますし、朝はモーニングセットをやっているので、この辺の商店の方がよく利用なさってますね。夜にはあまりお客様が見えないのですが、あなたも珍しいことをなさる」

 そうなのか。

 今度朝来てみよ。


 その時、チリンとドアの上のチャイムが鳴り、誰かが入ってきた。

 フードを被り、うつむきがちなため、その顔を見ることは叶わなかった。

 俺とは最も離れた右端に座ると、メニューを見て、何かボソボソと店主に告げると、水を一口。

「お客さん、どうしました? 元気なさそうですね。

 よし、一品サービスしましょう。春野菜と豚肉のソテーとか、いいんじゃないですか?」

 店主が愛想良く笑いかけると、その人は何やらボソボソと。


「……そうですか。

 お客さん、あちらのお客さんからです」

「え? 俺?」

「はい。小声で『あの人にあげてください』と」

「変な人もいるもんだな。まあ、ありがたくいただきます」

 この場合、誰がお金を払うのか、いやサービスって言ってたし誰も払わないのかなとか考えつつ、春キャベツを口に運んだ。

 ……あ、隠れ名メニューだこれ。美味しい。



「……てことがあってな。あれ誰だったんだ?」

「ふーん。何か特徴とか覚えてないか?」

「赤茶色の服を着てたな。あと、体格や声色的に俺たちくらいの女性。

 あ、腰に魔術師(ウィザード)の杖を提げてたな」

「……それだけじゃ分かんねえな」

「だろうな」

 井川に相談してみたが、大した結果は得られなかった。


「……お前は知ってるか?」

「ひえっ!? ……んーと、さあ……。わかんない」

「まあ、だろうと思った。

 ……ついでに聞くか。キルナに眠らされてた時、お前──」

「あ、用事おもいだした! ばいばい!」

「おい!」

 妙に忙しそうな三城からも、大した情報は得られなかった。


「……だとすると、スパイか何かかの可能性もあるよな。こっちの気を引く作戦か?」

「そりゃないと思いますよ、お客さん。ところで、今日の一品はどうです?」

「ああ、貝の風味がよく効いたパスタで、とても美味しいです。

 ……ところで、貝はどこから仕入れたんですか? まさか……」

「それはタニシですね」

 ここはそういう料理しか取り扱ってないのかよ。


 チャイムの音。

 ガバッと振り返ると、果たしてそこにはフードの人物。

「こんばんは、昨日ぶりですね。

 ……さあ、聞こうではないか。あなたの正体を」

 フードの人物は動揺したかのように震えると、手をそろそろとフードの縁へ持っていく。

 そして、覚悟したかのように一気に後ろにやった。

「……誰?」

 そこには、見たことも聞いたことも食べたこともない、謎の金髪の女がいた。

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