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1年C組異世界冒険譚  作者: 神埼時雨(仮)
第八章 北国
104/106

104.神埼流目覚まし術

「では……」

 俺は眠っている三城の体のそばに歩み寄ると。

「え? ちょっと待って、なんで杖を構えてるの?」

 魔術師(ウィザード)の無二の相棒たる杖を構え。

「悪魔よ、我が杖に宿りて、この者を苦しめよ。さすれば、汝に至高の晩餐をやろう……」

「あ、悪魔!? あんた何する気なの!?」

 最近はレベルも上がり、魔法の解析なんてものもできるようになってきた。

 霊術師(ネクロマンサー)である平城山をさんざんいじくり回したことで、召喚術の類も少しは扱えるようになってきたのだ。

 降臨させれば、あとは契約を結び、平穏のままに送り返すことができる。


「出でよ、戦慄の悪夢(ナイトメア)!」

 叫ぶと同時に、杖が暗い紫色に染まり、右腕に焼けるような痛みが走る。

 さらに、脳内に直接語りかけてくるような声。

 (召喚、感謝いたします。我が名はベリアル、あなた様の忠実なしもべ。もっとも、それも契約の終わるまでですがね)

 周りの人々が青ざめて後ずさるのを見るに、悪魔ベリアルの姿は皆にも見えているようだ。


「そうか。ならば契約だ。

 お前たち悪魔は、人の悪感情を食するのだろう? 俺たちは今、こいつを目覚めさせるのに腐心している。お前の力で、こいつの夢に入り込み、悪夢に変えてくれ。その時に生じる悪感情が対価だ」

 (なるほど。最近では悪魔を召喚する者も珍しい。喜んで引き受けましょう)

 ベリアルは、そう言うとたちまち消え去った。


 そういえば、あの森の悪魔ヴァルトは、普通に存在していた。

 地面に激突したりしていたから、実体がないわけではない。

 やはり、魔王らが受肉させたのだろうか?

 ベリアルには、実体がなかった。

 人の夢の世界に侵入できるのが、その証拠だ。

 もし人柄(悪魔柄?)がよければ、受肉させて、手下として雇ってもいいかもしれないな。


「うっ、ああ!」

 呻き声に我に返ると、さっきまで穏やかだった寝顔は、苦痛に歪んだものになっていた。

 この調子なら、まもなく目覚めるだろう。

「あんたねぇ、いつのまに悪魔なんか呼び出せるようになったのよ」

「知らんよ。ステータス見てみたら『召喚術』って書いてあったから、使ってみたんだよ」

「心も体もどんどん人間離れしていくわね……。そろそろ気をつけないと、いつの間にか魔王になってたりするかもしれないわよ」

「つうか、あの場面であれは酷すぎるだろ。全男子を馬鹿にしてる」

「あいつが起きて、お前何されても助けないぞ」

 なんだか周りの人々から次々と罵倒されるのだが。


「……や、やめて。何でこんなことするの……」

「おい、泣いてるぞ。お前の悪魔、一体何やってるんだよ」

「俺にも分かんないかな。帰ってきたら聞いてみるか」

「いえ、その必要はないです。私が視てみましょう」

 占い師が、水晶玉を覗き込む。

「おや、悪魔がこの方と戦っています。あなた死んでますね」

 え、俺殺されたの?

「この方は、あなたが殺されたことに怒っているようです。

 あ、あれ? 悪魔が倒されましたよ!」

 え、悪魔死んだの?


「あ、この方、水面を見つめて……。あっ、飛び込みました!」

 え!? 入水自殺!?

「夢で死んだらこちらに帰ってくるので、丁度よかったですね」

 医者がニコリと微笑む。

 確かに、向こうで死んだ青い顔のベリアルが、鼻の穴から這い出してきた。


 (何だあいつ、どうやって我に攻撃を加えた!? 我に実態はないはずなのに……)

「まあ、夢の中だから、現実世界とは違うんだろ。

 どうだ? 悪感情は美味かったか?」

 (それはそれは美味でしたが……。

  しかし、起こすことに失敗したのに対価を受け取っていては、いささか気が引けるのです)

「まあ構わんよ。もうすぐ起きるだろうし。じゃあな」

 (寛大なお方、感謝いたします。それでは)

 ベリアルの影は消え去り、二度と気配を感じることはなかった。


「はっ! ……ここは?」

 布団をはねのけ、体を勢いよく起こす三城。

「なるほど、悪魔を使う方法は思いもよりませんでした。これは、貴重なデータになりますな」

 医者が嬉々として何やらメモし始める。

「チッ、あいつの作戦が上手くいかなければ、貴重なキスシーン拝めたのに。

 神埼ぃ! 許さんぞ!」

 玖珠田がいつになく怒っている。


「しーちゃん、死んじゃった……」

 三城はうつむき、嗚咽を漏らし始める。

「いや俺生きてるが。あれは全部夢の中の話だから、全部嘘だぞ。悪魔を送り込んだのも俺だから」

 あ、しまった。これは言わないほうが良かったか?

「え……?」

 三城はこちらに目をやり、俺と認めると目を見開いた。


「ひっ、よ、よかったぁ……。

 あれ? もしかして、私がみてた夢ぜんぶ知ってる……?」

「もちろん。そこの占い師が全て教えてくれぐあっ!?」

 突然、三城は飛び上がった。

 三城の頭が腹に激突する痛みに力が抜け、なすすべなく後ろに倒れ込む。


「あ、危ない!」

 三城は、慌てて俺の後ろに回り込む。

 小さな体躯が功を奏し、ゆっくりと倒れつつある俺の体を支えられる位置に、あっという間に動いた。

 後ろから2本の腕が伸び、俺の体を抱きつくようにして包み込む。

 頭をぶつけて死亡は回避できそうだ。


 後ろから、ゴッと重い音が響く。

 あ、この体勢だと三城が死ぬか。

「まり、まりー!?」

 俺は40キロないからそこまで重荷にはならないと思うが、その状態で地面に落下となると話が変わる。

 俺は慌てて飛びのき、まだ痛む腹を抑えながら後ろを振り返る。


「ふぇ……」

 玖珠田の回復魔法ですぐに目を覚ました三城は、もう回復してるはずなのに、まだ赤い顔でうつむいていた。

「もう一回魔法かけておけ。なんかまだ頭押さえてるから」

「あんたねぇ……」

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