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1年C組異世界冒険譚  作者: 神埼時雨(仮)
第八章 北国
101/106

101.白い悪夢

 進軍は停止し、1週間ほど敵情を伺ったのちに、俺たちは帰還する手はずとなった。

 今日は、国境守備の2日目。

 よく冷えた肉や野菜を焼いたり茹でたりと、とても文化的な食事をとった後は、各自の持ち場について見張りにあたる。

 まあ、何も来ないだろうが。


「アルトに帰ったら、まずはあの店でご飯を食べたいなぁ」

 野口が剣を地面に置き、のんびりと呟く。

「俺は冒険だな。やっぱりあの森は試練の予感がするよ」

「それはシャレにならんからやめとけ」

 井川が物騒なことを言い出したので、慌てて止める。

 あの恐ろしき悪魔ヴァルトともう一度戦いたいのかよ。


 いちおう戦争の最前線だというのに、敵の攻めてくる気配はおろか、他のモンスターすら現れない。

 砂漠には砂竜(ザントドラゴン)やらアリジゴクやら、危険なモンスターが多いと聞いたが。

 アリジゴクって人間にとって危険だっけ?

 いや、異世界のアリジゴクはそれはそれは巨大なやつなのでは?

 アリジゴクの人間に対する脅威についての真剣な脳内議論を始めようとした時。


 突然、背中を戦慄が走った。

 別に、危険なモンスターを見つけたからではない。

「寒っ!」

「何でいきなりこんな寒くなったんだよ。ここは砂漠じゃねえのか」

 気温は、体感では1ヶ月前くらいまで下がった。

 今もなお下がり続けている。


「おい、みんな警戒しろ! 氷や冷気を操るモンスターの可能性がある」

 俺は皆に呼びかける。

 野口は剣を砂から引き抜き、井川は杖を構えて魔法の詠唱を始める。

 皮膚を焼く日差しは、いつの間にか吹雪と化していた。


 地響きが体の芯を揺らす。

「象車の周りに集まれ! 吹雪で視界が遮られれば、連携ができなくなる!」

 俺は言葉と共に象車に向かって走る。

 まもなく、象車を囲むように、もう1000人以下に減った冒険者と騎兵隊の全員が集まった。

「いない者はいないか!」

「うちのパーティーは全員いるよ!」

「俺んとこもだ!」

「騎兵隊、全員の生存を確認しました!」

 よし、ひとまずの犠牲は防いだ。


「理由は分からんが、とにかく今は体温の低下を防げ! 隣の奴に抱きついても構わん、命を最優先に行動しろ!」

 俺は手近な空間に『火炎旋風』を放つ。

 こちらの居場所を知らせることにはなるが、この開けた砂漠ならば、すでに位置は割れているだろうし、温度を上げる方が優先だ。

 もう皆の声も、吹雪に切り裂かれる。


「全てを凍てつかせよ、氷結弾(フリーズ・ショット)!!」

 小さいが力強い声がしたかと思うと、遠くに幾十、いや百を超える青色の光球が浮かび上がる。

 同時に、周りの空気が明らかに変わる。

 何というか、空気が光球に向かって流れていく。

 ただ、明らかにヤバいものだということは分かる。

「防げぇーーーっ!! 何としてでもな!!

 ……隠遁(シャドウルーク)!」

 少々小狡いかもしれないが、俺は周りの冒険者たちに触れながら、魔法を発動させる。

 触れていれば同時に適用されるから、この人たちも安全だ。


 地響きと悲鳴が、頭上を飛びかう。

「おい、一体何が起こってるんだ?」

 井川が不安げに、声を震わせて呟く。

「分からん、ただかなり上級の氷魔法だな。もしかしたら、今頃上の奴らは氷漬けにされてるかもしれん」

 俺の言葉に、井川はひえっと声を漏らした。

 音が止んだ後、俺は地面に出る。

 周りを見渡すと、そこには……。


 幾筋もの氷の柱。

 その一本一本の中から、苦痛に歪んだ冒険者たちの顔が覗く。

 予想通り、物を凍り付かせる魔法ということか。

 その時、右の頬を何かが掠める。

 数瞬、激痛が顔全体に広がった。

 痛みに悶えながら、俺はうずくまる。

 傷口を抑えた手の隙間から、血がとめどなく滴る。

「だ、大丈夫か! ヒール!」

 氷の柱の裏に隠れていた清水が、傷を癒す。


「で、今の斬撃は何だったんだ……っ!」

 さっきより、氷の柱の高さが明らかに低い。

 そして、地面に転がっている短い柱。

 そこから導き出される答えは。

「……全部……斬られた……のか?」

 慌てて後ろを振り返る。


 

「あなたたちが、私たちの仲間を散々いじめてくれた、アルト防衛隊ね。

 魔王軍第二星、尖氷の魔女(アイシクル・ウィッチ)キルナの名のもとに、あなたたちを始末する」

 こちらに右手をまっすぐ伸ばし、周囲を常に警戒した油断ない立ち姿でこちらに青い眼差しを向ける、純白のマントを翻らせた女が立っていた。

「第二星……魔王軍幹部ってことじゃねえか!」

「幹部? まあそうだけど、私は他の雑魚どもとは違う。

 へードルやアザリエル、ロンメルごときを倒したくらいで、いい気になるんじゃないことね」

 こいつは魔王の一個下、あるいは魔王の下が第一星として、魔王軍で3番目の強さ。

 これだけ言うということは、これまでの敵とは桁違いなのだろう。


「……つうか、この辺にいるのは修道士(プリースト)っぽい奴じゃなかったのかよ。何でこんな魔女そのものがいるんだよ」

 率直な疑問を投げかけると、キルナは思案した後、吐き捨てるように言う。

「修道士? ……ああ、あの雑魚ファナトのことね。

 あいつなら、ついさっきアンデレアの方で死んだらしいわよ。第五星くらいで調子に乗るからね」

 死んだ? なら、もう魔王軍は幹部を4人失い、壊滅寸前?

 いや、落ち着いたキルナの様子を見るに、第三星以下の幹部の実力はそこまでなのだろう。

 というか、さっきまでの会話でラプラスが第一星なのがほぼ確定した。

 だってあいつ雰囲気が段違いだったもん。


「まあ、今までは油断されてたのかもしれないけど、私は本気でいくわ。

 下らないおしゃべりはここまで。後は交渉は通じないと思いなさい。

 ……純白(ヴァルコイ)(スタ・)悪夢(ナイトメア)

 視界が、一気にホワイトアウトした。

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