103.王子様作戦
魔女キルナの襲撃から、4日が経った。
本気でやると言った割には、あれから再度の襲撃はない。
魔王軍幹部の襲来ということで、公国の最高戦力が派遣されたが、彼らも暇を持て余している。
ただ、夢に出てきた彼らや、他の冒険者たちの一部は、未だ目覚めていない。
「これ以上、アルト防衛隊の皆さんに迷惑をかけるわけにはいきません。もう帰っていただいて結構でございます」
「そんな、迷惑だなんて。
……しかし、まだ目覚めていない34人に関しては、何か対策を講じなければなりませんし、アルトに戻って診てもらった方がいいかもしれませんね」
ということで、ここにいるアルト防衛隊234人は、帰郷の途についた。
「……これは、王国で1番の術師でも解除できないほどに強力な催眠魔法ですね。時間が経てば経つほどに強化され、もはや本人の意思がない限り、目覚めることはありません。
唯一の救いは、空気中からの魔力を循環させて生命機能を維持できることくらいでしょうか」
どうも、我々人類は、呼吸と同じように、空気から魔力を得ているらしい。
催眠状態では代謝が大きく減少するため、魔力だけで生命活動ができるのだそう。
「つまり、本人たちが目覚める気になるのを待つしかないということですか?」
「ええ。それ以外の方法では、たとえ耳元で爆発魔法を使っても目覚めません。
……ただ、やってみる価値のある方法は一つだけあります」
「……それは、一体?」
「外部からのアプローチが全く効かないわけではありません。
何か、本人の心の根幹に位置するような重大な出来事を感知すれば、ショックで目が覚めるかも」
「つまり、目の前で親友を殺せばいいと?」
「ち、違います! むしろ、それでは無意識に起きることを心が拒み、かえって目覚めませんよ。そういう意味ではなくてですね……。
この魔法は、本人にとっての快楽を見せます。ですから、現実世界でも同じような体験をさせれば、自然とこちらに引き戻されるのでは、と……」
それから色々と聞き、彼らを目覚めさせる作戦がたてられた。
要するに、「王子さまのキス」作戦。
占い師や霊能者をかき集め、見ている夢を確認する。
そしてそれに準ずることをこちらで行い、夢と現実世界を混同させ、こちらに引き戻す。
作戦が決まれば、さっそく占い師が集められた。
そこからは、苦難の連続であった。
本物そっくりのメッキ金貨を山のように用意し、笹川をその中に沈めてみたり。
泊の傍にモンスターの死骸を積み上げ、剣を高々と掲げさせてみたり。
さすがに、コンビニスイーツっぽいやつを作るのには苦労した。
だが、苦労の甲斐あって、皆は次々と目を覚ました。
「これで億万長者だ! ……え? 偽物?」
少しでも利益を得ようと、金貨の表面を削っている笹川。
井川に慰められ、二人でモンスター討伐に出かけていった。
「さて。最後の関門だな」
この世界に、シリアス系の展開はほぼなかった。
一般人はよくお亡くなりになるが、あの年寄り神さまが幸せにしてくれるだろう。
いつでも最後はハッピーエンド。
俺を監禁したニセ貴族は爆殺され、仲間を裏切った者たちは死刑寸前まで追い詰められた。
街の平和を脅かすタコは討伐され、園児たちを危険に晒す頭のおかしい高位魔術師は杖を取り上げられた(泣)。
とまあ、正しいものは報われ、悪人は相応の罰を受けるのが、これまでの基本だったわけだ。
「……本当に、やらなきゃだめか?」
「「はい」」
「……どうしてもか?」
「「もちろん」」
「……やらなくていい道は……」
「「ない」」
俺は、大して悪いことしてないのに、かつてないほどの苦行に耐えねばならんようだ。
ことの発端はだな。
「……誰かと2人きりで浜辺を歩いていますね。なんかいい雰囲気です」
初めは、よくある色恋話だと思った。
「じゃ、相手を連れてくれば解決ですね」
「ちょっと待ってください、ベンチに腰掛けました。
あっ、あっ、あーー! やりましたよ! この方やりましたよ!」
若い女の占い師が、顔を真っ赤にして水晶玉から目を背け始めた。
「キスしてます! こんな若いくせに、そんな夢を見やがって、許しませんよ!」
「彼女、もうすぐ30なのに彼氏ができないんで、リア充が大嫌いなんです。
はいはい、行き遅れを気にしてないで、とりあえず相手が誰かだけ確認してください」
横にいた助手の若い男にツッコミを入れられ、女はむくれながら、再び水晶玉を覗く。
「ん? この方、どこかで見たような……。
ああ、新聞に載っていた方です」
有名人か。お前そういう人が好きな系だったんだ。
「確か、国内最年少でギルドの要職に就いた、新進気鋭の魔術師でしたっけ……」
……あれ?
「ああ、確か最近、魔王軍幹部ロンメルを倒したと、話題になっていましたね」
あれあれ?
「でも、つい最近見た気が……。
あ、あなたですね。ちゃっちゃと済ませちゃってください」
嫉妬で顔を紅潮させながら、女占い師はこちらに指をさした。
「え、嫌──」
「じゃ、見てる夢も分かったことだし、ちゃちゃっと叶えて目覚めさせましょう!
さあさあ!」
いつのまにか玖珠田に背後を取られ、なすすべなく引きずられていく可哀想な俺。
誰か助けてぇ……。




